狂気を狂気のままに、冷めた眼差しで人の「むきだし」をあぶり出す『宮本から君へ』 監督・真利子哲也

狂気を狂気のままに、冷めた眼差しで人の「むきだし」をあぶり出す『宮本から君へ』 監督・真利子哲也
 ©「宮本から君へ」製作委員会 


真利子哲也(まりこてつや)が、
2016年に公開された柳楽優弥(やぎらゆうや)主演の『ディストラクション・ベイビーズ』に続き、渾身の役者魂を引き出した映像をテレビドラマで送り出しました。20184月から6月までテレビ東京系列の深夜枠にて放送された、『宮本から君へ』です。1990年代はじめに、賛否両論を巻き起こしながら若者の心を掴んだ新井英樹の漫画をドラマ化した本作は、文具メーカーの新入社員宮本浩が、仕事や恋に七転八倒してもがきながら、社会人としても人としても成長していこうとする、熱く、不器用な生き様を描いています。主演の池松壮亮(いけまつそうすけ)の突っ走る演技を、冷徹にすくい取る映像が底知れぬ才能を感じさせる作品でした。

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新境地を拓いた主役の宮本浩を演じる池松壮亮

 

熱量に突き動かされる、真利子作品の理由なき演技


1981年生まれで、まだ30代という若さの真利子哲也。商業映画デビュー作『ディストラクション・ベイビーズ』は、純愛をエネルギーに疾走(暴走?)する園子温(そのしおん)監督の2009年の作品『愛のむきだし』を思い起こさせる破格の衝撃度でした。1961年生まれでリアルタイムでパンクを体験してきた世代の園子温。パンクムーブメントが終焉期を迎え、ニュー・ウェーヴが革新的な音楽性を失っていった時代に生まれた20歳年下の真利子。二人の作品にみられる、役者の力を極限まで引き出した「むきだし」の映像と演出は、パンクが持っていた、既成概念ではなく自身の信念で行動し続けるピュアなパンクスピリットを感じさせる点で共通しています。 

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真利子哲也の映像にはどこか居心地の悪さが同居しています。園子温の作品の持つドギツさやドラマ性と対照的な、演技者の発するすさまじい熱量を見つめる、どこか冷徹な眼差しと理由付けの不在。トランス状態のパフォーマンスをただじっと凝視して記録しているかのような佇まいです。池松壮亮が述べる原作通りの宮本の理屈や口上は、耳の中を素通りしていき、わたしたちはそのピエロ的な熱血行動をただ傍観するのみ。『ディストラクション・ベイビーズ』の柳楽優弥の無表情の暴力を犯罪心理学的に分析することは放棄して、その現場の目撃者になるしか仕方がないのです。

 

 際立つ音楽と映像センス


『宮本から君へ』の主題歌「Easy Go」は、原作漫画の主人公「宮本浩」の名前のもととなった宮本浩次率いる「エレファントカシマシ」が担当。写真家の佐内正史(さないまさふみ)によるオープニングとエンディングが、ひたすらパンキッシュでカッコいいです。映像の題字は、原作者の新井英樹の直筆によるもので、真利子哲也は監督に加え、全話の脚本と演出も手がけています。 

映画『ディストラクション・ベイビーズ』のタイトルは、主題歌の「約束」と劇中音楽(劇伴)を手がけた向井秀徳(むかいしゅうとく)が、「ZAZEN BOYS」の前に結成したバンド、「ナンバーガール」の1999年のシングル「DESTRUCTION BABY」から採られたもの。真利子監督から直接依頼を受けて参加した向井の劇伴は、ジャズ・ミュージシャンとコラボしたフリージャズ的な緊張感に溢れた音楽です。『宮本から君へ』も『ディストラクション・ベイビーズ』も、タイプは違うものの映像の素晴らしさが際立つ作品。音楽と映像の感度の高さが、真利子哲也の作品の魅力であるのは確かです。

 

みてから読むか、読んでからみるか ‐パンクそのものな原作漫画『宮本から君へ』


1963年生まれの新井英樹もまた、園子温のような「むきだし」のパンクスピリットを追求する作家です。『宮本から君へ』は、1992年度の小学館漫画賞青年一般部門を受賞していますが、前半と後半ではその趣きがまるで異なる「いびつ」な作品です。前半が、『あしたのジョー』でお馴染みのちばてつやの熱血漫画を彷彿とさせる内容に対して、後半には永井豪の『デビルマン』等バイオレンス漫画のような壮絶な復讐劇が疾走。宮本の顔は大きく変貌して、『ねじ式』のつげ義春や『成り行き』のつげ忠男のような暗い劇画タッチのコマが増えていき、青年漫画誌の読者を突き放しています。

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ともあれ宮本を演じきった池松壮亮が、ボソボソと低音でつぶやくこれまでの演技から、今作でつるりと一皮剥けたのは確かでしょう。役者を再構築する手腕も光る真利子哲也の次回作が今から楽しみです。

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