名和晃平 金色に輝く巨大彫刻「空位の玉座」がパリ・ルーブル美術館に出現!黄金の玉座空位の意味は? : ジャポニスム2018
Throne ©Kohei NAWA | SANDWICH Inc.
21世紀を目前に控えたルーブル美術館のガラスのピラミッド内に、1人の日本人バックパッカーの青年がたたずんでいました。
約20年後、よもやあの時と同じ場所で、自分の作品を前に記者たちから取材を受けることになるとは想像もつかなかったことでしょう。
高さ約10.4m、重さ3tの黄金の巨大彫刻《Throne》「浮遊する空位の玉座」は全面ガラス張りのピラミッドから陽の光を余すところなく受けその圧倒的な迫力と眩い黄金の輝きで、世界中からやってきた来館者たちを魅了しています。本作品は約6か月間(2018年7月13日~2019年1月14日)、ルーブル美術館のピラミッド中央において展示されます。
前述の青年である彫刻家・名和晃平は黄金の玉座《Throne》の設置経緯、コンセプトを次のように述べています。
名和晃平 ルーブル美術館で《Throne(スローン)》 を語る
名和晃平:元々この作品は江戸末期までに極度に発達した各地の山車のリサーチから始まり、文化庁の「2020 年に向けた文化イベント等の在り方検討会」で提案したイメージを、2017 年の春にGINZA SIX内の蔦屋書店のオープンに合わせて、《Throne (g/p_boy)》という作品として発表した経緯があります。
その直後、国際交流基金を通じてルーブル美術館のピラミッド内に設置する作品の指名コンペで新作を提案する機会に恵まれました。
ルーブル美術館という場所、ガラスのピラミッドの建築空間、東西文化の歴史、それらを含めたコンセプトやストーリーを十分に考え、《Throne》「浮遊する空位の玉座」のプランを作成。
早速、この作品のイメージを送ったところ、ルーブル美術館のプランに相応しいと館長から直々にお手紙を頂き、形もコンセプトも新たに制作することになりました。
今、明かされる。《Throne》「浮遊する空位の玉座」が意味するところは?!
《Throne》とは玉座のことで、権力や権威の象徴になるものとしてとらえています。作品を正面からよく見ると、小さな椅子のような形があり、周囲の金箔よりも光っている場所があります。ここをちょうど子どもが座れるくらいの小さな形にしたのは、今の時代に玉座に座るのは大人ではないと考えているからです。
加えて、「そこには誰もいない」ということを表現したかったし、心の中では誰にも座ってほしくないと思っています。
過去・現在・未来を見据える目とピラミッドの関係性
作品の中央部に銀色に輝く球体が正面と背面に配されています。このプラチナ箔の球体は「世界を映す鏡」と「世界を見据える目」を表しています。正面は「現代や未来を見据える目」、背面は「過去を見据える目」です。
ルーブル美術館は美術を通じ、過去から現代における様々な文明の発展の上に現在の私たちが存在することを伝えている美術館なので、作品の正面と背面をダブルフェイスにして、過去と現在と未来が繋がるような彫刻にしたのです。
新しい知性はまだ子ども。「予感」をこの時代に表現しておきたかった
《Throne》という作品は、2011年に東京都現代美術館で行われた「名和晃平─シンセシス」で初めて発表しました。その時も、封建や権威というものが現代において未だに姿を変えて存在しているのではと感じていました。
もちろん、美術館やピラミッドの存在そのものが権威の象徴でもあるのですが、何千年も前から人間の社会から消えることはなく、人間の性(さが)として、きっと未来にもあり続けるのでしょう。ただ、今までのように誰か一人の王様やリーダーが権力や権威を掌握するような形ではないと思います。
では、未来においてどのような形でそれらが在りうるのかを考えると、加速度的に進化を遂げるコンピューターやテクノロジー、人工知能などの「新しい知性」の存在が、政治や経済に深く影響を与え、従わざるを得ないような権力や権威に置き換わっていくのではないか、という予感が今の世の中にはあると思うのです。
その予感をこの時代に表現しておきたかったのと、玉座を子どもにしか座れないサイズにしたのはその「新しい知性」がまだ幼い子どものように思えるからです。
ルーブル美術館のピラミッドは地下(過去)へアプローチ(アクセス)が可能
ピラミッド自体は何千年も前の建造物であるにも関わらず、非常にミニマルで象徴的、しかも方角や天体の動きに合わせて作られ宇宙と繋がっています。そして、地上に住んでいる人間が宇宙を感知しながら様々な法則や原理を取り出し、理知的なことに取り組んでいる象徴でもあります。
ルーブル美術館のガラスのピラミッドは、建築家イオ・ミン・ペイ(Ieoh Ming Pei, 1917年4月26日~ )が設計したものですが、この建築はピラミッドを入口にして地下にアプローチできるように設計されています。
これはルーブル美術館が古代から中世、近代にいたるまでのあらゆる宝飾品類など封建時代に残された芸術品(権力、権威の象徴)を世界中からコレクションしており、それらを通じて過去にアクセスできるイメージと重なります。
そのような場所に一番合う彫刻が何かと考えた時に《Throne》が浮かびました。
エジプトが起源の金箔の技術は、シルクロードを通って各地の文化と融合しながら日本へ
日本の神社仏閣にも金箔は多く使われていますが、その技術は非常に特殊なもので、エジプトが起源だといわれています。金箔の技術はシルクロードを通り世界中の様々な場所で文化的なエッセンスを含みながら日本にたどり着きました。
《Throne》の背面には大きな翼のようなものがありますが、それは何千年もかけて遠く離れた場所へたどり着いた金箔の技術や、祭礼などに見られる造形が、またピラミッドへ舞い戻ってくるようなストーリーを思い描いたものです。
《Throne》「浮遊する空位の玉座」上で、最新テクノロジーと古代の金箔の技術が融合
作品を覆う金箔は石川県の金沢で作られたもので、それをSANDWICH(スタジオ)で京都の職人に貼ってもらいました。30個のパーツからなる造形には3Dのシステムを使い、コンピューター上に仮想粘土(デジタルクレイ)を用意し、それをロボットアームで削り出しています。
フィジカルな造形性を大事にしたかったので、その削り心地が伝わってくる装置を使い、削ったり、引っ張ったり、触りながら作りました。今の時代のテクノロジーとエジプトを起源にした金箔の技術が融合するイメージを描き、このコンセプトに合わせた作り方を選びました。
造形にはコンピューターや人工知能などの新しい知性が持つ2つの可能性を反映
作品の造形には、無機的なメカニカルな形と有機的な細胞が各々増殖し、せめぎ合っているようなイメージを表現しています。産業革命以降の機械的な進化と昨今のDNAを新しくデザインするといったバイオロジカルな進化から類推すれば、人間が生み出したコンピューターや人工知能といった新しい知性が、人間を越えた存在を生み出す可能性があるのではないかと考えています。
次世代のアーティストたちに伝えたいこと
村上隆さんやヤノベケンジさんといった日本人の先輩アーティストの方々が海外で活躍することによって、僕たちの世代が海外に出る道を切り開いてもらったと思います。その一方で、日本の現代美術のマーケットが育たず、日本人の作品がコレクションされてこなかったことも現実です。
現在は、インターネットの発達によって全てが相対化され、若い世代は世界中で起こっていることを同時に感じつつも、自分が作っているものがオリジナルなのかどうかすら自信を無くし、発想した時点で既に誰かがやっているのかもしれないという諦めがあるように感じます。
それでも、僕は新しいものは作れると思います。
常に時代の中で新しいものを生み出すのがアーティストであると思いますし、新しいものがどういうものなのか、どういう位置づけなのか、というのも自分で考えてしまったらいいのではないかと思っています。
編集後記
この場所(ルーブル美術館ガラスのピラミッド内)は、もともとイオ・ミン・ペイ氏が設計した際象徴的な彫刻を置くプランだったらしく、《サモトラケのニケ》やロダンの《考える人》が候補に挙がっていました。
結局、設置作品は決まらず、数年前から毎年1人のアーティストが展示することになり、今まで3名のヨーロッパのアーティストが展示してきました。アジア人では名和晃平が初の展示となります。
ルーブル美術館はコレクションだけでなく、教育的にも素晴らしい美術館で、そのエントランスに象徴のように置かれるのはアーティスト冥利に尽きると思います。本当に光栄です。未だに信じられないというか変な感覚です。
(どんな時代であっても)新しいものは作り出せる。名和晃平
美大生の時にバックパッカーとしてこの場所に訪れていたという名和。一人でも多く、今、ここで起こっている出来事「時代に呼応した巨大彫刻 《Throne》(浮遊する空位の玉座)」の共有者になってほしいと願ってやみません。
ルーヴル美術館ピラミッド内特別展示 名和晃平 “Throne”
会 期:2018年7月13日〜2019年1月14日
会 場:ルーヴル美術館ピラミッド内
住 所:Rue de Rivoli, 75001 Paris
時 間:9:00〜18:00(水金〜21:45)
休館日:火曜日、12月25日、1月1日
NIIZAWA 純米大吟醸 2017 名和晃平
7%という世界最高峰の精米により醸造された新澤醸造店の最高級 日本酒に、毎年アーティストの作品をラベルに採用しています。
2017は名和晃平の《Throne》
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