「アートフェア東京2018」を訪ねて─美のカオスの中に浮上した〈工芸化〉の流れ
「アートフェア東京2018」?国際的なアートフェア……なんて聞くと、ちょっとコワくなっちゃいません?自分なんか入場していいのな。おカドちがいじゃないかなぁ、なんて……。そんな気おくれも感じてしまう方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
でも、そのアタリはお祭りの縁日みたいなもんだと思えば、全然だいじょうぶ!ほら、岡本太郎さんも言ってたじゃない。芸術はまつり!(…爆発??)だとかなんだとか……。さあ、一緒に会場を訪ねてみましょう。
先日、都内千代田区の東京国際フォーラムで、「アートフェア東京2018」が開催されました。会期は3月8日から11日までの4日間。日本最大級のこの美術見本市は、今年で13回目になります。
今回参加した画廊は全部で164、後援についた大使館は93ヶ国。前回の入場者は5万8千人ほどでしたが、年々観客数が増えていて、いまや「アートフェア東京」が文字通り、文化都市・東京のひとつの顔に成長しつつあるのはまちがいありません。
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アートフェアの魅力(1)─そこはカオス
それにしても、アートフェアってなんでしょう?美術館で開催される展覧会や、作家さんの個展とどうちがうんだろう?
アートフェアの魅力のひとつ、それはカオス(混沌)そのものではないでしょうか。広い会場にはブースと呼ばれる小さな展示場がハチの巣みたいにぎっしり軒を連ねています。でも、それぞれの内容はてんでバラバラで無関係。
骨董に印象派、現代アートに縄文土器、書(道)もあれば工芸品も。絵に彫刻にオブジェ、ド派手なものからシブいものまで、何でもござれ。
次から次へとそんな小部屋をサーフィンしてゆくと、だんだん夢見心地になってきます。何が出てくるかわからないジャングルに迷いこんだみたい。陶酔というべきか、それとも酩酊と呼ぶべきか……。
そう、これこそ、個展や美術館では味わえない、まさに美術見本市ならではの闇鍋の魅力なのです!そこでは、美の長い歴史がシャッフルされて、ふつうなら絶対おこらない奇妙でシュールな出会いがあなたを待ち受けているのです。ワクワクしないはずないじゃない?
アートフェアの魅力(2)─そこはバザール
もちろん前もって、見たい作家や作品をチェックして会場入りするのは賢明ですが、私などには偶然の出会いにもみくちゃにされて漂流するおまつり感がなによりもアートフェアの醍醐味に感じられてなりません。
アートフェアのもうひとつの特徴は、そこが美術館の静寂とは180°真逆の、生々しくもホットな商取引きの現場だということです。鑑賞の場をかねながら、むしろ「市場」がその本性だといえるでしょう。
あちこちでくりひろげられる売り手と買い手の丁々発止をウオッチするのも乙なものですが、見物に飽きたら、というか欲しい作品をみつけたら、あなたも買い手として積極的にこのバザールに参加してはいかがでしょう?
〈工芸化〉という気配
さてこのへんで、私が会場に足をはこんで感じたことを率直に書いてみたいと思います。このフェアに期待したのは、ある程度知っている国内作家よりも、この機会に東京にやって来た未知のアジアの作家の仕事の方でした。ところがなぜか、これはという作品に出あえず、残念な気がしました。
反対に、国内の若手作家の間にひとつの充実した気配がかいまみえて興味深く感じたのです。この雰囲気を仮に〈工芸化〉と呼んでおきましょう。
その代表として、流木を素材に思春期のナイーヴな少女たちの憂いを描く森村智子(1988-)や、
麻紙に銀箔といった伝統的な日本画の画材から独自の女性美を追求する平田望(1988-)、
また密生させた棒ガラスにより不思議な生命像をかたち作るガラス作家の広垣綾子(1984-)、
繊細な色の積み重ねから森村同様、ローティーンの心の闇と光を活写する高松和樹(1978-)などがあげられるかもしれません。
かれらの作品は一見、社会や時代に背を向けた内向化、手仕事への耽溺(たんでき)に思えなくもありません。けれどその純度が高ければ高いほど、かえって〈外なる世界への抵抗のカタチ〉といった意味を持つのではないか。会期最終日が7年前の東日本大震災に重なっていたせいもあってか、私はそんな気がしてなりませんでした。日本の現在美術の気流のひとつは、ひょっとするとこのあたりにあるのかも。
帰りの電車の中で万歩計に目をやりました。会場だけで8キロ強歩いていました。足腰をなでさすりながら、これから「アートフェア東京」はどこにゆくのだろう?とふと考えました。きっと来年も、変わりゆく東京の、日本の、そしてアジアのその時々の別の表情(かお)をわたしたちにみせてくれることでしょう。また訪ねてみたいと思います。
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