4年ぶりに「滋賀県立美術館」がリニューアルオープン! オープニング展として「Soft Territory かかわりのあわい」と「ひらけ!温故知新」の2つの展覧会を開催

4年ぶりに「滋賀県立美術館」がリニューアルオープン! オープニング展として「Soft Territory かかわりのあわい」と「ひらけ!温故知新」の2つの展覧会を開催

1984年に、滋賀県内唯一の公立美術館として開館した「滋賀県立近代美術館」。改修工事のため、2017年からの約4年間の休館を経て、2021年6月27日、名称を新たに「滋賀県立美術館」としてリニューアルオープンしました。

滋賀県立美術館外観


「滋賀県立美術館は、公園という公共空間の中にある公立施設。1984年に本館の館長だった上原恵美氏は、その当時『県民の応接間』というコンセプトを掲げていたが、2021年の今、美術館は着飾る必要はなく、リビングルームのような美術館として、ぜひくつろいでいただきたい。公園の中にあるので、親子連れが多いため、キッズスペースを完備。ウェルカムゾーンと名付けたエントランスロビーでは飲食が可能で、持ち込みもOK」と、滋賀県立美術館館長でありディレクターの保坂健二朗氏が述べているように、小さなお子さん連れの来場者に優しい美術館となっています。

エントランスには、滋賀県甲賀のフラワーショップ「ハナノエン」野田幸江氏による生け込みが、皆さんをお出迎えエントランスロビーには、カフェ&ショップ「Kolmio in the museum」を設置ショップでは、河野愛氏とのコラボ真珠のアクセサリーとスカーフも登場シンプルで広いエントランスにはソファが設置されており、くつろげる空間にみんなに優しく使いやすい「ファミリールーム」館内のサインは信楽焼で作られ、デザインは大阪のデザインスタジオ「UMA / design farm」が担当薄い水色を基調にした明るい印象の「キッズスペース」

リニューアルオープニング展として、企画展「Soft Territory かかわりのあわい」(2021年6月27日―8月22日)と、常設展「ひらけ!温故知新」(2021年6月27日―8月22日)の2展示を開催中。

「Soft Territory かかわりのあわい」は、コロナ禍において大きな変化にさらされている人と人との関わり、「コミュニケーション」をテーマにした展覧会。

企画展「Soft Territory かかわりのあわい」
「テリトリーとは、生き物のなわばりのこと。私たち人間の世界では、国家間の戦争、地域間の紛争、家と家、家の中での諍いなど、テリトリーを守ろうとするあまり、自分のつながりに含まれないものを排除しようとすることも。さらに新型コロナウイルスの感染拡大が、人と人とのつながりを分断し、かかわり方の形を変えてしまった結果、これまでとは異なるテリトリーの姿が生み出されつつある。そんな今だからこそ、テリトリーについて改めて考えてみたいと思った」と学芸員の荒井保洋氏は語っています。また「色々と変わっていく日々、どういったメッセージを伝えられるのか。新たなものと出会っていく楽しさを、もう一度皆さんと考えたい」とコメント。

(左から)学芸員の荒井保洋氏、滋賀県立美術館館長、ディレクターの保坂健二朗氏、学芸員の大原由佳子氏


本企画展では、休館中に長浜市黒壁スクエア、高島市泰山寺野、東近江市能登川で開催した「滋賀近美アートスポットプロジェクト」の参加作家である、石黒健一、井上唯、河野愛、小宮太郎、武田梨沙、藤永覚耶、藤野裕美子、薬師川千晴、度會保浩といった9名と、新たに参加した松延総司、西川礼華、井上裕加里といった3名の計12名の、滋賀にゆかりのある若手作家が、テーマに基づいた作品を、美術館全体を使って表現しています。ガラスや写真、漁網など、枠にとらわれない様々な素材、表現が展開されており、すべて今回のために制作、あるいは再構成された新作という、リニューアルオープン展としては珍しい展示となっています。


会場に入って、真っ先に目に飛びこんでくるのは、度會氏のステンドガラスの立体的な作品。

企画展「Soft Territory かかわりのあわい」の展示風景より度會保浩の作品


型板ガラスを仕立て直し、再構築した《庭》のシリーズの構想は、型板ガラスの収集を始めたことが起点になっているといいます。また、粘土に押し付けたレースのカーテンの模様をガラスにうつし、窓の並ぶ風景を表した《境界の景色》は印象的な作品で、いつまでも眺めていたくなります。

境界の向こう側にあるもの、境界を超えていくイメージを持っています。


藤永氏の作品《Tranist》シリーズは、スライスされた木の丸太の片面に、図像を3色のインクで何度も刷っています。そのインクは毛細管現象によって、木の内部を通過し、反対側に無数の色となって「像」を浮かび上がらせています。「色を通して、時間と向き合いたい」と作家は述べています。

企画展「Soft Territory かかわりのあわい」の展示風景より藤永覚耶の作品


河野氏の作品タイトル《こともの foreign object》とは、「異物/異者」の古語。真珠は貝の中に「異物」が入る、もしくは人工的の入れることで、それを包むように結晶が何千層も作られて出来上がります。そんな真珠を、2019年に作者が出産し、乳児とコロナという「得体の知れないもの」に取り囲まれた生活が始まったことと合わせて表現。母体と異者(乳児・胎児)、貝と異物(真珠)のかかわり、そして異者(乳児)が異物(真珠)を生み出したかのような循環を、インスタレーションとして展開しています。

企画展「Soft Territory かかわりのあわい」の展示風景より河野愛の作品


藤野氏の作品は、滋賀の余呉、朽木、奈良の明日香村、香川の離島にある空き家などをリサーチし、そこに残された家財道具や日用品、置物、放置された庭の植物など、あらゆる場所にあった事物を画面上で継ぎ接ぎしたもの。「一つのイメージの中に入っていけるよう、配置している」といいます。また、裏側にもシルクスクリーンを使って模様が施されており、表と裏の印象が異なっている点が面白いです。

​企画展「Soft Territory かかわりのあわい」の展示風景より藤野裕美子の作品


本企画展では、通常作品の横にみられるテキストがありません。これは、文字があると読むだけで満足してしまう懸念から、あえてテキストを出さないといいます。鑑賞する方に「作品を読み解いて欲しい」と荒井氏は述べています。


次に、常設展「ひらけ!温故知新 ─重要文化財・桑実寺縁起絵巻を手がかりに─」(2021年6月27日―8月22日)をご紹介しましょう。

常設展「ひらけ!温故知新 ─重要文化財・桑実寺縁起絵巻を手がかりに─」
絵巻物、掛軸、屏風といった形状は日本美術においてよく見られますが、これらの作品は人の手で開かなければ鑑賞することができません。展覧会タイトルには、「作品を開くという行為と、美術館が開くという期待の二重の意味を込めている」と学芸員の大原由佳子氏は述べています。本展は、絵巻の宝庫である滋賀県が誇る名品のひとつ《桑実寺縁起絵巻》を導き手として、「パノラマの視点」「ストーリーを描く」「祈りの情景」の3つの観点から同館の収蔵品を紹介。日本画家の小倉遊亀や染織家の志村ふくみのコレクションも展示されているので、お見逃しなく。

常設展「ひらけ!温故知新 ─重要文化財・桑実寺縁起絵巻を手がかりに─」の展示風景常設展「ひらけ!温故知新 ─重要文化財・桑実寺縁起絵巻を手がかりに─」の展示風景より《桑実寺縁起絵巻》常設展「ひらけ!温故知新 ─重要文化財・桑実寺縁起絵巻を手がかりに─」の展示風景より志村ふくみの「源氏物語」常設展「ひらけ!温故知新 ─重要文化財・桑実寺縁起絵巻を手がかりに─」の展示風景より小倉遊亀の作品展示室と展示室の間に配置され、小休憩ができて庭を見渡せる「ソファのある部屋」

帝産湖南交通株式会社の協力により、同社の路線バスがびわこ文化公園北駐車場付近のロータリーに乗り入れ、新たに「文化ゾーン(県立図書館・美術館前)」のバス停が新設されています。公園内に直接バスが乗り入れることで、美術館へのアプローチがより分かりやすく、そして、歩く時間も短くなっているので、ぜひ活用してみては。詳細については、帝産湖南交通株式会社のHP(https://shiga-teisan.co.jp/)をご覧ください。

ぜひ、新たな歩みを始めた滋賀県立美術館に、足を運んでみてはいかがでしょうか。

■滋賀県立美術館
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館し、翌日が休館)
    年末年始(12月23日(木)-1月7日(金))、8月23日(月)-9月17日(金)、11月15日(月)-12月6日(月)
観覧料:常設展 一般/540年(団体430円)
        高校・大学生/320円(団体260円)
        中学生以下、県内居住の65歳以上、
        身体障害者手帳等をお持ちの方は無料
    企画展 展覧会によって異なります。
住所:滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1
Tel. 077-543-2111
Fax. 077-543-2170
滋賀県立美術館 (https://www.shigamuseum.jp/

 

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