ジャンル、年代の垣根を超えて作品を展示する回遊型の展覧会! 「声」を聞くことで結ぶ、滋賀県立美術館のリニューアル記念展「ボイスオーバー 回って遊ぶ声」

ジャンル、年代の垣根を超えて作品を展示する回遊型の展覧会! 「声」を聞くことで結ぶ、滋賀県立美術館のリニューアル記念展「ボイスオーバー 回って遊ぶ声」

1984年8月に、滋賀県内唯一の公立美術館として開館した「滋賀県立近代美術館」。改修工事のため、2017年4月からの約4年間の休館を経て、2021年6月、名称を新たに「滋賀県立美術館」としてリニューアルオープンしました。

滋賀県立美術館外観

滋賀県立美術館館長でありディレクターの保坂健二朗氏が掲げる「リビングルームのような美術館」というコンセプト通り、公園の中にあるため親子連れが多く、小さなお子さんがいるご家庭に嬉しいキッズスペースを完備しています。ウェルカムゾーンと名付けられたエントランスロビーには休憩スペースがあり、飲食可能で持ち込みもOKなので、気負いなく美術館に足を運べます。また、株式会社 木の家専門店 谷口工務店の寄附によって、2022年3月27日(日)まで、毎週日曜日の常設展示観覧が無料になるとのこと。ぜひ、この機会に訪れてみたいものです。

エントランスにある休憩スペースエントランスには売店も

そんな滋賀県立美術館のリニューアルオープンを記念して、2021年11月14日(日)まで「ボイスオーバー 回って遊ぶ声」展が開催中です。これは、本館が所蔵する作品約1800件から選りすぐりの作品を中心とする167件を、ジャンルや年代の別なく紹介するもの。出品作家として、イケムラレイコ、アンディ・ウォーホル、小倉遊亀、河原温、草間彌生、志村ふくみ、白髪一雄、アンリ・マティス、冨田渓仙、マーク・ロスコなど、見応え十分。回廊によっていくつもの展示室が繋がれているこの美術館全体を使って開催する、回遊式の展覧会です。

本展では「作品をよく観ることは、作品の「声」を聞くことと似ている」としています。その声に耳を澄ますと、思いもよらない作品同士の繋がりが聞こえてくるかもしれません。例えば、日付が淡々と描かれた絵画と、とげのある生き物のような陶の作品。室町時代の近江の風景と、オセアニアの楽園。このように、これまで本館で同じ部屋で展示されることがほとんどなかった、日本画、郷土美術、現代美術、アール・ブリュットといった4分野のコレクションを「声」を聞くことで結んでいます。さらに、本展には3組のゲストアーティスト、田村友一郎、中尾美園、建築家ユニットのドットアーキテクツも参加。彼らは、声の聞き方はそれぞれであることを軽やかに示しています。

本展覧会のタイトル「ボイスオーバー」とは、映画などの画面に現れない話者の声を、あるいは元の音声言語に翻訳したもう一つの音声を重ねるナレーションの手法を指す言葉です。こうした声の重ね方は、作品を長く保存し展示する過程で、少しずつ新しい意味を見つけて加えていく、美術館の役割そのものともリンクします。「美術館とは、作品とそれを観る私たちの声が交わり、調和するのではなく、むしろ鳴り響く場所だ」という考えが本展の根底にあります。

次に、展覧会の中身をみていきましょう!

本展は、「第1章 美術館の産声―小倉遊亀と滋賀県立近代美術館」、「第2章 いくつもの風景」、「第3章 日々つくる」、「第4章 自分だけの世界」、「第5章 交差する線」、「第6章 見えるものの先に」といった6つのテーマと、ゲストアーティストの田村友一郎、中尾美園、ドットアーキテクツの作品群から構成されます。今回は、中でもおすすめのセクションを5つご紹介します。

 

第1章 美術館の産声―小倉遊亀と滋賀県立近代美術館

1979年、滋賀県に新しい美術館を建てようという計画が県教育委員会で話し合われました。同年2月に滋賀県文化賞を受賞した大津出身の画家・小倉遊亀は、自身が手元に残していた作品を新しい美術館のために寄贈したいと申し出ます。そして1980年、22件の作品が滋賀県に無事寄贈され、これが滋賀県立近代美術館の出発点となりました。新しい美術館に向けて遊亀は、「私の分身である作品が、ふるさとの美術館に飾ってもらえるのは幸せです。煌びやかでなくてもいい。訪れて楽しい美術館になることを祈っています」と語りました。本展は、美術館の産声とも言えるこの22件の作品から始まります。

また、遊亀の自画像《画人像》と、「第2章 いくつもの風景」の展示室の対面に、遊亀の師匠である安田靫彦の作品《飛鳥の春の額田王》が飾ってあり、学芸員のちょっとした遊び心が感じられます。その点にもぜひ注目してみてください。

第4章 自分だけの世界

「最も個人的なことが、最も創造的である」―ある映画監督が残したとされる言葉です。この言葉はもちろん造形美術の世界にも当てはまるでしょう。理想の家族のあり方を赤鉛筆で書き続けた小幡正雄。ニューヨークの街や、様々な印刷物から拾い集めたイメージの断片を、小さな箱の中に閉じ込めて宇宙を作りだしたジョセフ・コーネル。加納光於の抽象的なイメージ群は、現れては消えていく彼の幻影を捉えています。絡みつく不思議な生き物をもろともせず、「わたし」の内なる声を聞き、対話を続けるイケムラレイコや、湧き出る物語世界を気の遠くなるような線で刻んだ坂上チユキ。作品たちは、わたしたちの中にある密やかで大切な世界を、様々なかたちで肯定してくれるようです。


 

第6章 見えるものの先に

作品は目に見える以上の何かを伝えます。対象を執拗なまでに観察し、皮膚の奥の深部までをも炙りださんとする速水御舟の眼は、私たちを驚嘆させるほどの迫力に満ちています。登山を好んだ山元春挙は、雄大な山々、轟々と流れる滝の姿を、北方ロマン主義にも通じる崇高さとともに捉えます。見えない世界を描くという試みは、ユダヤ人としてのアイデンティティや信仰心を、強い求心性のある抽象絵画に託したマーク・ロスコと、色価や屈折率の異なる黒色をくみ合わせ、十字架を浮かびあがらせるアド・ラインハートの作品にも顕著です。比叡山延暦寺で修行した白髪一雄の作品には、密教の教えが横たわります。その観点から、本展では白髪の《不動尊》と、同寺が管理する重要文化財《不動明王二童子立像》(玉蓮院蔵)を、同じ空間で展示。時空を超えた両者の対話を、ぜひ感じ取ってください。

白髪一雄の《不動尊》と、重要文化財《不動明王二童子立像》(玉蓮院蔵)

■田村友一郎/アンディ・ウォーホル

緻密かつ大胆なサーチを軸に、重層的な景色を立ち上げていく田村友一郎(1977年生まれ)は、今回20世紀を代表する作家、アンディ・ウォーホルの代表作《マリリン》と《電気椅子》に着目しました。ウォーホルが「僕がやってきた芸術は、全部死だったって気づいたんだよ」と語るように、この二つ作品はそれぞれ、女優マリリン・モンローと電気椅子による処刑制度を契機に制作されたものです。田村は両作品のイメージそのもの、つまりマリリンと電気椅子自体から様々な因果関係を見出しました。その一つ、アメリカ合衆国とカナダの国境をまたぐ「ナイアガラの滝」を起点として、《マリリン》と《電気椅子》が時間軸を超えて交錯します。

休憩スペース「ソファのある部屋」には、人を癒やす「電気椅子」であるマッサージチェアが置いてあります。実際に使用できるので、ぜひ座ってみて、マッサージチェアを起動させてみてください。

■中尾美園/小倉遊亀

「うつす」行為を通じ、消えゆくものの価値に光を当てる中尾美園(1980年生まれ)。中尾が今回向き合うのは、本館設立のきっかけとなった画家・小倉遊亀です。本館に関する作品や作家、関係資料を丁寧に調査していった中尾は、ホテル火災によって消失した《裸婦》(1954年、1964年焼失)という作品の存在を知ります。本作は本館の所蔵品ではありませんが、戦後に遊亀が取り組んだ日本画による大胆な女性表現の展開を考察するうえで、欠かすことのできない作品です。作家であり、同時に保存修復を学んだバックグラウンドを持つ中尾は、絵筆で《裸婦》に向き合うことで、失われた作品の声を拾い上げていきます。調査の際に発見された、遊亀の《「裸婦」大下絵》も合わせて展示されています。

「本展が、皆さんと作品の「声」とが重なる、豊かな雑踏となりますように」と、本展を担当した学芸員の渡辺亜由美氏は述べています。また、保坂健二朗館長は「美術館が全館を使ってコレクションに基づいた展覧会を開催するとき、複数のキュレーターからなるチームを組むのが普通かもしれません。しかし、今回は一人のキュレーターが担当しています。それは、ライブでのコール&レスポンスがそうであるように、呼びかけの声をはっきりさせたほうが、皆様からの声も(たとえ小さな声であれ)出しやすくなるのではないかと期待したからです。ぜひ、叱咤激励含めて、様々な声を、つぶやきを、いろんな空間に向けて響かせてください」と語っています。

ぜひ、会場に足を運んで、それぞれの作品が発する声を感じ取って、自身の内側から湧き上がる声とともに、作品の世界観を楽しんでみてはいかがでしょうか。


■滋賀県立美術館
時 間:9:30~17:00
*入館は16:30まで
休 館:月曜日
*祝日の場合は開館し、翌日が休館
料 金:一般/1200円(団体1000円)
    高校・大学生/800円(団体600円)
    小学生・中学生600円(団体450円)
*身体障害者手帳等をお持ちの方は無料
URL:https://www.shigamuseum.jp/

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