文化芸術の灯は消さない。財務省との戦いで勝ち取った文化芸術支援予算。 元バレリーナの衆議院議員 浮島とも子

文化芸術の灯は消さない。財務省との戦いで勝ち取った文化支援予算。 元バレリーナの衆議院議員 浮島とも子

今回は衆議院議員の浮島とも子さんをお招きし、日本の文化芸術に対する振興政策についてお話を伺いました。浮島さんは、2004年の参議院議員選挙で初当選されてから、これまで様々な役職を歴任し、文化芸術分野の推進に尽力されています。

インタビュアー:
浮島さんは、元々バレリーナをされていたとのことですが、これまでの経歴を教えてください。また、文化芸術の振興を志すきっかけはあったのでしょうか。

衆議院議員 浮島とも子さん

浮島とも子さん(以下、浮島):
バレエを始めたのは幼稚園の時です。男の子たちとウルトラマンごっこをやるのが嫌で、女の子と遊びたかったから始めました。19歳の時に、香港ロイヤルバレエ団から招聘されて、海外の舞台で踊るようになりました。バレエ団を退団した後に、香港とシンガポールでカルチャースクールの経営を行いました。1993年にアメリカに渡り、フリーダンサーとして活動した後に、アメリカのデイタンバレエ団と契約して、プリマバレリーナを務めていました。

バレリーナ時代の浮島とも子さん

とても充実した日々を過ごしていた中で、1995年に起きた阪神・淡路大震災のニュースをテレビで観ました。当時は、プリマバレリーナとして、最前線で活動をしていましたが、その惨状を見て、いてもたってもいられなくなり、日本に帰国しました。神戸ルミナリエでボランティアとして子どもたちとバレエも踊りました。

その時に、余命いくばくかの6歳の女の子に出会いました。子どもたちが歌って踊る作品をとても喜んで観てくれたのですが、数か月後に亡くなってしまいます。「バレエのお姉さんにありがとうと伝えてほしい。今度生まれてきたら歌って踊れるバレリーナになりたい」と最後に言ったそうです。

それを聞いて、みんなでもう泣いてしまって。文化や芸術の力はここにあるのだと強く確信しました。目には見えないけど、もう尋常な力ではないのです。芸術は誰かの心を元気にしますし、それに真剣に取り組んだことで、何か得るものが必ずあります。携わった人じゃないとなかなか理解しがたいと思うので、是非多くの人に文化芸術に関わってほしいです。

ボランティア公演終演後の一コマ

 

インタビュアー:
どんな人たちに、文化芸術が必要だと思われますか。また、日本が国家レベルで文化芸術に対して、すべきことは何だと思われますか。

浮島:
特に子どもたちに、もっと文化芸術に触れてほしいですね。例えば子どもでも、真剣に取り組んだ舞台やスポーツがあれば、絶対に何かを得ると思うんですよ。子どもの時に自分との闘いとか、限界に挑むとか、そういう向き合い方を学ぶ機会を与えてあげたいのです。

子供たちに、もっと文化芸術に触れてほしい

でも、文化芸術が人の心を豊かにすると言っても、目に見えるものじゃないですよね。橋や道路だったら、災害で壊れました、国からお金入りました、修復してみんなが幸せになりましたってなるけれど、文化芸術分野で国からお金をもらうのは本当に難しい。真の心の豊かさを感じたことがない人たちに、いくら説得しても響かないんです。官僚の中には部活動やスポーツが不要だと言う人すらいますよ。

とにかく、どれだけ文化芸術を大切に思ってくれる人を増やせるかということが重要ですね。そのためには、まず文化芸術を志す人の支援をしないと、日本を文化芸術立国に仕立て上げることはできないと思います。

プロのバレエダンサーとして働いていた私の経験からすると、海外では舞台に出るためだけに練習をして、きちんと給料を貰えていました。でも、日本では「アーティスト」を専業にするのは難しいです。他にアルバイトなどをしないと生活できない環境ですから。

このコロナ禍において、友人の平野亮一さん(英国ロイヤルバレエ団プリンシパル)と、大変だね、って話をしていました。そうしたら彼は、「イギリスでは、舞台が休みでも給料の8割は保証してくれるから、今が一番充実している」と言うんです。普段は朝から晩まで練習なので、自然に触れるとか、本を読んだりとか、演技力を学んだりとか、なかなかできない。けれど、今なら自由な時間を活用して、それらをすることができると。

左:平野亮一さんのお母様、平野節子さんが主宰をされる、平野節子バレエスクールにて対談 2016年7月9日(兵庫県尼崎市内) 右:英国ロイヤルバレエ団 「ドン・キホーテ」公演の際にプリンシパル平野亮一さんと 2019年6月22日(東京文化会館)

それに対して、日本の文化芸術団体の方々は、この状況下でとても疲弊していますよね。政府は文化芸術の灯を守ると言っていますが、これでは守るどころか消えてしまいます。何か手を打たなきゃ、私に何ができるだろうと考えたら、とにかく文化芸術団体の方々のために予算を確保することだと心に決めました。そこから、財務省との長い戦いが始まりました。


インタビュアー:
財務省とはどのようなやり取りをされたのですか。

浮島:
財務省からは、なぜ文化芸術の人だけに、支援をしなくてはいけないのか。困窮しているのは文化芸術だけじゃないし、スポーツも、他のジャンルもみんな困っている。だからアーティストの生活費の面倒は見られないという返答でした。

私はそこで、生活の支援ではなく、次のステップへの準備のため、とのことで理解を得ました。平野亮一さんとの会話を例に出して、海外ではこうなんですよと伝えて・・・。例えば絵を描く方だったら、新しいキャンバスを買ったり、筆を買ったり、今まで使ったことがない絵の具を買ったり、次の作品のために活動を継続できる土台が必要です。バレエダンサーだったら、1足1万円くらいするトゥシューズが必要です。でも収入が無ければ、必需品なのに買えない。でもそれが買えるのだったら、自分で稽古場を借りて練習できます。

だから今の状況の中で、次のステージのための勉強、継続していくための支援はどうかと説得しました。それでやっと財務省側も、それだったら考えてみましょうかって動きはじめました。

でもある日の夜、財務省の人たちが来て、「もう勘弁してください、無理です」って言うんです。まあ、財務省の言い分もわかりますけれどね。生活支援は、文化芸術の人だけじゃなく、全ての人に必要です。すでに国民1人につき10万円も給付していた状況でしたし。
とにかく、財務省の方々を説得するのが本当に大変でした。

それでも、2020年5月27日に閣議決定された第2次補正予算案には、稽古場の確保や公演などを支援する総額560億円(スポーツを含む)の「文化芸術活動への緊急総合支援パッケージ」が計上され、6月12日に成立させることができました。

萩生田文科相(中央)に文化芸術救済支援策申し入れる 2020年5月19日(文部科学省)

 

インタビュアー:
こういった攻防の末に予算が成立したことを多くの人は、知らないと思います。

浮島:
本当に、血を吐くような思いで予算をとってきたんですよ。(笑)

浮島とも子さん

ただ、今回の「文化芸術活動の継続支援」は、経済産業省がやるような企業向けのスキームとなってしまいました。文化芸術に携わる人はフリーランスが多いのに、この助成制度に当てはめるのが大変なわけです。制度がややこしいので、アマチュアやセミプロの人がわざわざ申請するモチベーションが湧きづらいのも課題となりました。

これらを踏まえて次に活かすべく、財務省との攻防戦をずっと続けました。コロナ禍がまだ続く中において、文化芸術への更なる支援の必要性を訴え、文化芸術活動や施設を支援するための事業を盛り込んだ、総額551億円の第3次補正予算が1月28日に可決・成立致しました。

前回の第2次補正予算では、フリーランスの方々に向けた助成を強化したのですが、今回の第3次補正予算では、「ARTS for the future!」(コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)として、団体向けに総額250億円を充てた積極的な支援制度を整えました。団体と言っても、2、3人の少人数から団体と認めています。団体規模に応じて、600万円~2500万円程度までの定額補助です。これも財務省との攻防で大変だったのですが、給付ではなく、団体の方にお渡しして、そこから使ってもらえる定額補助を推しました。

あと、「アートキャラバン」というのがあるんですけど、第1次補正予算では、約13億円の予算を確保しましたが、実施はアマチュアが主体でした。だけど、プロの人たちも地方で公演する時が、ありますよね。それで、プロ用のアートキャラバンも作ることになり、大規模団体に5000万円までの定額補助を行うこととし、第3次補正では総額70億円の予算を組みました。10億円は今まで通りアマチュアの方々に、60億円はプロの方々へ使っていただくようにしました。

政府側に文化芸術支援の運用改善を求める 2020年10月1日(衆院第1議員会館)

 

インタビュアー:
アーティストが活用しやすいように、改善されていますね。

浮島:    
私が所属する公明党には文化芸術振興会議があり、私が議長を務めさせていただいております。昨年12月17日に会議を開催して、第3次補正予算の説明会をしました。第2次補正予算の補助スキームは、アーティストにとって使い勝手が悪いことが大きな問題になりましたので、たくさんのアーティストや文化芸術団体の方々にお越しいただき、制度の改善点などについて意見交換を行いました。現場で奮闘されている皆様から、直面されている問題点を直接お聞きし、第3次補正の事業の組立てに反映をさせていただきました。

文化芸術関連団体(右側)から要請を受ける公明党文化芸術振興会議 2020年11月10日(衆院第2議員会館)

 

インタビュアー:
その他に、特筆すべき施策はありますか?

浮島:
コロナ禍のせいで、子どもたちが学校内外で、文化芸術の鑑賞や体験できる機会が無くなっています。だから第3次補正予算の中に、私の提案で、文化庁と話し合いをして「子供文化芸術活動支援事業」(劇場・音楽堂等の子供鑑賞体験支援事業)として、10億円計上しました。10億円で何をするかというと、文化施設の運営対象経費の一部を補助することとあわせて、18歳以下の子ども達が、劇場、音楽堂、ホールに行くときはチケット代を全部国が出すようにしたのです。とにかく子どもたちに、本物の文化芸術を見てもらいたくてやりました。18歳以下の子どもたちが、いろんなジャンルの芸術に触れて、これすごいねって感じ取ってくれたら、これを恒久化していく事も考えられます。

インタビュアー:
それは劇場だけですか?美術館とか博物館はどのようになっていますか。

浮島:
私が参議院議員の時、文教科学委員会で質問をし、2008年には国立美術館。2009年には国立博物館への、フリースクールを含む、高校生以下および満18歳未満の入館料は無料にしました。常設展だけが対象ですけれどね。これを機に、全国の美術館・博物館でも、各館で違いはありますが、18歳以下の入館料について、無料もしくは割引を実施する施設が増えてきています。

子どもさんはお小遣いが少ないのに、入場料を取られてしまったら、ふらっと美術館に入れないですよね。文化芸術というのは、身近にあるもので、衣食住と同等なのです。贅沢なものではなく、生活の中で必要なものという認識に変えていかないといけません。

萩生田文科相(左から4人目)にライブイベントの営業縮小への協力金支給を要望する 音楽関係団体と浮島さん(左隣)ら 2021年1月13日(文科省)

 

インタビュアー:
ARTLOGUEも今回のコロナ禍による助成支援で、文化庁の文化芸術の収益力強化事業に採択されました。美術館の3DVRのバーチャルツアーできるコンテンツを有料提供するものです。我々のいるアートの業界や文化芸術の業界で、ちゃんとビジネスを確立して起業できる人間が実在しないとダメだなと感じています。

文化庁「文化芸術収益力強化事業」で実施した美術館の3DVRコンテンツ プラットフォームARTLOGUE VR

 

浮島:
本当に、その通りですね。

インタビュアー:
例えばバレエの世界でも、新しいビジネスモデルを作ってお金を稼ぐことでより多くの人に楽しんでもらえるかもしれません。それこそベルリンフィルが、2009年からいち早く有料でウェブ配信をするなど事例もあります。
もしそれができれば、文化芸術分野もどんどん新しいサービスを生み出す人たちが、増えていくと思います。

浮島:
そうですね、そういう制度もやらなければいけないですね。
そうすれば、そこに勤めている人や、演者本人も経済的に自立出来て、ちゃんと運営が成り立っていきますしね。

ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール のサイト

 

浮島:
だからソフト面の強化が重要です。アメリカの例ですが、1929年の世界恐慌をうけ、当時のルーズベルト大統領がニューディール政策を実施しました。その中で文化事業として、劇場、音楽、脚本、それのプロジェクトを立ち上げて、莫大なお金を投資しました。そのおかげで今のニューヨークのブロードウェイがあり、ハリウッドがあるのです。

ブロードウェイを観るために世界中から観光客が訪れますよね。日本からのお客さんたちは、英語がわからないのにブロードウェイを観て涙するんです。日本で一生懸命働いて貯めたお金を、ブロードウェイを観るために、劇場、ホテル、交通機関、お土産、などに使っていきます。

だから、「日本語はわからないけれど、感動して涙が出ちゃうよ」という芸術文化を作れば、海外の人たちはたくさん来てくれるはずですよね。一昔前は爆買いなんて言われていましたが、一過性のものです。結局、戻るところと言えば、ソフト面以外にありえません。日本の芸術文化でもって、世界の人たちを感動させたいのです。

 

インタビュアー:
本当にその通りだと思います。日本の文化芸術に対して、浮島さんの今後の展望などを、お聞かせください。

浮島:
今後の展望としては、文化庁を文化省にしなければいけないと思っています。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会が1年延期されてしまいましたが、「五輪の年には文化省」を目標に活動していました。

色々なモノを削減しようという行政改革の流れの中で、なぜ文化芸術面に特化した省を増やすのかという意見もあるかもしれませんが、独立した一個の省として、全体をきちんと運営するべきだと考えています。

五輪の年には文化省 創設キャンペーン

 

インタビュアー:
確かに必要だと思います。例えば文化芸術に関することで他省庁が受け持ってやっていることも、文化芸術に携わる人間から見たら、「何でそんなズレたことをしているのか」と疑問に思うことが多々あります。

浮島:
そうですよね。やはり文化芸術の専門じゃないから、中小企業とか大企業とかそういう観点でやってしまうんですね。

でも文化芸術に特化した省が一つあれば、柔軟な対応が可能になります。今は複数の省庁で縦割りになってしまっているから、非効率的です。近い将来、文化庁を文化省にして、しっかりと日本の文化芸術を推進していきたいです。

 

インタビュアー:
最後に皆様へのメッセージがあれば、お願いします。

浮島:
文化芸術は、本当に身近なもので、気軽に触れてもらいたい、それが一番です。
例えば、劇場に行くとしたら、事前にチケット買って、よそ行きの格好をして準備する方が多いですよね。でもそうじゃなくて、ちょっと今日時間空いたから観に行こうかな、くらいの気軽なシステムを作らなきゃいけない。アメリカでは、パッと携帯で見て、席が空いていたらチケットを買って、すぐに行ける雰囲気です。

日本でもそんなふうにお客さんたちに足を運んでもらいたいですし、国としても文化芸術の体制を整えていかなくてはいけないと思っています。

衆議院議員 浮島とも子さん

 

 

 

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