絵の具は描くもの?絵画の決まりごとを飛び越え新たな「絵画」で表現するアーティスト・多田圭佑(タダケイスケ):「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」「サンワカンパニー社長特別賞」受賞

絵の具は描くもの?絵画の決まりごとを飛び越え新たな「絵画」で表現するアーティスト・多田圭佑(タダケイスケ):「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」「サンワカンパニー社長特別賞」受賞

現代アートの分野で活躍する新進気鋭のアーティストをサポートすると共に、より良い LIFE スタイル「アートのある暮らし」を提案する作品展示プランのコンペティション「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」。

レベルの高い作品展示プランに審査が難航する中、94組もの応募の中から、グランプリ、「サンワカンパニー社長特別賞」、ファイナリストに5組のアーティストが選出されました。彼らの応募プランのコンセプトやこれまでの活動、そしてこれからについてお話を伺います。

第二回目は、審査員内での評価の高さから急遽「サンワカンパニー社長特別賞」が設けられた多田圭佑さんです。


〈バックナンバー〉
第一回 デジタル時代だからこそ、身体性を伴うアナログなデジタル写真を撮るアーティスト・顧 剣亨(コケンリョウ):「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」グランプリ受賞



◯愛知から茨城へー共同スタジオ「航大」の運営とともに広がるアーテイスト活動


鈴木:お名前と経歴を教えていただけますか。

多田:多田圭佑といいます。愛知県名古屋市出身で愛知県立芸術大学の油絵科の大学院を卒業して、活動の幅を広げたいなと思い、そこから茨城県の取手市に移り住んで共同スタジオ「航大」を運営しつつアーティスト活動を続けています。

共同スタジオ「航大」

共同スタジオ「航大」
鈴木:スタジオを運営されているんですか。

多田:運営というか、まあそうですね。一応代表みたいな形でやらせてもらっています。30人ぐらいいる結構大きなスタジオです。元段ボール工場を皆でリノベーションしました。皆で協力しながら運営していくというような感じですね。幽霊部員もいますが、それくらいの人数でやっています。

鈴木:これまでの作家活動についてお聞かせください。

多田:もともと愛知県出身なんで学生の頃発表はずっと愛知中心でやっていたのですが、関東で発表したいなと思って、まずこちらに移り住みました。

移住して最初の頃はグループ展とかに色々呼んでもらって活動していたんですけど、一昨年ぐらいからMAHO KUBOTA GALLERYに所属という形になって、個展やアートフェアなど、ギャラリーから出品させてもらっています。

 

◯作品制作のコンセプト
 

​  今回の作品展示プランよりイメージ図  ​イメージ図の中で壁面を飾る大作はこちらをつなぎ合わせたもの

鈴木:作品は一貫して今回の作品プランのようなタイプですか。

多田:他にも2、3タイプ程別の作品のシリーズがあります。1つのことに絞らないようやっています。

《残欠の絵画 #46》2018 木奥恵三 撮影

今回の公募はショールームでの展示という募集で、映画やドラマのセットのような空間が自分の作品の成り立ちとフィットすると思いました。

提出したプランは壁面を覆うような大作を中心としたもので、「壁」として空間を変容出来たら面白いと思いこのシリーズを選択しました。

鈴木:制作にあたってのコンセプトについてお話ください。

多田:元々大学に入る前から、「特殊造形」と呼ばれる、アトラクションや映画のセットみたいなものを作る仕事をずっとアルバイトでやっていました。プラモデルを作ったりするのも好きで。

大学に入る上で受験絵画というものを叩き込まれるわけなんですが、キャンバスに筆を使って油絵の具で直接図を描いていくことより、素材との距離感というか、スプレーワークや型取り、研磨、エイジングなど、特殊造形で培われたことのほうが自分にはとても近く感じられて。そういったことで作品が作れないかなというのがきっかけで始めてますね。

今回応募した〈trace / wood〉シリーズのプランは、木の床であったり壁面みたいなものをモチーフにしていて、それらが汚れていく過程が描画行為になっていくというコンセプトの作品です。

《trace / wood #51》2018 若林勇人 撮影

一番最初の着想というか、自分のスタジオで、もう本当に床がメタメタに汚れているのが、何だかすごく自然なペインティングのようにみえて、そういうものを描きたいなと思いました。

多田さんのスタジオ

あとポロックの作品で、ドリッピングといって絵の具や塗料を床に寝かせたキャンバスに垂らしながら描いていく手法があるんですが、その画面の中に描かれているものと、画面外にはみ出てるものの差はなんなんだろうか…とか。

そういった作為と無作為の中間を考えながら作っています。

ジャクソン・ポロック《Blue Poles》1952年、212.1×488.9cm、キャンベラ、オーストラリア国立美術館 Jackson Pollock [Public domain]

いわゆる絵画の手法はほとんど使っていなくて、絵の具を型取りして制作しています。実際の木を型取りしてそこに絵の具を流し込んでいく。それをペロって剥がすと木の形をしたマチエールみたいなものができて。それを使って、床や壁面をイメージして制作しています。

制作の様子

鈴木:何かをみてつくっているわけではないですよね。

多田:再現しているというより、なんというか超絶リアルみたいなことではなくて、数百年経った後の得体の知れない汚れとか剥がれみたいなものをイメージして描いてますね。あくまでイメージなんです。

表層だけというか、3DCGのテクスチャの在り方に似ていると思っています。

映画のセットやゲームのCGだったり、普段見るニュースもそうなんですけど、フィクションなんだけど、リアルにしか見えない、現実よりリアルに感じるっていうことに今とても興味があります。
 

 

◯「サンワカンパニー社長特別賞」受賞、今後について


鈴木:今回は「サンワカンパニー社長特別賞」受賞ということですが。

多田:ありがとうございます。大変嬉しく思います。〈trace / wood〉シリーズは、素材に床板や木材を使っているようにみえるのに実際は木を用いず絵の具で作っています。公募の場合そういう作品であることを、文章で補完するしかないんですが、実物を見てもらわないとなかなか伝わらない部分が多くて。そういった点を踏まえると、今回審査の際に文章や書類をしっかり読んで下さったのかなと嬉しく思いました。

鈴木:今後の活動についてお聞かせ願えますか。

多田:ずっと国内で活動してきたんですけど、ギャラリーに所属してから、海外の方と接する機会がすごく増えてきて。やっぱりリアクションが日本の方と全然違うので、海外行きたいなという気持ちが最近すごく強くなってますね。助成金とかが取れたら今年や来年ぐらいに行きたいなと思っています。

鈴木:今回ご推薦下さった久保田真帆さんに何か一言お願いします。

多田:ご推薦いただきありがとうございます。なかなか公募に通らない多田ですが、今回こういった形で賞をいただけたので顔が立てられたのではないかなと思っています。ありがとうございました。

鈴木:ありがとうございました。

(了)


■「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」展示プランについて
作品タイトル:trace / wood
推薦人:久保田 真帆(株式会社トゥルー 代表取締役/MAHO KUBOTA GALLERY ディレクター)
 

■作品コンセプト

私は一貫して絵画を主軸に表現を続け、従来の絵画にみられる素材や制作方法を脱構築することで新しい絵画を追求してきました。
この trace / wood という作品シリーズは、絵の具によって木の壁、または床をイメージしたスーパーリアルな状況を作ることからスタートし、それをエイジング(汚し)していく過程を描画行為とした絵画作品です。
画面上に見えている木材、木材の厚み、金属のビス、全てが絵具によって作られたマチエ ールです。
スーパーリアルなイメージ上で展開される描画行為は、“この壁面(床面)で起こった痕跡” という知覚に相殺され続け、偶発と計画の境界線を漂いながら、特定の時間を超えたイメ ージへと着地します。


■推薦人

1986年生まれの多田圭佑は絵画との本質を追求し、記号や絵画の物質性を取り扱い、そこに軽やかなひねりを加えることでこの世代の表現者の特徴でもあるリアルとフィクションの間の自在な行き来を鮮やかに実践しています。「trace / wood」のシリーズは床板をはがし、そのが画面に絵具や鉱物等が配置した抽象絵画に見えますが、実際には作品は床板や異素材含め、すべて絵画素材のみで構成されたものです。直感的な違和感を生じさせ心を捉える一方、作品はフォーマリズムの呪縛を軽々と超えた痛快な抽象表現となっているとも受け取れます。別のシリーズ「残欠の絵画」では表面がひび割れ、所々剥落した絵画を制作し、モチーフに古典と現代の要素を混在させることで、絵画のロマンチシズムを感覚化することに成功しています。私たちが日々目にする日常を絵画というフィルターを通し、再構成し、今日の表現言語で切り拓くアーティストとしての多田の可能性ははかりしれなく、一方、暮らしの風景の中でも親和性があり、場の空気を一新するフレッシュかつ強い絵画としてのケミストリーも興味深く、今回推薦いたします。


多田 圭佑 TADA KEISUKE
1986 年 愛知県名古屋市生まれ
2012 年~ 愛知県立芸術大学 美術研究科博士前期課程 修了 現在 茨城県在住 
 

〈主な個展〉
2018 年 BORDER / CAPSULE / 東京 三宿
2018 年 エデンの東 / MAHO KUBOTA GALLERY / 東京 神宮前
2017 年 forge / MAHO KUBOTA GELLRY / 東京都 神宮前
2015 年 EXISTENCE / JIKKA 実家 / 東京都 千代田区
など


〈主なグループ展〉
2016 年  AKZIDENZ / Aoyama Meguro / 東京都 目黒
2014 年 Some Like It Witty / Gallery EXIT / 香港
2013 年 relational map / STANDING PINE / 愛知県 名古屋市
TRICK-DIMENSION / TOLOT heuristic SHINONOME / 東京都 江東区
2010 年 物語りの伏線 part2 / ギャラリー MoMo ryougoku / 東京都 墨田区
都市の断片 / アーバンリサーチギャラリー / 愛知県 名古屋市など


〈コレクション〉
前澤友作 コレクション
ARARIO MUSEUM コレクション
ピゴッチ コレクション
鳥越貴樹 コレクション
など

 

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