イタリアにおける新しいメセナの形 続々と美術修復に出資をする大企業

イタリアにおける新しいメセナの形 続々と美術修復に出資をする大企業

イタリアでは昨今、企業による美術修復のニュースが相次いでいます。その背後には、財政難にあえぐ文化財・文化活動省と、新たなメセナのかたちを展開する企業の思惑があるのです。


すでに不動の価値を得ている美術品に投資をする企業たち

2015年にローマに本社を置くメゾン〈フェンディ〉によって修復されたトレヴィの泉。2016年に、フェンディはここでファッションショーを行っています。

2015年にローマに本社を置くメゾン「フェンディ」によって修復されたトレヴィの泉。2016年に、フェンディはここでファッションショーを行っています。

近年、イタリアでは大企業による高名な文化遺産の修復が相次いでいます。
イタリアに大挙する観光客の視線を意識して、モード界からはフェンディ ( Fendi ) が「トレヴィの泉」を、トッズ( Tod’s )が「コロッセオ」の修復を行い、大きなニュースとなったのは記憶に新しいところです。

膨大な数の歴史的価値を有する文化遺産を抱えるイタリアは、それらの保持と修復の財源確保に四苦八苦をしているというのがほんとうのところ。

この点に目をつけたのが、新たな形で広告を展開したいという思いを抱いていた大企業でした。新規の芸術家に投資をするというリスクを冒すよりも、すでに世界的な知名度を誇る美術品の修復費を出資する。この新しいメセナの形が、昨今のイタリアでは大ブームとなっているのです。



食品業界も名乗りを上げた美術修復への道

イータリーの創業者ファリネッティ氏は「私企業が、その利益を公的なものに還元することは正しい」と断言。

イータリーの創業者ファリネッティ氏は「私企業が、その利益を公的なものに還元することは正しい」と断言。


イタリアを代表するメゾンだけではなく、食品業界がこのメセナに乗り出したことを世間に知らしめたのは、日本でも知名度抜群のイータリー( Eataly ) でした。

イータリーの創業者オスカー・ファリネッティ( Oscar Farinetti, 1954~) は、ミラノにあるレオナルド・ダ・ヴィンチ( Leonardo da Vinci, 1452~1519 ) の作品《最後の晩餐》の修復のために、総工費200万ユーロのうち半分を出資すると発表したのです。

2019年に迎えるレオナルドの500年忌を機に、さまざまなイベントが政府主導で計画されています。財源確保に奔走せざるを得ない文化財・文化活動省大臣ダーリオ・フランチェスキーニ ( Dario Francheschini, 1958~ ) は、私企業からのこうした出資を大歓迎する意向を示しているのです。

2018年に入り、今度はジャムや蜂蜜を販売するリゴーニ・ディ・アジアゴ ( Rigoni di Asiago ) が、ローマにあるヴェネツィア宮殿庭園内の彫刻の修復に出資すると発表しました。

こうした動きは、実は以前にも存在していました。2013年には、野菜の缶詰などを生産販売するフランスの食料品会社ボンデュエ ( Bouduelle ) が、ローマのポポロ広場にあるサンタ・マリア・イン・モンテサント聖堂のフレスコ画を修復していますし、2015年にはスーパーマーケットのコープ( COOP ) がヴェネツィアのドゥカーレ宮殿に建つ巨大な獅子像修復を行いました。

しかし、それらにもましてイータリーの《最後の晩餐》の修復が注目を浴びたのは、なんといっても企業と作品双方の圧倒的な知名度の高さによります。

 

消費者、メディア、地元を巻き込む広告作戦を支えるフォンダコ・イタリア

フォンダコ・イタリアとリゴーニ・ディ・アジアゴが協賛して修復が行われる予定のヴェネツィア宮殿の庭園。

フォンダコ・イタリアとリゴーニ・ディ・アジアゴが協賛して修復が行われる予定のヴェネツィア宮殿の庭園。

こうした潮流を支えているのがフォンダコ・イタリア( Fondaco Italia ) という企業です。

元辣腕の銀行家とマーケティングのプロによって2004年に設立されたこの企業は、さまざまな会社が美術修復事業に出資したい場合に、税金対策から広告効果まで綿密な計算をするだけではなくイタリア国内の文化遺産のいずれが資金を必要としているかまで調査するのです。

消費者に対するイメージの向上、政治的戦略、メディアとのコミュニケーション、地域との関係性の確率、そしてなによりも文化遺産を将来に残すための投資、これらが合致して、はじめて企業の美術品修復への融資が有効なメセナとなりうる、とフォンダコ・イタリアの社長エンリコ・ブレッサン ( Enrico Bressan ) は語っています。

そして企業側は、修復費の出資を理由にその作品をモチーフにした専門の商品ラインを生産販売できる可能性もあり、堅実な投資法としても注目されているのです。



食品産業と修復事業、ユニークな例

ここ数ヶ月、食品業界が美術修復に乗り出したというニュースは枚挙にいとまがありません。

その中でもユニークであったのは、ファーストフードの雄マクドナルド。この潮流に巻き込まれた一例です。

ローマ郊外にある街マリーノでは、2014年からマクドナルド開店のための準備が進んでいました。その工事中、マクドナルドとなるはずの土地の下から紀元前2世紀の古代ローマの道が発見されたのです。

「ローマ街道の女王」と讃えられる「アッピア街道」の支路のひとつと思われるこの遺跡、ローマの考古学監察局とマクドナルドの協力によって2017年にイタリア初の「博物館付マクドナルド」として開店しました。マクドナルドはこの遺跡を保存するにあたり、30万ユーロの出資をしています。


文化財・文化活動省は、「食品」という身近な商品を生産する企業が美術品を修復することで、イタリア人の美術への興味も喚起したいという思いがあるようです。
おりしも今年2018年は、イタリア政府が定めた「イタリア食材の年」。イタリア食材と美術の関係は、今後も注目の的です。

文化財・文化活動省は、美術品に描かれた食材を〈2018年 イタリア食材の年〉のポスターとして使用している。17世紀の女流画家ジョヴァンニ・ガルツォーニの静物画も、このポスターとして使用されています。

文化財・文化活動省は、美術品に描かれた食材を「2018年 イタリア食材の年」のポスターとして使用しています。17世紀の女流画家ジョヴァンナ・ガルツォーニ(Giovanna Garzoni, 1600~1670)の静物画も、このポスターに取り上げられました。

 

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