海だ!山だ!芸術だ!
「KENPOKU ART2016茨城県北芸術祭」
1泊2日弾丸鑑賞記 海側編
関西にいる人間としてはなかなか足を運ぶ機会のない茨城。ここで初めて開催される「茨城県北芸術祭」の弾丸ツアーに出かけました。茨城県の山間部、海岸部を会場とした今回の催しに車移動はマスト。2日間で会場をめぐってやろうという無謀な試み、果たしてどこまで行けるのか・・・。
◯山側はコチラ
海だ!山だ!芸術だ! 「KENPOKU ART2016茨城県北芸術祭」 世界最遅レポート! 山側編
ラジコンポート
まずは1日目。海岸部をめぐります。記念すべき第一作品目はピーター・フェルメーシュ。人里はなれた会場、ラジコンポートに置かれた鉄と木材で出来た直線のオブジェ。生憎の雨ではありましたが、雨ゆえの靄が辺りにたちこめ、作品に映えていました。アンドレイ・タルコフスキー監督の『ノスタルジア』をどこか髣髴とさせる静かな空間に、寒さを忘れて見入ってしまいました。
穂積家住宅
非日常をもう少し堪能したい気持ちに後ろ髪をひかれつつ、移動だ、移動!次に目指すは穂積家住宅。江戸時代の豪農の邸宅と呼ばれるこの会場、まさに横溝正史の世界です。早速広い日本庭園に足を踏み入れると、伊藤公象による『pearl blueの襞 ー空へ・ソラからー』が目に入ります。
日本庭園を通り過ぎ、次はかつての農具倉庫。ここにはデビー・ハンによるインスタレーション『ウェブ・オブ・ライフ』が展示されています。天井から吊り下げられた赤い紐が様々な人の表情を形作っています。つんとした顔。おどけた顔。あんぐりした顔。時や場所を越えて、普遍的な人の感情。そこから生まれる表情。インスタレーションをぐるぐる見回せば見回す程、多彩な顔との出会いが。
「横溝正史の世界さながら」と書いた通り、穂積家住宅は複数の棟で構成されています。そしてなんと衣装蔵が・・・。『SEX and the CITY』のキャリーに教えてあげたい。クローゼット云々じゃないよ!衣装用の蔵だよ、蔵!!・・・それはさておき、衣装蔵にも作品が展示され、1階と2階がまったく赴きの異なる空間となっています。まずは1階の『天を仰ぎ 地に立つ 者として』へ。明かりをおとした暗がりの中にぼんやりと光る白い花。花道家の上野雄次が活けた3Dプリンターの花が端然としています。
次は2階へ。サンドリーヌ・ルケが手がけるこの部屋は、ルケが県北地域でみつけた様々なものが展示される『紅毛先生の驚異の部屋』。かつてのヨーロッパでは様々な地域の珍品を収集した博物陳列室、「驚異の部屋」が流行したそう。ルケの目を通すと、県北は、不思議で土着的、見知らぬ神話の国のようです。
高戸海岸~前浜・小浜~
穂積家住宅を後に、次に向かうは高戸海岸。ちなみに高戸海岸は日本の渚百選の一つだそう。その渚にどーんと展示されているのは、イリヤ&エミリア・カバコフの『落ちてきた空』とニティパク・サムセンの『テトラパッド』。カバコフの作品は、1986年4月12日のハリケーンで空が落ちてきたという、時空を大胆に越えるアートならではの発想による作品です。一方、海岸にあるテトラポッドを模したサムセンの作品は、カラフルで目に楽しいだけでなく、実際触れて遊ぶことの出来るもの。「アートって何?」。明快な答えのないまま、問われ続ける永遠の命題ですが、遊び心をくすぐるアートもよいものです。
高戸海岸の前浜から次は小浜へ。ここに突如あらわれるのはスッシリー・プイオックの『ソウル・シェルター』。人の身長もあるような巨大な貝のオブジェと思いきや、貝殻の下からは巨大な人間の指が足のように生えています。不気味なのにどこかユーモラス。生命のあり方に関心を寄せながら創作を続けてきたプイオックは、この作品に死と再生のイメージを託したとのだそう。
御岩神社
随分早足で会場を移動しているつもりなのに、時間はあっという間に過ぎてしまいます。車で次の会場、御岩神社へ急ぎます。御岩神社は188柱もの神様をお祭りする超強力パワースポットなのだそう。そんなことは露知らずだったのですが、樹齢約600年と推定されている三本杉等々、日常を刻む時間のリズムをはるかに超越した大きな時間の流れ、雰囲気に圧倒されてしまいました。
神妙な気持ちで足を進めると・・・ありました!今回楽しみにしていた作品の一つ、森山茜による『杜の蜃気楼』が!!すっくと空に伸びる杉林に、何ものともいえないけれど、美しい何かが浮かんでいます。約6,000枚の繊細なフィルムからなるインスタレーション。ここにしかない空気、風、雨を映して、静かに輝いていました。場所とあいまってありがたい気持ちに包まれながらしばし鑑賞。
同じ境内の中に、もう一つ展示されている作品が岡村美紀による『御岩山雲龍図』。社の一つである斎神社の天井画として奉納されたこの作品には、御岩山の上空を飛ぶ龍の姿が天井を覆い尽くす迫力で描かれています。とても伝統的な手法で描かれていて、「元々あった天井画です」といわれても納得する馴染みっぷり。どういう視点、意図が込められた作品なのかわからなかったのですが、従来の天井画とは違い、上空からの視点が描かれているのだそう。空を仰ぎ見ることしか出来なかった昔と違い、飛行機が出来、宇宙開発がどんどん進む今だからこそ描ける目線。人と空との関係が変わることで、天井画も変わっていくのですね。
日鉱記念館
さて次は日鉱記念館へ。日立市発展の原動力ともなった日立鉱山跡地に建てられたこの施設では、鉱山にまつわる資料とともに、タクシナー・ピピトゥクルの『Playable Sculpture(遊べる彫刻)』が展示されています。鉱山の道具や鉱夫をインスピレーションとしたこの作品では、掘削のドリルが変形メカさながら昆虫に姿を変えるとのこと。触れられる作品ということに俄然テンションを上げていったのですが、破損のため遊べなくなっているという悲しい事実が・・・非常に残念。みるだけではなく、手にとってということが作品鑑賞の上でのコンセプトなのであれば、触って遊んでみたかった。。。
旧常陸太田市自然休養村管理センター
次に向かうは旧常陸太田市自然休養村管理センター。建物に一歩足を踏み入れるとまず目に入るのは、無数の苔玉。三原聡一郎による『空白のプロジェクト#3 – 大宇宙(うちゅう)の片隅』です。じっとみていると、この苔玉、動いております。微生物燃料電池の技術を元に、苔からの発電を原動力としているとのこと。コロンとした苔玉のフォルムとあいまって、動く様子が妙に愛らしいのです。
続いて目の前には折鶴の群れ。BCLの『折り紙ミューテーション』。「DNA折り紙」を入れ込んだ和紙による折り紙という二重構造のこの作品。さらっと書きましたが、「DNA折り紙」とは何ぞや?鎖のようにつながる形体のDNA鎖を折り曲げつくられたナノサイズの構造体のことだそうです。もはや肉眼では、「DNA折り紙」があるのかないのか分かりません・・・。
かつての集会施設を利用したこの会場では、オロン&イオナ&マイクの『ケアとコントロールのための容器』、ヴァイド・インフラ、岩崎秀雄+metaPhorestの『aPrayer まだ見ぬ つくられしものたちの慰霊』といった、芸術と科学が融合したバイオアート作品が集結、そんな中で、特に印象に残ったのが、石田尚志による『旧展示室』。展示会場の壁に絵を描き、その様子を撮影。そこから生み出されたアニメーションを同じ壁面に映写したインスタレーションです。書いた時の光の明るさ、影も投影され、今自分がみているものが、現実なのか映像なのか分からなくなってきました。
常陸多賀駅前商店街~旧銀行・多賀パルコ・花金ほか~
おっ。空が段々暗くなってきています。急がねば。次に目指すのは、常陸多賀駅前商店街。まず、和田永の『エレクトロニコス・ファンタスティコス! in 日立』を目指します。ここは、古い家電を新たな電子楽器として蘇らせるプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」の日立での基地ともいえる場所なのだそう。実はこの日の夜、プロジェクトによるパフォーマンス「和田永 エレクトロニコス・ファンタスティコス!~日立通電篇~」があるのです!
次に向かったのは青崎伸孝による『スマイリー・バッグ・ポートレート』。アメリカではお馴染みのレジ袋、「スマイリー・バッグ」を用いたパフォーマンスです。特別ではない安い素材ではあるけれど、コミュニケーションを重ねながら、相手の特徴を描き入れた「スマイリー・バッグ」描かれた本人と同じく唯一無二のもの。
中崎透の『看板屋なかざき』では、市町村の統廃合によって消えた地域、地名を看板にしたインスタレーションが。昭和なネオンを思わせる色合いがどきつくもノスタルジック雰囲気をかもし出しています。看板のデザインはその地域を連想させるものなのでしょうか。
次の作品を探していると、街路樹や手すりがニットで包まれています。力石咲『ニット・インベーダー in 常陸多賀』です。ニット自体は特別なものではないけど、見慣れたものがニットで包まれるだけで、異空間にみえてくるのが面白いです。こちらの作品会場となった旧銀行には他にも松本美枝子の『山のまぼろし』、藤浩志の『ポリプラネットカンパニー』が展示されています。なかでも架空の会社によるインスタレーションを展開した『ポリプラネットカンパニー』はその設定の遊び心とともに、まさにおもちゃ箱をひっくり返したような色、物の洪水にわくわくしてしまいました。
続いては加藤増田齋藤岩沢(KMSI)による『A Wonder Lasts but Nine Days ー友子の噂ー』。国際展では初となるアート・ハッカソンにより誕生した作品です。日鉱記念館の展示資料でもみた「山中友子」という言葉。人名でも何でもなく、鉱夫たちの互助制度を指すのだそう。
同じ会場には階を変えて、松井靖果による『この先、記憶の十字交差あり。』が展示されています。幼少期に日立市に住んでいたという松井靖果。記憶に残る場所を訪れ、そこであった出来事を思い出しながら、撮影した写真等を基に描いた絵が会場に展示されています。絵が出来るプロセスを記録した映像も映写されていて、この作品をめぐる松井の心の動きまでもが視覚化されているよう。記憶を辿る頭の中を覗き見しているような、そんな気がする作品でした。
日立駅
和田永等のパフォーマンスに向けて日立市内に戻ってきました。ここでのお目当ては茨城県出身の世界的な建築家妹島和世と同じく国際的に活躍するフランスの作家ダニエル・ビュレンによるコラボレーション、『回廊の中で:この場所のための4つの虹 ー KENPOKU ART 2016のために』です。妹島がデザイン監修したガラス製の日立駅舎を、ビュレンによる虹色のカッティングシートが覆いつくすというもの。白いコンコースの壁が、それぞれの色を受けて様変わりしています。旅の出発点であるだけでなく、日常的な移動の場である駅。カラフルに色づくだけで、こんなにもわくわくする場所になるなんて。非日常感が高まります。
日立シビックセンター
いよいよ本日のタイムリミットが近づいてきました。1日目最後の作品となるのは、テア・マキパーによる『ノアのバス』。人と自然との共生をテーマとするこの作品では、廃バスの中に日立市に自生する植物が茂り、ウサギ、ロシアンリクガメ、セキセイインコ、モルモット、レースポーリッシュ(鳥)が暮らしています。人は空調管理、ケアはするけれど、バスの中で他の動物と同じように暮らすわけではない。その距離感、関わり方について色々考えつつも、マイペースで元気そうなモルモットをみていると疲れが癒えました。
強力に後ろ髪をひかれつつ「和田永 エレクトロニコス・ファンタスティコス!~日立通電篇~」の会場へ。役目を終えた家電を新しい電子楽器に生まれ変わらせる和田永のプロジェクトの下結成された地元チームNICOS LAB in HITACHIと和田永のパフォーマンスが公開されます。会場の席は既に満員で、これから始まることに興味津々という感じ。舞台上には既にブラウン管が設置され、期待が高まります。「ブラウン管ガムラン」で始まったパフォーマンスは圧倒的なリズムで一気に会場を巻き込みます。「扇風琴」と進み、ボーダーでかなでる「ボーダーシャツァイザー」では、参加者の方が日ごろの練習の成果を披露。地域から参加者を募っていた今回のパフォーマンスならではの一体感を感じました。
そして最後にはなんと「通電日立ハイタッチ」に挑戦。その場にいる全員が手をつないで通電させるのですが、会場に何人いるのだろう・・・少なくとも100人は超えていそうな大人数です。そんな大勢をなんとかスタッフの方がとりまとめながら、こちらも無事成功させることが出来ました。
「通電日立ハイタッチ」終了後は、日立シビックセンターのエントランスにある和田永の『日立電輪塔』を体験するワークショップも行われました。こちらは電磁波のノイズをラジオが受信して、明滅するブラウン管テレビが埋め込まれたタワー型の作品です。
「みる」というスタンスで終日過ごした後に、思わぬ参加型のパフォーマンスで幕を閉じた1日目。2日目のプランを練るとともに、いざ県北の夜へ!!・・・何食べよ。。。
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