スプツニ子!が新作に込めた想いとは<br> シリア難民キャンプに建てられた映画館を「アート×寄付」で救う

スプツニ子!が新作に込めた想いとは<br> シリア難民キャンプに建てられた映画館を「アート×寄付」で救う

アーティストのスプツニ子!が、8月1日に新たなアートプロジェクトを立ち上げた。それは、ヨルダンのシリア難民キャンプに建設されたものの、まだ一度も使われていない映画館に息吹をもたらそうという支援活動でもある。自身も映画から多くのことを学んだという彼女が、このプロジェクトに賭ける想いとは──。

今回のプロジェクトのきっかけとなったのは、ある友人との会話でした。その友人は半年くらいのあいだ、ヨルダンの難民キャンプ「ザータリ」のNGOで活動していたので、現地の様子についての話を聞いていたんです。

シリアから逃れてきた人たちが暮らすザータリは難民キャンプですが、約8万人が住んでいて、いろんな商店が立ち並び、その中でビジネスが回っている。また、食料や水、住まい、教育施設などに関しては、政府や支援団体の援助のもとに整備が進んでいるそうです。

だけど、人はただ食べて、寝るだけで満足するわけではなくて、日々の生活が少し落ち着いてくると、やはり豊かに暮らしたいと願うもの。映画を観るとか、小説を読むとか、アートに触れるとか、文化的な活動を求めるようになるんですね。

そんな人々の声を受けて、ザータリにも映画館が建てられたんです。

そこでは、クーリエでも以前に取材されていたビデオジャーナリスト・グループのドキュメンタリー作品や、エンターテイメント系の作品が上映される予定でした。でも、建てたところで運営費が尽きてしまって、まだ映画が一度も上映されていない。住民たちにとっては“オアズケ”の状態が続いている──。

そんな話を聞いて、何かできることはないだろうかとぼんやり思っていました。

商店が並んでいるザータリの内部 Photo: Darrian Traynor / Getty Images

商店が並んでいるザータリの内部 Photo: Darrian Traynor / Getty Images

 

寄付したことを発信しやすくするために


ザータリの話を聞く以前も、シリア危機のニュースは何度も目にしていたし、悲惨な状態だとは知っていました。でも私自身、ヨルダンにもシリアにも行ったことがなくて、そこまで詳しく知っているわけじゃなかった。

そんなときに、日本は世界の先進国の中で一人あたりの寄付金額が少ない、その状態に何か変化をもたらせないだろうかというプロジェクトの話が舞い込んできました。

私も以前から、日本に寄付文化が根付いていないという意識はありました。日本人はすごく親切だし、思いやりもあるし、お互いに助け合う文化がある。欧米社会とは宗教的な背景の違いがあるとはいえ、なぜ日本では寄付が少ないんだろうって考えたときに、「世界の出来事への共感」が足りていないことが一因かもしれないと思いました。

日本での報道は国内の話題が多くて、外国で起きていることについて、どうしても距離を感じてしまいがちだと思います。とくにワイドショーなんかを見ていると、それを強く認識させられます。

もう一つ感じていたのは、日本で寄付と言うと「飢えに苦しむ子供たちを救う」といったベーシック・ニーズを満たそうとする寄付が想像されがちだということです。そうした支援はもちろん大切です。まだベーシック・ニーズが満たされていない国は少なくありません。

ただ、シリア内戦で国を追われた人たちも「映画を観たい」という、私たちと同じような想いを持っている、ということを想像すれば、自分ごとのように共感しやすいんじゃないかと思ったんです。

私も映画が大好きだし、映画から多くのことを学んだり、勇気づけられたりしてきました。寄付に関するプロジェクトを立ち上げるなら、難民の人たちにも文化的な営みを、生活がキラッと輝く時間を提供したいと思い、今回のアートプロジェクトをスタートさせました。

寄付者が織りなす支援のレッドカーペット


今回のプロジェクトはキックスターターで支援を募っていますが、寄付と同時に「赤い服を着て、映画のシーンを真似た写真」を撮って送ってくださいと呼びかけています。

映画の名シーンは無数にあって、言葉を介さなくてもわかりあえる力があると思うんです。両手を広げている人を背後から抱きついて支えていれば『タイタニック』ってわかるし、何かを避けるように激しくのけぞっていれば『マトリックス』、人差し指を合わせれば『ET』みたいに、その写真一枚が記憶を呼び起こして「面白かったよね」って理解し合える。

左は『キル・ビル』のつもりです。右は……何の作品かわかりますか?

左は『キル・ビル』のつもりです。右は……何の作品かわかりますか?

みんなが送ってくれた写真は、A1サイズにプリントアウトしたものを代々木公園のケヤキ並木通りに並べて貼って、「支援のレッドカーペット」を作りたいと思っています。

寄付が増えれば増えるほど、レッドカーペットが長くなっていく。そして、その資金によってシリア難民の人たちが待ち望んでいる映画の上映が実現される、という支援を兼ねたアートプロジェクトです。

実際に代々木公園にレッドカーペットをつくるのは8月15日〜16日の2日間。日本にとっては、73年前に第二次世界大戦が終戦した日です。

その終戦記念日に、いままさにこの瞬間も内戦が続いているシリアの平和を皆さんと願うことができれば、と思っています。当日は代々木公園にも撮影ブースを作って、私もそこにいるので、ぜひ参加してくれたら嬉しいです。

そして、できれば送ってくれた写真をインスタグラムにもアップしてもらえれば、と思っています。アメリカでは寄付したことをアピールすることが珍しくないけど、日本人は奥ゆかしいというか、そういうことを自分から言わないことが美徳とされているように思います。

でも、こういうユーモアのある写真なら、インスタグラムで寄付したよってアップしやすいし、さらに共感の輪が広がるきっかけにもなります。

シリア難民の人たちも見ることができるし、どんな人たちが寄付してくれたのかが、映画のパロディっていうユーモアを含んだ要素として伝わってもいいんじゃないかなと。きっと、シリア難民の人たちも笑って、喜んでくれるはずです。

私はアーティストとして生きているからこそ、映画を見たり、物語に耽ったりすることが大事だと心の底から思って創作活動をしています。ぜひ、このプロジェクトに賛同してくれる人たちと一緒に、ザータリに住む多くの人たちに映画を届けられたらと思っています。

※ この作品制作・展示の模様は、以下のNHKの番組にて放送予定です。
『はじっこ革命 〜そんなとこから、世界は変わる〜』(仮) 
放送予定日 9月15日(土) 19:30〜20:15 NHK総合テレビ

 

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