「滋賀県立美術館」がリニューアルオープン! あたたかみのある「リビングルーム」のような美術館を目指す

(左から)UMA / design farm代表の原田祐馬氏、滋賀県立美術館館長兼ディレクターの保坂健二朗氏、graf代表の服部滋樹氏

1984年に、滋賀県内唯一の公立美術館として開館した「滋賀県立近代美術館」。改修工事のため、2017年からの約4年間の休館を経て、2021年6月27日に「滋賀県立美術館」としてリニューアルオープンします。

滋賀県立美術館の外観

当初、妹島和世氏と西沢立衛氏による建築家ユニット「SANAA」によって、建物の改修と新棟の建設が予定され、2020年の開館を目指してきました。しかし、2018年7月に建築工事の一般競争入札が行われたものの入札不落となり、計画が白紙へ。開館にあたって、二転三転しましたが、ようやく再開館を迎えることとなりました。

リニューアルオープンする際、今まで館名についていた『近代』という言葉を外すことにあたって、滋賀県立美術館館長でありディレクターの保坂健二朗氏は、「当館は、2020年3月現在で1786件という収蔵点数で、県立の美術館としては比較的小さい規模ではあるが、日本画家の小倉遊亀や染織家の志村ふくみのコレクションは国内随一を誇っている。また、マーク・ロスコやロバート・ラウシェンバーグなど、いわゆる戦後アメリカ美術を代表する作家の良作など、特徴のある優れたコレクションを持っている。2016年からはアール・ブリュットの作品の収集を継続してスタートするなど、他の公立美術館にはない強みがあると自負している。近代以前の作品も収蔵しており、『近代』という言葉は時代を限定してしまう傾向がある。『近代』の名前を取った方が、活動実態と合っており、また今後多様な美術を紹介できる」と述べています。

保坂氏は、今日の美術館のミッションは、「人がつくった様々なものに触れることを通じて、社会や環境の多様性をより深く感じられる場をつくること」と考えているといいます。本館がそのミッションを実践していくために、「Creation(創造)」「Ask(問いかけ)」「Local(地域)」「Learning(学び)」の4つの頭文字「CALL」を軸にすることで、これからますます変動していく社会に対して、柔軟に変わりながら関わり続けることができると述べています。

早速、次に内部の改装についてみていきましょう。

エントランス・ロビーおよびその周辺を、美術館と来館者の出会いや交流の場となる「ウェルカムゾーン」と位置づけ、ロビー内に美術や滋賀に関連した商品を提供するカフェとショップを配置。2階には、キッズスペースと授乳室のあるファミリールームを新設します。

 キッズスペース


ベンチが回廊や展示室にも置かれ、これまでよりもずっと居心地のよい美術館になっています。照明やベンチ、カフェ&ショップのタイル、案内サインには、信楽焼が使用されており、地域に根付いたこだわりも。

信楽焼が使用された照明

 

信楽焼が使用された照明2

 

館内のサイン


本美術館のデザイン総括、内装設計は、大阪を拠点として活動するクリエイティブユニット「graf」、VI、グラフィック、サイン計画は、大阪のデザインスタジオ「UMA / design farm」が担当しています。

保坂氏は、「(本館は)あたたかい空間を目指している。皆さんにとっての、リビングルームになるといい。1984年当初は『県民の応接室』という位置づけだったが、ぜひリビングルームとして使って欲しい。コレクションがいいのは言わずもがななので、その延長線上で作品を観てもらえれば」と語っています。

今回のリニューアルにあたって、部屋や場所の名称が、よりイメージしやすく、分かりやすいものに変更されています。例えば、常設展示室1は「展示室1」に、休憩ロビーは「ソファのある部屋」に、中庭は「コールダーの庭」に、講堂は「木のホール」といった具合です。

ソファのある部屋

 

様々な交流が生まれる小規模な展示・イベントスペースに活用できるラボ(多目的スペース)

 

県内作家等が小規模な展示を行うことができるポップアップギャラリー


展示室は3つで構成されており、展示室1は主に日本画や工芸の展示、展示室2は現代美術の展示、そして展示室3は多様なテーマやジャンルの展示を行うといいます。各展示室の床は、カーペットからフローリングに変更され、また、演出効果の高いLED照明が導入されています。そして、快適な鑑賞のために、壁面ガラスケースは低反射施工されています。

展示室1

 

展示室2

 

展示室3


次に、2021年度の展覧会プログラムについて、みていきましょう。

リニューアルオープン時には、企画展として、「Soft Territory かかわりのあわい」(2021年6月27日―8月22日)が開催されます。休館中に長浜市黒壁スクエア、高島市泰山寺野、東近江市能登川で開催した「滋賀近美アートスポットプロジェクト」の参加作家である、石黒健一、井上唯、河野愛、小宮太郎、武田梨沙、藤永覚耶、藤野裕美子、薬師川千晴、度會保浩といった9名と、新たに参加する松延総司、西川礼華、井上裕加里といった3名の計12名の滋賀にゆかりのある若手作家が、「コミュニケーション」をキーワードに新作を制作し、美術館全体を使って展覧会を開催。ガラスや石、糸や写真など、枠にとらわれない様々な表現が展開されます。

常設展は、「ひらけ!温故知新 ─重要文化財・桑実寺縁起絵巻を手がかりに─」(2021年6月27日―8月22日)。絵巻の宝庫である滋賀県が誇る名品のひとつ《桑実寺縁起絵巻》を導き手として、「パノラマの視点」「ストーリーを描く」「祈りの情景」の3つの観点から同館の収蔵品を紹介。特に、下巻第一段(7月27日―8月9日展示予定)のパノラマ描写は、室町絵巻の中でも白眉の出来なので、必見です。

その他、今回のリニューアルに際し、滋賀県出身の音楽家・世武裕子氏による、新しくなる美術館をイメージしたテーマ曲が完成。軽快で何かが始まる予感に満ちた音楽にのせて、本美術館のコンセプト「かわる かかわる ミュージアム」を伝えるユニークなアニメーション映像が完成。ぜひ、ご覧ください

また、2021年6月27日19時まで、メインビジュアルを撮影した写真家の川内倫子氏と、保坂氏のオンライントークイベントも開催されます。川内氏の出身地でもある滋賀との関わりや、これまでの仕事、梅花藻や座禅草などのメインビジュアルを撮影した際のエピソード、そして東京オペラシティアートギャラリーと本館、他数館で数年後に計画している個展に関して、対談形式で展開されています。

以上、盛りだくさんの内容で、新しい歩みを始めた滋賀県立美術館。常設展だけでなく、企画展も鑑賞できる年間パスポートも登場するそう。また、少しでも美術館の敷居を下げるため無料の観覧日を作れないか、と思惑していると言います。ぜひ、本館に足を運んで、アートに触れてみてはいかがでしょうか?

■滋賀県立美術館
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館し、翌日が休館)
    年末年始(12月23日(木)-1月7日(金))、8月23日(月)-9月17日(金)、11月15日(月)-12月6日(月)
観覧料:常設展 一般/540年(団体430円)
        高校・大学生/320円(団体260円)
        中学生以下、県内居住の65歳以上、
        身体障害者手帳等をお持ちの方は無料
    企画展 展覧会によって異なります。
住所:滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1
Tel. 077-543-2111
Fax. 077-543-2170
 

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