リーディング美術館の提言をしたのは私だ。参議院議員 二之湯武史の描くビジョンとは | ARTS ECONOMICS 02

リーディング美術館の提言をしたのは私だ。参議院議員 二之湯武史の描くビジョンとは | ARTS ECONOMICS 02

連載「ARTS ECONOMICS(アーツエコノミクス)」はARTLOGUEが提唱する文化芸術を中心とした新しい経済圏である ARTS ECONOMICS の担い手や、支援者などの活動を紹介する企画です。

アーティストや文化芸術従事者のみならず、ビジネスパーソン、政治家など幅広く紹介し、様々に展開されている ARTS ECONOMICS 活動を点ではなく面として見せることでムーブメントを創出します。

 

ARTS ECONOMICS バックナンバー

 

第一回 アートは ”人間のあたりまえの営み” マネックス 松本大が語るアートの価値とは…

第二回 リーディング美術館の提言をしたのは私だ。参議院議員 二之湯武史の描くビジョンとは

第三回 生粋のアートラバー議員 上田光夫の進める街づくり、国づくりとは

第四回 チームラボ 猪子寿之。アートは生存戦略。人間は遺伝子レベルで最も遠い花を愛でたことで滅ばなかった。

第五回 スマイルズ遠山正道。アートはビジネスではないが、ビジネスはアートに似ている。「誰もが生産の連続の中に生きている」の意味するもの。

 

 

 

リーディング美術館の提言をしたのは私だ。参議院議員 二之湯武史の描くビジョンとは

 

美術関係者のみならず広く物議をかもしたリーディング美術館。この案を提言したのは参議院議員の二之湯武史氏です。アートから食、スポーツなどさまざまな課題に取り組む二之湯氏に「リーディング美術館」が生まれた背景、真意を伺いました。

 

法律を変えるというのは、国会議員にしかできないのです。

 

二之湯武史氏(以下:二之湯):リーディング美術館、あれは私が提言させて頂きました。そして文化GDPを拡大させるのために自民党の中にプロジェクトチームを立ち上げて、文化財保護法も改正させています。また今度は博物館法も変えようと考えています。時代の流れに合わせて新たな法律を作る、既存の法律を変えるというのは、政治家の中でも我々国会議員にしかできないのです。

官僚だけでは現状に合致した具体的なアイデアを出すことは難しいと思います。なぜなら、彼らにアイデアを伝えても、実行する予算や能力と責任感と使命感を持った職員はほんの一握り程度しかおりません。数多いる官僚の中にベンチャーマインドがあればもっと世の中が良くなるはずです。結論として官僚よりも政治家に直接お願いしたほうが物事は進みやすいことは確かです。

鈴木:しかし、一般の人が政治家に陳情するのはハードルが高いように思います。

二之湯:それは幻想ではないでしょうか? 私たち政治家は選挙を経て国民の代表として立法や予算の編成を行うのでありますから、むしろ逆ですよね?現に参議院予算委員会での私の質疑を聞いて連絡を取ってきた方々もたくさんいらっしゃいます。

普段から様々な方々と接して、いかに社会に対してアンテナを張っているかが重要ではないでしょうか。ARTLOGUEの活動も社会イノベーションですよね。戦後日本の価値観と言いますかライフスタイルのイノベーションのような話だと思います。

参議院議員 二之湯武史

予算委員会で安倍首相へ質問する参議院議員 二之湯武史

 

左脳偏重型リーダー社会からの脱却へ

 

二之湯:私は、今の多くの日本のリーダーは左脳偏重型の方が多いのではないかと思っています。左脳というのは数値化できる学力、記憶力や事務処理能力が主で、要するに認知能力のことを指します。一方右脳というのはその真逆の非認知能力であって、感性やセンスもそうですが、粘り強さや思いやりが含まれています。

戦後の日本の教育は左脳に偏重をしていて、結果的に勉強はできるけど感性やセンスがあまり磨かれていないエリートが増えてしまいました。こういった認知能力の高い方々も社会には不可欠な存在ですが、一方で創造性豊かな右脳型のリーダーが少ないことは、これからの時代を切り拓いていくためには問題があると考えます。

各界のリーダーと呼ばれる人にしても、着る服など自分の外見は気にせず、お金とか名誉とか目に見えるものだけを追いかけ満たそうとしている人が少なからずいます。人生の豊かさや満足度、そういったものには一切目もくれずひたすら仕事をしている。私はそれを「昭和モデル」と言っており、そういった価値観やコンセプトの転換運動をしています。

文化は人が生きていく上で不可欠な、人間存在そのものの土台です。気候、風土、その上に育まれた歴史、考え方や生活様式が文化だと思います。そして、そこから生み出された具体的な有形無形のものが「芸術」だと考えております。

鈴木: 我々を日本人たらしめてるのがまさに文化ですね。

二之湯:そうですね。生きている以上、文化からは逃れられない。 日本は高温多湿で四季があるという気候風土に影響を受けて、生活様式や、価値観、ルールが作られています。
私自身何かきっかけがあって文化や芸術に興味を持ったというのではなく、ごく自然に切り離せないものとして存在していました。

二之湯武史議員の質問に答える安倍晋三総理大臣

二之湯武史議員の質問に答える安倍晋三総理大臣

 

子供達を芸術に触れさせるというのは自然

 

鈴木:多くの国民がごく自然に文化や芸術に接するようになるにはどうしたらいいのでしょうか。

二之湯: 私は社会イノベーションを促したいと思っています。より良い未来へのビジョンがあれば当然のように子供には芸術にも触れさせようとなるはずです。

実は 私は教育という言葉があまり好きではありません。人間も大自然の一部であり、人間社会も一つの宇宙なのです。 一人一人の持っている能力や個性をどうしたら引き出せるか。教えるとか、育てるとかではなく、様々な機会に触れさせた上でその人の個性に合った能力を引き出していくのがいいのではないでしょうか。

現在は非常に複雑で、いわばカオスな社会状況です。そのようなカオスな時代においてロジカルな思考だけではなく、未来社会を切り開くビジョン形成もできるような人を育てるためにも、子供達を芸術に触れさせるというのは自然と導き出される解だと思っています。

私は政治家をしているので「俗っぽいことは嫌だな」と言う気持ちも抑えながらも、具体的な政策イノベーションを促さなければいけないと思っています。例えば「体育からスポーツへ」というコンセプトも私が考えました。文化GDPやスポーツビジネス、大学の資産活用を促すための大学革命、リーディング美術館などもそうです 。経営者視点を持てば美術館も博物館も大学経営もうまくいくはずです。

 

官・民プラットホームによる文化経済戦略

 

二之湯武史議員の質問に答える麻生太郎財務大臣

二之湯武史議員の質問に答える麻生太郎財務大臣

鈴木:文化芸術資源を日本のブランディングや経済の起爆剤とするためには何をすべきでしょうか。

二之湯:文化と経済であれば文化庁と経産省に内閣官房なので、その中で枠組みを作る必要があります。文化庁だけで経済を高めるのは難しく、経済産業省だけであれば文化を深く理解し経済との接点を導き出すのは難しいでしょう。そこを踏まえて、私は、文化経済戦略特別チームを2年前に作りました。

文化庁の京都移転に伴い文部科学省設置法を改正し、彼らに政策調整機能をもたせています。官僚だけではなく、官・民のプラットホームのようにしないと新しいビジネスは生まれてはこないのです。

鈴木:ARTLOGUEでは文化芸術資源を利活用出来るプレーヤーとして、アーツアントレプレナーの存在が重要だと主張しています。

二之湯:日本は民間がとても弱いですからね。前向きなメンタルを持ってリスクをとる人が出てこないと新しいコンテンツもビジネスも生まれないですね。

日本では美術館や博物館だけでなく体育館や野球場などのほとんどが、市営、県営で税金で賄われています。「体育施設」というコンセプトが間違っていて「スポーツスタジアム」や「スポーツアリーナ」となれば、用途も多目的になり、デザインやサービスも変わるはずです。大元のコンセプトが間違っているから「体育からスポーツへ」と言っているのです。

箱根駅伝もあれだけ素晴らしいコンテンツなのにスポンサーだけでなくグッズ販売も禁止で、現場に収益が還元されていない。「体育だから儲けたらダメです」というコンセプトに縛られている。

大学も同じように「研究成果で金儲けをするのはけしからん」、「大学は社会の変化に対応すべきじゃない」、「大学は100年、1000年の真理を研究する」と言って一般社会の声を全く聞かないのです。そこには社会との大きなギャップがあります。

それらを改革、修正出来る経営者視点を持った現場のリーダーや人材もいないのです。 鈴木さんみたいな人がやってくれればいいと私は思うんですが。

鈴木:「体育からスポーツへ」面白いですね。何となくスポーツの方がアートよりビジネスが発達していると思っていたのですが。

二之湯:体育・教育施設というコンセプトですから、飲食禁止や土足厳禁となってしまって、使う側・見る側の視点がないのです。硬い椅子で30分座るだけで腰痛くなりますよ。

 

おしゃれでセクシーな日本にしていきましょう

 

鈴木:楽天イーグルス取締役事業本部長 小澤隆生氏がビジネスとして成功させるために、プロ野球を要素分解し、球場を「野球を見るための施設」ではなく「エンターテインメント施設」にしたことで成功をさせました。こういった経営者視点は重要ですね。

二之湯:美術館だってそれでいいと思いますよ。今、羽田空港の横にある天王州の区有地にクールジャパンの拠点を作ろうとしています。 もちろんアートも中心的なコンテンツとして入っています。
他にも琵琶湖でプロジェクトを仕込んでいます。オーストリアにブレゲンツ音楽祭という湖上に斬新なステージを作ってオペラやライブを行う音楽祭があります。今、ブレゲンツ音楽祭の日本版を行おうと計画しています。

 

去年は「文化芸術基本法」を改正して、日本の食文化が文化であると法律に明記されたので、今後、食の世界から文化功労賞や文化勲章の受賞者が出て行く可能性が生まれました。

私はアート、食、スポーツなど様々なことをやっていますが、一つのビジョンで横串は刺さっています。多くの企業の方とも、大きく言えばおしゃれでセクシーな日本にしていきましょうと話をしています。

美術館だって、国立の美術館や博物館には国宝がたくさん眠っています。仮に海外の富裕者を20人招いて、アクティビティの予算が一人20万円だったとしたら合計400万円になります。400万円で国立西洋美術館や国立近代美術館でそういった方々向けのエクスクルーシブなサービスも作れるのではないでしょうか。

民間というか宗教団体が作ったMIHO MUSEUM ではルイ・ヴィトンがファッションショーをしましたしね。素晴らしい美術館ですよ。民間はその人たちの判断でできますけど、国公立の方は何か障害があるんでしょうかね。前例がないとか。

鈴木:文化芸術発展のためにもこれからもお力添えいただければ。

二之湯:お力添えというか、一緒にやりましょうよ。

鈴木:ありがとうございます、是非よろしくお願い致します。

 

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