エロや政治的表現で度々抗議を受けている会田誠。美術業界は自由? | 表現の不自由時代 03
《Jumble of 100 Flowers(制作中)》2012~ 撮影:木奥恵三 (c) AIDA Makoto Courtesy Mizuma Art Gallery
連載「表現の不自由時代」では、アーティストの活動や軌跡、「表現の自由」が侵された事例などをインタビュー形式でお伝えします。
本連載を通じて、「表現の自由」について考え、議論するきっかけが生まれ、より健全かつ自由な表現活動が出来る社会になることを期待しています。
掲載予定アーティスト
会田誠、岡本光博、鷹野隆大、Chim↑Pom 卯城竜太、藤井光、ろくでなし子、他
表現の不自由時代 バックナンバー
第一回 ルイ・ヴィトンや日清食品からの圧力のみならず、殺害予告、通報にも屈せず表現をつづけるアーティスト 岡本光博
第二回 なぜ女性器だけタブーなのか? 権力による規制に、アートの力で笑いながら疑問を投げかける ろくでなし子
第三回 エロや政治的表現で度々抗議を受けている会田誠。美術業界は自由?
第四回 広島上空でピカッ、岡本太郎作品に原発事故付け足したチンポム 卯城竜太。人間の存在自体が自由なもの
エロや政治的表現で度々抗議を受けている会田誠。美術業界は自由?
鈴木:会田さんのこれまでの作家活動や、制作のコンセプトを教えていただけますか。
会田:自分の自己紹介は難しいですが。93年ぐらいから活動を始めていて、今の現代美術の標準的なこととして、絵画を中心に、インスタレーションやビデオ制作、パフォーマンスなども総合的にやっております。エロや反社会的なことなどを他の作家よりは比較的多めにやっている傾向があるかと言われています。
鈴木:言われているだけですか?
会田:こちらとしては思いついたものや、作りたくなったものを作っているので、エロ路線で行こうとか、社会派で行こうなどの方針を決めているわけではないです。結果として人からは「危ない作家」などと言われますが、穏健な作品もいっぱい作ってるつもりなんです。
鈴木:エロや、社会的・政治的なことに興味関心を持ち始めたのはいつ頃からですか。
会田:思春期の頃からなので、美大に行く前からだったと思います。
鈴木:表現の手段としてアートを用いられたということでしょうか。
会田:僕の認識ですが、美大生の頃は、抽象画のようなものを描くことこそが正しいとされていた時代でした。
それで、美大生時代に僕は、美術は向いていない、美術ではない道を考えたほうがいいと思っていたんですが、大学を出る頃には世界的な美術の傾向が変わってきていて、政治的な作品も増えてきたんです。
会田:あとは趣味的といいますか、真面目な抽象画とは違った、もう少し端っこの文化を扱うようなものの中に、例えばエロだとかを取り上げるようなものが増えてきて、これはこのまま美術に自分がいてもいいかなと思うようになりまして、美大を出た頃には美術家で行こうと思って現在に至っています。
鈴木:そもそも美術に興味を持たれたきっかけとかは何だったんでしょう。
会田:きっかけは様々あるのですが、簡単に言うと16歳の頃に、突然自分は芸術家になったほうがいいと気付いたんです。
僕はおそらく一種の軽い発達障害のようなところがありまして、それは今でも基本的に変わってはいないんですが、一般的な社会人には到底なれない性格の子供だったんです。
芸術家になれば僕の生まれ持った性質をそのまま使える、全てが上手く行くと思って、16歳のときに芸術家になることを決めたんです。
あとは表現方法ですけど、小説家になりたいと無駄なことを考えたりしていたのですが、紆余曲折あって現代美術が向いているということになりました。
美術館での規制と、ギャラリーでの自由
鈴木:これまで、どのような規制などを受けましたか?
会田:少し説明しますと、僕のような美術家の発表の場は、美術館ではなくギャラリーがホームグラウンドなんです。最初に作ったものはまずギャラリーで見せるということが普通なんですが、ギャラリーでは、今まで作ったものをオーナーやスタッフに、「これは見せられません」と断られたことは1度もないのです。
なので、実をいうと僕の表現の自由はだいたいいつも守られていて、満足しています。基本的には美術界は住み心地の良いところだと思っています。
会田:ただ、日本の美術館の場合、多くが公立の美術館です。
組織的に東京都なら東京都歴史文化財団とか、地方自治体の下部があり、美術芸術に基本的に興味のない、背広を着た堅物な行政の方々が配置転換で配属されることが多いので、デビューしたときから検閲は厳しめだと分かってはいました。
美術館での最初の展示だった、平塚市美術館でのグループ展「TOKYO POP」の際には、担当のキュレーターが僕の作品の中で確かに最もPOP的だった《巨大フジ隊員vsキングギドラ》を出してくれようとしたのですが、館長の判断で無理になったんです。
だからと言って「表現の自由への侵害だ!」などと怒ったりしたことはなく、「美術館とはそういうもの」という認識で、ギャラリーではなんでも出せるので、その2つを使い分けて生きていけばいいと考えていました。
森美術館「会田誠展:天才でごめんなさい」のケース
鈴木:会田さんが注目を集めた展覧会として、森美術館での「会田誠展:天才でごめんなさい」があります。
あのときに「ポルノ被害と性暴力を考える会(PAPS)」から抗議をされましたが何が起こったのでしょうか。
会田: 抗議の1つは「18禁の部屋」と呼ばれていた、18歳未満が閲覧できないようにゾーニングされた部屋での作品に対してでした。
そこに展示された作品は、性的な理由から18歳未満には見せないほうがよいとされていて、今までどこの美術館でも見せることが出来なかった作品です。
森美術館「会田誠展:天才でごめんなさい」での場合は、私立の美術館ということもあり、担当キュレーターが、「会田さん、すけべな絵は今まで美術館では無理だったけど、うちではトライしましょう。その代わりゾーニングをすれば大丈夫です」と提案してくれたので、お言葉に甘えて18禁の部屋を作ってもらえるようお願いしました。
そしたら案の定、フェミニスト団体のPAPSから「ゾーニングをしていてもけしからん!」という抗議がきました。
「会田誠展:天才でごめんなさい」は担当キュレーターの片岡真実さんも、南條史生館長も覚悟をして始めた展覧会でしたので、謝罪はせずに話し合いをしたんです。しかし結局、話し合いは平行線のままで終わったようです。
もう1つ、森美術館に正式抗議があったわけではないのですが、《モニュメント・フォー・ナッシング IV》 という、福島原発の事故に絡んだツイッターの画面を大量にプリントアウトし、貼った作品があります。これは、ツイッター利用者の一部の方の怒りを買い、ツイッター社に通報されたようです。
ですが、展示品が撤去されるということはなく、ツイッターで僕の悪口が書かれ続けていたということがありました。
鈴木:PAPSと美術館の話し合いでは双方の言い分を言い合っただけで、新たな見解や発展的なことはなかったということですね。
会田:そのようですね。抗議をしてきたPAPSという団体は単なるフェミニズム団体ではなく、おそらく政治的な発言もするような左派の団体だったらしいのです。
彼らとしても「表現の自由」という部分を攻撃すると自らの首を絞めることになりかねないので、「(会田誠という)アーティストが何を作ろうが構わない」と、僕に対する直接的な抗議はなく「私立とはいえパブリック性が強い美術館でこういった作品を展示するとはどういうことだ」と、森美術館側に対する抗議だけだったんです。
そうした理由から、僕が出て行くと話がややこしくなるということで、PAPSの方々とは直接お会いしてません。
また、森美術館では一連の報道を受けて一般のお客さんからも様々な反応があったようで、森美術館としての公式な声明をサイトに掲載しました。僕も制作の意図は短くコメントしましたが、僕の文章はあってもなくても良かったようなものだったと思います。
「会田誠展について」森美術館館長 南條史生氏と会田誠氏のステートメントの全文 2013年2月6日 |
http://www.artlogue.org/node/4177
鈴木:PAPSは「表現の自由」への攻撃をしていると思われないためにも会田誠さんへの抗議をしなかったのですね。
一方で、美術館という公共性があり反発しにくいところに対して抗議をすることで自分たちの主張の攻撃性を高めようとしているのではと思いました。
会田:僕はPAPSの実態も知らないのですが、このようなことは今回に限らずあると思います。抗議する団体が自分たちの存在・主張を様々な機会で広めたいと考えること自体は悪いことではないとは思います。
東京都現代美術館「おとなもこどもも考える ここはだれの場所? 」でのケース
鈴木:東京都現代美術館での「おとなもこどもも考える ここはだれの場所? 」では、市民1人の抗議によって展示が危うくなったことがありましたが、何が起こったんでしょう。
会田:「おとなもこどもも考える ここはだれの場所? 」は語りにくいところがありまして。様々な理由があるのですが、当事者であるこちらも真相がわからず、推理しているだけの状態なんです。
事実だけを言えば、展覧会がオープンして数日しか経ってない頃に、当時のチーフキュレーターの長谷川祐子さんから「市民から通報があったため、《檄》を撤去する方向で考えて欲しい」と言われたのですが、嫌だと断りました。
会田:断った理由は色々ありますけど、《檄》は展覧会場の真ん中にぶら下げられていましたし、僕の家族3人で作った唯一のものでした。
《檄》ありきで会場構成を考えていたので、あれがなくなったら家族3人の展示をやった意味がなくなるため、撤去はありえないと抵抗しました。
その話し合いの中で、僕の考えをまとめた文章をネットに載せるということになり、慌ててそこそこ長い文章を作り載せました。
そこでまた話し合いがあり、僕の文章を読んで納得してもらったと解釈しているのですが、美術館としては展覧会会期の終わりまで《檄》を展示してよいということに決めました。
直接お話ししたのは長谷川祐子さんが多かったのですが、彼女1人ではないんですよね。キュレーターというのは美術展のディレクターみたいなものですが、それ以外に管理職的な立場の背広を着た方もいらっしゃいますし、こちらも誰が主体的に動いたのかわからないままなんです。
職場の人間関係や力関係などがややこしく、皆様が想像しているよりも複雑な話で、なかなか正確にお伝えすることができないんです。
鈴木:チーフキュレーター長谷川祐子さん、企画課長の加藤弘子さん、担当キュレーター藪前知子さんの中で、現場で一番やり取りをしていたのは藪前さんでしょうか。
会田:そうですね。
鈴木:当時、長谷川祐子さんも東京都現代美術館もコメントを出さないことを批判されていましたね。
会田:そうですね。先ほど言った通りなのですが、僕は全貌はわからないのでお話できるのはこれぐらいなんです。
鈴木:上司も、個々人の人生というものがあって、それをより良く全うするためにあらゆる判断や決断があります。その複雑な葛藤の結果が会田さんにも降りかかっているのだろうとお聞きして思いました。
会田誠が怒る理由とは
会田:僕が共通して怒るポイントがあります。簡単にいうと、現場のスタッフに対し、普段現場にいない上司が終わりのほうにやってきて、余計な口出しをしてくる問題です。これは展覧会や芸術に限らず、あらゆるところで起きていることだと思います。
展覧会には現場で作家と密にやり取りをして、一緒になってこつこつと作り上げているスタッフがいるんです。そういう人は大体組織のトップではなく、上司のいる部下なわけです。
展覧会の準備では様々な微調整をします。わざとクレームが来るような表現をして注目されようとは、本当に考えていないんですよね。
遊び心は好きだから、ちょっといたずら心で、何か生真面目なものを突っつこうとすることは確かにあるんです。けれども、なんだかんだいっても、毎回アウトにならないように調整してるつもりなんです。
展示したけどこれは完全にけしからんということで撤去されるようなものは、最初から作らないんですよね。
スタッフとも「ここまでなら大丈夫だよね」と調整しながら作っているのに、発表の直前にふらっと上司がやってきて「なんだこれは、けしからん!」と怒って、今までこつこつと築き上げてきた微調整をひっくり返す。
それで自分は仕事した気になってる上司。あの構図に自分が巻き込まれると、カチーンとキレてしまうことはあります。
上司は事なかれ主義や自己保身から、なんとなく「嫌な予感がするな」と感じると「ダメだ」と言うんですよね。あれが嫌です。
これは「国家権力によって表現が規制される時代になっていく」とか、迫力のある話ではないのですが、今後も各現場でチマチマとありそうな気がしています。
会田誠のコレクターは民間が多い
鈴木:話は変わりますが、《巨大フジ隊員vsキングギドラ》は今どこにあるのでしょうか。
会田:精神科医の高橋龍太郎さんの高橋コレクションに入っています。僕の初期の代表的な作品は高橋さんが持っているものが多いんです。
これは僕の特徴だと思いますが、高橋さんに限らず個人コレクターが持ってることが多く、国公立の美術館に所蔵されているものは数が限られてます。
僕はどちらかというと民間や私立、個人コレクターなどのほうが好きですね。簡単にいうとお役人は苦手なので、お役人とはそんなに接点がなくていいと思っております。
鈴木:海外へも進出を図ってると思いますが海外の反応はどうでしょうか。
会田:どうなんでしょう。僕の海外での認知のされかたは非常にゆっくりです。今後も海外での展示の話はあるのですが、じわじわやっていこうと思っています。
僕の少女が描かれた作品は、場合によっては少女が裸になっていたり、ひどいことをされていたりするので、日本よりもむしろキリスト教価値観である欧米のほうが拒絶反応が強いです。そういう方面での作品は永久に紹介されないか、あるいは糾弾され続けるでしょうね。
僕としてはそういう作品が全てではないつもりなので、見せられる範囲内で見ていただこうかと思ってます。
会田誠の考える表現の自由とは
鈴木:会田誠さんが考える表現の自由についてお話いただけないでしょうか。
会田:社会における心の余裕のようなものとして、エロは大切と思います。そして美術に限らず「表現の自由」として大切なことは、政治的主張や考えていることを、誰でもいつでも自由に表現できることだと思っています。
ただし、僕が少し変わった性格なのかもしれないのですが、芸術家が他の人よりも発言力を持っていたり、発言する権利が多めにあるべきだという考えはあまりないです。
確かに展覧会は一般の方がスピーカーを使って街中で主張するよりは人が大勢集まるので、何か政治的な表明をするのにも有利な場所だとは思うのですが、その有利さを使って、自分の展覧会で政治的主張をするのは違うかな、と思っています。
ネットで言われてるような「音楽に政治を持ち込むな」という主張と一緒になってしまいそうで嫌ですが。
もちろん持ち込んでもいい、でも僕はあまりやらないかな、ということです。僕が例えば反原発という主張を持っていたとしても、その主張は絵を描けない一般の方と同じもので、アーティストだからといって他の人よりも発言が重いと思わないようにしています。
鈴木:主従の関係でしょうか。つまり、アートがポリティカルな主張のために表現形態として活用されるのではなく、あくまでも表現の題材として政治的な問題を取り上げているということなのでしょうか。
会田:特に僕の場合、芸術作品とは人工的に作るものという考えがあります。だから往々にしてひねくれて、本心とは真逆のことをやったりします。
一方、政治的主張は真心から真っ直ぐに表現すべきものと考えています。投票したり、デモに参加したり、ネットに書いたり。その二つは僕の場合水と油のように感じることが多いです。
表現者によってはその二つをストレートに結びつけ、表現をしている人もいますが、そういうピュアな方は人々からも愛されやすい傾向があると思います。
でも悲しいかな、僕は違うのです。
僕はひねくれ者なので、政治や歴史を扱った作品などで表現されてることが、僕の主張とは限らないんです。
あくまで題材なんですよね。例えば反原発などは、わざわざ作品にせず、言葉にしたほうがわかりやすいと思ってます。具体的にいうとツイッターなどにストレートに書いた方がいいわけです。美術展でわざわざビジュアル表現に変換して見せることはないと思っています。
鈴木: 最後に今後の展開など言える範囲でお願いします。
会田:今、日本の美術界を僕なりに批評的に捉えた結構長い小説を書いていて、それが大変です。
鈴木:小説を楽しみにしています。
今日はお時間いただきましてありがとうございました。
表現の不自由時代 バックナンバー
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