日本のアート振興に欠かせない、国が開設する「アート・コミュニケーションセンター(仮称)」の役割

日本のアート振興に欠かせない、国が開設する「アート・コミュニケーションセンター(仮称)」の役割

昨今、⽇本における現代アートの重要性が高まっています。このことを決定付けるかのように、1⽉19⽇に行われた衆議院本会議において、自民党の梶⼭弘志議員が、岸⽥⽂雄総理⼤⾂に以下の質問を投げかけました。

「新しい資本主義の実現を⽬指す中で、⽇本が誇る⽂化的資産やアート作品、そしてアーティスト達を守り、育て、そして新たに⽣み出し、国富として将来世代へと引き継いでいくべきだと考えるが、⽇本の⽂化、アート振興に対する総理のお考えを伺いたい。その際、国⽴新美術館をグローバルな発信拠点として有効活⽤するなど、我が国のアート振興に貢献する主体として独⽴⾏政法⼈国⽴美術館の抜本的な改⾰を進めるべきとも考えるが、あわせて考えを伺いたい」

この質問に対して、岸⽥総理は「我が国の⽂化資源やアート作品は、観光を通じた地域活性化などに貢献する資産であり、我が国に対する世界の「憧れ」を⽣むソフトパワーの源泉だ。これらを将来にわたって継承・活⽤するため、世界に魅⼒を発信し、新たな創造を持続的に⽀えることが重要。このため、世界的な現代アーティストの輩出に繋がるよう、作家の国際展開⽀援や、作品価格の透明性向上等を通じて取引市場の活性化に注⼒するなど⽂化・アート振興を推進していく。ご指摘の独⽴⾏政法⼈国⽴美術館については、アート振興の中核として、優れた学芸員の育成による世界的なコレクションの形成・活⽤や、国⽴新美術館におけるアートの魅⼒のグローバルな発信など、抜本的な機能強化を進めていく」と答弁しました。

去る3月11日に、文化庁が主催する「文化庁アートプラットフォームシンポジウム グローバル化する美術領域と日本の美術界:我が国現代アート振興の黎明期~アート・コミュニケーションセンター(仮称)と国立美術館に期待する役割~」の記者会見とシンポジウムが開催されました。

この中で文化庁は、日本の現代美術は、作家、研究者、キュレーター、ギャラリスト、美術館などの関係者・関係機関が個別に努力し支えているが、それら関係者の活動を全体的に把握し、必要な情報発信を行ったり戦略を立てて支援を行ったりする中心となる機関が存在しないとし、「アート・コミュニケーションセンター(仮称)」開設の必要性を述べました。
本センターは、我が国アートの国際的な評価向上と日本の美術館全体を底上げし、現代作家の育成をはじめとする我が国におけるアートの振興のナショナル・センターとしての機能を抜本的に強化することを目的としています。

アート・コミュニケーションセンター(仮称)の具体的な役割としては、(※)国内美術館と連携し、所蔵作品や美術資料等の情報集約とデジタル化を進め、国内外に発信すること、日本美術の国際的な価値評価の向上に資するための情報発信拠点として、国際的なネットワークの構築、効果的な情報発信の推進、そしてアートの力で社会に貢献すべく、ラーニングに関する調査・研究・実践を行うとともに、教育・医療・福祉・ビジネス・観光などとの多様な社会連携の推進により、アートの社会的価値の向上を目指すことが掲げられています。(※出典:Bunka-cho Art Platform Japan Symposium © 2022 Art Platform Japan)

森美術館館長であり、国際美術館会議(CIMAM)会長も務める片岡真実アート・コミュニケーションセンター(仮称)エグゼクティブ・アドバイザーは、アート・コミュニケーションセンター(仮称)の必要性の背景として、1990年代以降の現代アートのグローバルな拡がりを挙げています。多文化主義が拡がり、世界各地の近現代美術が再評価され、アジアについては経済発展とともに、近現代美術館、国際展、アートフェアが90年代以降、急増していると述べています。美術館行政に関して、日本はアジア内で先行していたといえますが、2014年に⽂化庁内で初めて現代アートについての課題を整理する検討会が行われ、ようやく2021年にアート・コミュニケーションセンター(仮称)の予算化が決定するなど、アジア、ひいては世界のアート業界から遅れを取っていると指摘。

また、「東京国立近代美術館、国立西洋美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館、国立新美術館、国立映画アーカイブ、国立工芸館といった7つの国立館それぞれが特徴を持って独自のプログラムを行っているが、それらすべてを繋げることができないか。アート・コミュニケーションセンター(仮称)の機能を加えることによって、ナショナルコレクションだけでなく、国内の公立、私立もあわせた美術館のハブとなることが重要。横串を刺して繋がっていかなければならない時代に、アート・コミュニケーションセンター(仮称)が日本のアート振興の主体になることができないか議論すべきときが来た」と語りました。

シンポジウムでは、英国「テート」、オーストリア「フィレアス」、シンガポール「ナショナル・ギャラリー・シンガポール」のアート支援の3つの実例が紹介されました。20年間東京国立近代美術館で勤務していた経験を持つ、滋賀県立美術館ディレクター(館長)の保坂健二朗氏が、「シンガポールのコンサベーションセンターを見学した際、各館ごとにはなく合同して持つことで、コンパクトかつシステマティックにすることができていた。グラスゴーでも同様の事例があるように、これは国だけができることではなく、様々な自治体でも可能。今後のナショナルコレクションのあり方について示唆的だ。日本の美術館は館単位の思考を変えていくべき。シナジー効果が得られるかどうか議論すべき」と述べました。

日本のアート業界のさらなる発展のため、アート・コミュニケーションセンター(仮称)の重要性は増すばかりです。
 

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