奈良美智が国内5年ぶりの個展『for better or worse』に込めた想いとは!?

羽田沙織

羽田沙織

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左:《TwinsⅠ》2005 サムソン美術館リウム蔵、中央:《TwinsⅡ》2005 サムソン美術館リウム蔵、右:《ハートに火をつけて》2001 個人蔵

 

 

昔を振り返った時、誓い合った夫婦のように、良き時も悪しき時も(for better or worse)ちゃんとやってきたな。制作はいつも傍にあったな。まだ別れてないな。

奈良美智(メディアインタビューにて

 

奈良美智氏 写真:森本美絵
奈良美智氏 写真:森本美絵

 

for better or worse に込めた想い

 

《The Girl with the Knife in Her Hand》1991 強い輪郭線でドローイングのように描かれたこの初期作品は、根本的に伝えたいものは何なのかを表現した作家にとって画期的な作品 写真:木奥恵三
《The Girl with the Knife in Her Hand》1991   ヴィッキ&ケント・ローガン夫妻、サンフランシスコ近代美術館蔵 強い輪郭線でドローイングのように描かれたこの初期作品は、根本的に伝えたいものは何なのかを表現した作家にとって画期的な作品 写真:木奥恵三

 

『奈良美智 for better or worse Yoshitomo Nara for better or worse』展は、作家が愛知県立芸術大学修士課程を修了した1987年から2017年までの歩みをたどる大規模な個展であり、これから描いていく作品たちへ向けられた決意表明でもあります。
今回、日本で初めて展示される作品が27点。国外から借用されたのは35点。
また、実際の作家の部屋にある棚がそっくりそのまま再現され、324枚もの私物レコードや、小説に画集、写真集なども展示されています。

 

「自分は美術を勉強してきた人間ではない。(中略)血になっているものは別のこと」と自身が話すように、作家の感性を育んできたものの一端をここでは垣間見ることができる。
「自分は美術を勉強してきた人間ではない。(中略)血になっているものは別のこと」と自身が話すように、作家の感性を育んできたものの一端をここでは垣間見ることができる。 写真:木奥恵三

 

レコードが自分にとっての画集だった。男の人が半分水に入っているジャケットとかは、同じ絵を何枚も描いているし、何かメッセージを持っている女の子とかも、(レコードの)ジャケットにある。それを見て描いたわけじゃなくて、出てきちゃうんですよ。子供の頃に見たものが。
音楽を聴きながら、わからないジャケットを見ながら、英語もわからないけれど頭の中で知っている単語をつなぎ合わせて訳す。それが想像力、脳みその訓練になったと思うんですよ。
だから、それが(展示を見る人に)伝わるかわからないけれど、この壁を使ってレコードを並べてみたかったので、今回夢が叶ったという感じです。

奈良美智メディアインタビューにて

 

写真:木奥恵三
写真:木奥恵三

 

会場2ヶ所では、実際に音楽も流れています。レコードが壁一面に並べられた展覧会のプロローグ的な場所では、作家自らミックスした全45曲を聞くことができます。
メディアインタビューの最中に、スタッフの方がその音楽のボリュームを下げた瞬間、
「これ(音楽)がないと、俺、ホウレンソウがないポパイみたいに弱くなっちゃうんだよ~」と照れくさそうに話す姿は、その日一番の笑顔でした。
また、自身がパーソナリティを務めるラジオ番組「渋谷のラジオ」で放送中の「渋谷親父ロック部」では、毎週、奈良美智氏自らセレクトした音楽と、その曲についての想いやエピソードを聞くことができます。もっと奈良美智氏について知りたいという方は、「渋谷親父ロック部」に入部(番組を聞くこと)することをオススメします。
アプリをダウンロードすれば全国どこからでも聞くことができます。

 

《Voyage of the Moon(Resting Moon)/Voyage of the Moon》2006 金沢21世紀美術館での展示のために大阪のクリエイティブユニットgrafと共に制作された作品。作品の中にも入ることができる。頭上には 《Lonely Moon/Voyage of 写真:木奥恵三
金沢21世紀美術館蔵 金沢21世紀美術館での展示のために大阪のクリエイティブユニットgrafと共に制作された作品。作品の中にも入ることができる。 《Voyage of the Moon(Resting Moon)/Voyage of the Moon》2006 金沢21世紀美術館蔵、頭上には 《Lonely Moon/Voyage of the Moon》2006 写真:木奥恵三

 

作品の内部。作品はもっと生活や身の回りのものと切り離せないものではないかという作家のメッセージが込められている 写真:木奥恵三
《Voyage of the Moon(Resting Moon)/Voyage of the Moon》内部。作品はもっと生活や身の回りのものと切り離せないものではないかという作家のメッセージが込められている 写真:木奥恵三

 

作品は「見る」のではなく「向き合う」

 

写真:木奥恵三
左:《Missing in Action》1999 個人蔵、右:《サヨン(莎詠)》2006 東京都現代美術館蔵 写真:木奥恵三

 

今回の展覧会は展示方法にもこだわりが。
豊田市美術館の展示室約1900㎡に、作品1点1点の間はたっぷりと空間が取られています。そのため、今回の展示では、作品を「見る」というより「向き合う」感覚。
一枚一枚、作品と向かい合って制作している作家の感覚を追体験できるのです。

 

キャンバスの中の女の子1人1人に会いに行く感覚で美術館内を歩いてみてください。話しかけてみてください。きっと友達になれるはず!
左:《ブランキ―》2012 個人蔵、中央:《夜まで待てない》2012 個人蔵、右:《Dead og Night》2016 個人蔵 キャンバスの中の女の子1人1人に会いに行く感覚で美術館内を歩いてみてください。話しかけてみてください。きっと友達になれるはず!

 

また、今回の展覧会では作品がアクリル板に入っていたり、作品の前に金属の棒などで柵が作られたりすることもなく、絵画作品の繊細な絵肌を直にご覧いただけます。
むき出しの作品1点1点とじっくり向き合うと、少女の目の位置が微妙に修正されている様子や、髪の毛が塗りなおされている様子、絵肌の質感に至るまで克明に感じることができます。

 

今回の展覧会では初期の作品も堪能できます!《花をあげよう Give You the Flower》1990 《続いてゆく道に》1990 写真:木奥恵三
左:《花をあげよう Give You the Flower》1990 個人蔵、右:《続いてゆく道に》1990 青森県立美術館蔵 今回の展覧会では初期の作品も堪能できます! 写真:木奥恵三

 

1988年~最新作までのドローイングが並ぶ部屋。通常、石膏ボードを塗って仕上げる壁をわざと途中の状態にしている。ドローイングのラフな感じがダイレクトに伝わるための工夫がここにも。 写真:木奥恵三
1988年~最新作までのドローイングが並ぶ部屋。通常、石膏ボードに塗装を施して仕上げる壁をわざと途中の状態にしている。ドローイングのラフな感じがダイレクトに伝わるための工夫がここにも。 写真:木奥恵三

 

《Midnight Truth》2017
《Midnight Truth》2017 作家蔵 写真:木奥恵三

 

《Fountain of Life》2001/04 目からこぼれる涙が、カップの中の泉に流れ落ちる音が響く 写真:木奥恵三
《Fountain of Life》2001/04 ペッチ・オーサターヌクロ氏蔵 目からこぼれる涙が、カップの中の泉に流れ落ちる音が響く 写真:木奥恵三

 

《Heads》1998 写真:木奥恵三
《Heads》1998 青森県立美術館蔵 写真:木奥恵三

 

展示を振り返って…

 

最初の方の作品に比べると、最後の方が豊かになってきている。隠してたものを全部出してきて、色なんかもわざと全部塗りきらなかったり、バックもいつもだったらもっと綺麗にバシッと塗っちゃうんだけど、塗らなかったり。ニュアンスで残す。雰囲気がオーラのように絵から出るように。気、オーラが出ていると思う。最近の作品の方が、より人間に近くなってて、最初の方の作品はイメージとしてはすごく強い感じで、漫画のようだとかっていう形容が似合うかもしれないけれど、自分がそれだけの人間だったわけで。
人ってやっぱり進歩すると思うので、昔できなかったことがどんどんできるようになってきて、それがニュアンスを出すことだったり、オーラみたいなものを絵から漂わせるコツだったり。上の絵(2階3階展示室の最近の作品)の方は、息苦しい位圧倒される感があるんじゃないか。と、うちのアシスタントが言ってました(笑)

奈良美智メディアインタビューにて

 

 

記者内覧会合同インタビューでの奈良美智氏
記者内覧会合同インタビューでの奈良美智氏

 

作品と1対1で向かい合い、そのオーラを受け取った時、作品の中の人物はあなたに何を語りかけてくれるでしょう。この夏あなたも是非、体感してください。

 

奈良美智 for better or worse
Yoshitomo Nara forbetter or worse Works:1987-2017

会  期:2017年7月15日(土)~9月24日(日)
開館時間:10:00~17:30(入館は17:00まで)
休 館 日:月曜日(8月14日、9月18日は開館)
開催場所:豊田市美術館
観 覧 料:一般1500円(1300円) 高校・大学生1000円(800円) 中学生以下 無料
  ( )内は20名以上の団体料金、障碍者手帳をお持ちの方(介添者1名)、豊田市内在住または在学の高校生及び豊田市内在住の75歳以上は無料(要証明)
U R L:http://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/2017/special/narayoshitomo.html

渋谷のラジオ https://shiburadi.com/

 

 

羽田沙織

元NHK宇都宮局キャスター/元ZIP-FMミュージックナビゲーター。 現在は、フリーアナウンサーをしながら、アートエバンジェリストとして、アートイベントの企画・開催・案内を行っています。 ヒューマンアカデミーで『名古屋アートサプリウォーク』の講師も担当。 講座では、1日1万歩歩くことを目標に美術館やギャラリー、パブリックアートを見てまわっています。