出展作家29名による、パワフルで個性豊かな作品が並ぶアウトサイダーアート展『Our Life is Our Art そしてその先へ=「THE WORLD」』

XL (Swing)《「徹子の部屋」をみる徹子 》2017

東日本大震災、そしてコロナ禍を体験した私たちは、自然に対して、人間が作り上げた現代文明がいかに非力であるかを知りました。それでも、テクノロジーは進み、グローバリズム信仰は止まりません。そんな今、私たちはどのような歩みを進めていくべきでしょうか。「Our Life is Our Art=人生はアートだ」―ジョン・レノンが残したこの言葉は、生き物としての人間が、如何に生きるべきかを端的に語っています。

東京・表参道にある「GYRE GALLERY」において2年ぶり3回目の開催となるアウトサイダーアート展『Our Life is Our Art そしてその先へ=「THE WORLD」』は、現代社会においては不自由とされる障がいのある人たちが生み出す多様な表現を通して、人が生きることの意味や、本当の幸せとは何かを問う展覧会です。障がいのある人が生み出すアートは、人が生まれながらにして持っている、根源的な生命力を感じさせます。人は表現することで思いを伝え繋がり、そして助け合うことで命を紡いできたのではないでしょうか。それは、自然の一員として持続可能な未来をつくる上で、私たちに大きな示唆を与えてくれます。

過去の展覧会同様、今回も、北は北海道から南は九州まで、全国の福祉施設に主催者自らが足を運び、GOMA氏、平野喜靖氏、鈴木靖葉氏など29名の作家との交流を経て厳選したアートを紹介します。

今回、展覧会総合キュレーター・プロデューサーの杉本志乃氏に、以下の質問を投げかけました。

Q1.アウトサイダーアート展は、芸術的観点のみならず、教育や社会福祉の分野にとっても意義のある展覧会だと思います。その点は意識されていますか?

はい。実は、会期中に地域の小学校の生徒さんをご招待しての鑑賞ツアーを企画しています。現在緊急事態宣言の最中ということで実現の可能性は不透明ですが、次世代を担う子供たちに、多様性に溢れたアウトサイダーアートの楽しさを知っていただき、その体験を通して、他者と違う自分自身や他者を肯定する気持ちが育まれることを願って企画しています。

また、福祉の分野にとっての意義でいうと、本展は、福祉の現場で生み出される多様な表現が、アート作品として商品になる可能性があることを知っていただく機会になるでしょう。アート作品の売買は専門的な知識や経験も必要ではありますが、こうした可能性があるという意識があれば、作品の保管など手間のかかる作業にも意味を見出せると思います。さらに、どうしても内に閉じてしまいがちな福祉の世界が、アートを触媒として外の世界と繋がる、そこから生まれる化学反応というものが確かにあります。例えば、私のようなギャラリストやキュレーター、今回のアートディレクションをやってくれているデザイナーのヒロ杉山さんやスタッフの人たち、GYRE GALLERYに来るファッション関係の方々など、普段福祉の世界とは無縁の方達が、障がい者の表現を通してこの世界に触れ様々な問いを持つ、そこから人と人とのつながりが生まれ、それぞれに優しい心を育む。そんな不思議な力を宿しているのがシリーズで展開されている本展の魅力です。

Q2.アーティストの選定において、留意した点は何ですか?

心ときめく、はっとさせられる、思わず笑ってしまうなど、私自身が何かしら感情を揺さぶられる作品を生み出すアーティストたちを選んでいます。頭で考え理解するのではなく、素直な心で感じるアート、アートをもっと身近なものとして生活に取り入れて頂くことを提案したい。「SHOP AND THINK」をコンセプトに掲げるGYREでは、商品としてアート作品をご覧いただき、実際に販売につながる作品という視点も大切にしています。作品を販売し障がい者アーティストに経済的な還元を図ることも本展の大きな目的のひとつです。なので、一般の方がお求めやすい作風やサイズ、価格帯なども考慮して作品を選んでいます。さらに言うと、華のある作品でしょうか。福祉の世界の現実は、綺麗ごとでは済まないシビアな側面があります。だからこそ、この展覧会では、あえてその福祉色を超えたところにある、人間本来の可能性と言うか、彼らの持つパワーにスポットを当て、展示をご覧になった後に、心が華やぎ元気になるような、そんな作品との出会いを演出したいと考えています。

Q3. 鑑賞者に何を感じ取って欲しいですか?

アートとは、決して敷居の高いものではなく、万人に開かれたもの。特別な知識や教養がなくても、誰もが自由に心で感じることができる、それがアウトサイダーアートの魅力です。
特に、知的障害者のつくる作品は、彼ら自身が頭で考えて何かを作るのではなく、生きることそのものがかたちになったもの、全身で生きる喜びを表しているものが多い。描き作ることで自らを解放する、その行為の中から生まれるアートです。それは、人間が生きる上で、衣食住と同じくらい大切なものではないか。生きることと密接に結びついた自由な表現はエネルギーに満ち人々の心を揺さぶります。人は、誰しも表現する生き物であり、他者に自らの存在を伝えることで生きながらえてきたのではないか。繋がること、共感し支え合うことなど、持続可能な社会を考える上で、アートは必要不可欠です。

また、例えば、会場となっているGYREのある渋谷区は、数年前から大規模な再開発が各所で進行中です。町のインフラを整え誰もが暮らしやすい街になるのは素晴らしいことですが、私自身は、それには限界があると考えています。むしろ人々の生のコミュニケーションの機会が奪われ、障がい者と健常者の分断につながる危険性もはらむ。渋谷を都市の一部としてではなくローカルの視点で見たとき、クリエイターの多い町としてユニークな存在感を放ち、インクルージョンの価値を世界に向けて発信する大きなポテンシャルに溢れています。その強みを生かしたコミュニティの創出こそが望まれているのではないか。未来の持続可能な社会を考えるとき、本当に大切なのは、インフラを整えるのではなく私たちの心の中の差別や偏見をなくすことです。アートとは、私たちに問題意識や新たな視点を提供してくれるものです。本展を通じてアートをみんなの手に取り戻す。全国で様々な背景のもと制作に励む表現者の存在を知る。ローカルとローカルを結ぶことで多様性にとんだ未来の社会を自分ごととして考える仲間を増やしていく。GYREや関係者と協力し継続的に開催することで、人々が交流する場を創造し、本展を通して多様性に富んだ社会のあり方を、鑑賞者ととともに考える機会となることを願っています。

ぜひ、アウトサイダーアートの魅力を体感しに、会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。

飯塚月(Studio COOCA)《曼荼羅》2020横溝さやか(Studio COOCA)《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》2019松本寛庸(None)《夜空から見た大都会》2009加地英貴(アトリエライプハウス)《ライトブルー/モスグリーン /オリーブグリーン/ゴールドオーカー/ スカーレット/サップグリーン》2018XL (Swing)《「徹子の部屋」をみる徹子 》2017カグラタニ (灯心会)《ミクロコスモス 》2014大峯直幸 (まる)《スリラー 》2014石井悠輝雄 (まる)《後悔と夢》2020鈴木泰葉 (アトリエブラボー)《夢のいちごスイーツづくし》2020

​​​​​​開催概要
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■Our Life is Our Art そしてその先へ=「THE WORLD」
会 期:2021年6月7日(月)~7月25日(日)
会 場:GYRE GALLERY

◯関連イベント
トークショー:『SEE Nothing, HEAR Nothing, SAY Nothing→ 公然の格差社会へ!』
日 時:7月17日(土)15:00〜16:00開催予定(オンライン配信のみ)
登壇者:長谷川眞理子(総合研究大学院大学学長・進化生物学者)×奥田知志(NPO法人抱樸代表)

 

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