細見美術館の美意識が垣間見える、開館25周年記念展Ⅱ「挑み、求めて、美の極致 ― みほとけ・根来・茶の湯釜 ―」

細見美術館 開館25周年記念展Ⅱ「挑み、求めて、美の極致―みほとけ・根来・茶の湯釜―」

細見美術館は平成10(1998)年に京都・岡崎に開館して以来、細見家の日本美術コレクションを中心に、さまざまな視点から展覧会を行ってきました。この度開館25周年を記念し、コレクターが己の美意識を信じ、懸命に追い求めてきた多彩なコレクションを選りすぐって紹介します。

開館25周年記念では、美意識の高いコレクションを2展にわたって展開し、第1弾「愛し、恋し、江戸絵画 ― 若冲・北斎・江戸琳派 ―」では、二代古香庵 (細見實、1922~2006/細見美術財団前理事長)と妻 有子(現理事長)が二人三脚で蒐集した江戸絵画を展観しました。先見の明をもって集められた伊藤若冲のユニークな作品、葛飾北斎の肉筆美人画、さらには酒井抱一に始まる洗練された江戸琳派の作品群など、夫妻のお気に入りが紹介されました。

「挑み、求めて、美の極致―みほとけ・根来・茶の湯釜―」の展示風会

 第1弾に続き、第2弾では「挑み、求めて、美の極致-みほとけ・根来・茶の湯釜-」と 題して、生涯にわたり自身の鑑識眼を鍛え、学び続けることを諦めなかった初代古香庵(細見良、1901 ~1979)が愛蔵した作品を展開。 美の原点として心酔した神道仏教美術、力強く美しい漆器・根来、研究に没頭した茶の湯釜などの金工品ほか、平安から桃山時代にかけての名品の数々を鑑賞することができます。

 

初代古香庵は興味の赴くまま蒐集した美術品を秘蔵せず、茶会やもてなしの場で積極的に活用してきました。時代やジャンルを超えて取り合わされた美術品の数々は、呼応しあって空間を彩りました。展覧会では、細見家ならではの美の競演も楽しむことができます。

 

細見良行館長は「開館当時、日本美術は未だ一般に親しまれていたとは言えませんでした。何とか垣根を越えていただけるよう、展覧会の企画と同様に、館内のミュージアムショップや、カフェレストランにも力を入れ、美術鑑賞とともに豊かな時間を過ごしていただけるよう努めてきました。美術館も映画やコンサートと並ぶデートコースのひとつに選んでもらいたいと願ったものです。初めて、展示室のガラスケースの前で作品に見入る手繋ぎのカップルを見かけたときの感動を今も忘れることができません。

二十世紀から二十一世紀へ、平成から令和へと移り変わったこの四半世紀、メディアツールや様々なテクノロジーは目覚ましく進化し、日本美術に向けられる世の眼差しも喜ばしい変化を遂げました。細見美術館の歩みは日本美術が皆様に愛される道のりに沿って来れたのだと思います。これからも大切な文化遺産が次の世代の関心を育み、誇りであり続けられるよう、努力してまいります」と語っています。

次に「挑み、求めて、美の極致-みほとけ・根来・茶の湯釜-」の展示室毎におすすめ作品をご紹介します。

1.第一展示室

細見美術館

こちらの作品は、黒漆層の上に朱漆を塗り重ねて仕上げた漆器「根来」。紀州の根来寺などで制作された寺院の什器や飲食器に始まると言われ、堅牢さと実用性を兼ね備えています。長年の使用によって現れる擦れた塗肌やひび割れも趣として、近代の数寄者たちに愛されました。

 

本来神前に酒を供えるために用いられた瓶子は通常一対ですが、本作はそのうちの片方とされています。手擦れによって見え隠れする朱と黒が強く引き合い、この器の経てきた年月がよく理解できます。

 

胴部には、黒漆で吉祥文様である正六角形の亀甲文が施されています。細く引き締まった注ぎ口にふくよかな曲線を描く胴は、抑揚をつけた大胆なフォルムですが、調和に満ちた姿は根来の洗練された美を象徴しています。

細見美術館

初代古香庵が自己流で開催していた仏教美術の茶会でよく掛けていたのが、こちらの《普賢菩薩像》だといいます。細見良行館長は「見ての通り、白い肌にうっすらと桃色を帯びたまことに美しい仏像が、象の上の蓮台に座しています。仏画には珍しく眼球のふくらみを表す弧線が描かれておらず、それが典雅や艶やかさをこの作品に与えているように見えます。

実はこの仏画は、もともと(益田)鈍翁が所持していたものです。鈍翁はこの仏画を手に入れた際、表具をすべて変えています。そもそも仏画は寺院にあるべき質素な表具が施されていますが、それを煌びやかな裂地に変え、宗教品から美術品へと昇華させたのが鈍翁の偉大なところです。

寺院で拝むものから、茶の湯の席などで鑑賞するという新たな仏画の味わい方を開拓した鈍翁の功績は、初代古香庵にも大きな影響を与えています」と述べています。

2.第二展示室

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こちらは、寺院の食事の際に食物を運ぶための菜桶。本作には、簡潔で力強い造形と、朱漆と黒漆の色のコントラストという根来の魅力が充分に発揮されています。提手の描くゆるやかな曲線や、朱塗りの菊座のフォルムには、機能性の中にも優美な趣があります。

 

この徳治二年(1307)銘の菜桶は他に二例伝存しており、奈良法華寺常什であったことが知られています。長い年月、実用に供された器ならではの深い味わいと重厚さが感じられる漆器です。

細見美術館

夕顔の花と葉を、菱形の胴胎に七宝で表した釘隠。華麗にして伸びやかな意匠は、七宝の釘隠の中でも屈指です。この釘隠では、夕顔の花弁に無線七宝(境界線を作らず、色釉だけで文様を表す技法)でぼかしを試み、彩りに変化をもたらすことに腐心しています。また葉には虫食いの穴が表現されており、細部にも工夫が凝らされているのが見て取れます。

 

横幅は約27センチにも及び、《流水蛇籠文釘隠》と並ぶ最大級の釘隠としても知られています。この釘隠を使用すた建築は自ずと桃山随一の建造物、例えば聚楽第などが想定されるでしょう。


3.第三展示室

細見美術館

「伊勢神宮奉納」と箱書きされた箱に納められているこの香炉釡は、十六世紀前半に活躍した芦屋の鋳物師の大江宣秀が、天文三年(1534)二月に、伊勢山田(三重)の十一面観音に奉納した香炉です。後世に茶の湯釡として生まれ変わりました。

細見美術館

日本の磁器で初めて鉄釉による絵付を取り入れた志野。桃山後期に美濃で考案された志野は、長石釉による柔らかな白い地肌が特徴です。正面に太鼓橋を、背面に社殿の組み合わせは、和歌の神として知られる住吉大社を表す「住吉手」と呼ばれる意匠。抽象模様が多い志野茶碗の中で、おおらかな図様が茶碗をより大きく見せています。

 

 

以上、細見美術館の開館25周年記念展Ⅱ「挑み、求めて、美の極致 ― みほとけ・根来・茶の湯釜 ―」 をご紹介しました。ぜひ、日本美術のもつ優美さ、繊細な感性、時に大胆なほどの力強さをもつ作品の世界感を体感しに、細見美術館を訪れてみてはいかがでしょうか。

 

 

■細見美術館 開館25周年記念展Ⅱ「挑み、求めて、美の極致 ― みほとけ・根来・茶の湯釜 ―」

 

会期:2023年11月14日(火)~2024年1月28日(日) ※一部展示替えあり

開館時間:午前10時~午後5時

場所:細見美術館 京都市左京区岡崎最勝寺町6-3

休館日:毎週月曜日(祝日の場合、翌火曜日)、年末年始(12月25日~1月4日)

入館料:一般 1,400円 学生 1,100円 *リピーター割引(200円引)あり

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