ARTLOGUE 編集部 ARTLOGUE 編集部 更新日: 2019.03.31
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概要
鈴木龍一郎氏は、大学卒業後にフリーランスの写真家となり、アジア各国や欧米の旅で撮影を続けて、1975年に「聖印度行」で太陽賞、2008年に写真集『オデッセイ』で日本写真協会賞、2010年に写真集『リュリシーズ』で土門拳賞を受賞し、現在も精力的に作品制作に取り組んでいます。本展では、1970年代に日本国内で撮影した「寓話」(『オデッセイ』より)と、2000年代にアイルランドの首都ダブリンで撮影した「リュリシーズ」より選定した作品(すべてモノクロ)をご覧いただきます。「寓話」は、6×6cmフォーマットのカメラを使って撮影されており、鈴木氏は「正方形の小さなファインダーを覗きながら夢を見ている感覚があり、フィルムを現像すると確たる一瞬の現実空間が記録されていて、常にその落差に驚かされた」といいます。大きな仮面を被って遊ぶ子ども、たそがれ時の看板に止まるカラスなど、日常に潜む幻惑が一編の詩のように浮かび上がります。「リュリシーズ」は、24×65mmパノラマサイズで撮影されています。ジェイムズ・ジョイスの小説『ユリシーズ』の影を追い、ダブリン市街で過去と現在、生と死の境界を記録して歩きました。海岸、路地、ダブリンの人びと、彫像などをとらえた作品は、静謐さの中に惑乱と陶酔が香るようです。ジョイスが多彩な文体と綿密な構成で魂の彷徨を描いたように、錯綜する視線をパノラマで表現し、自らの新たな可能性を開いた作品です。タイトルが作者の名前「リュウイチロウ」と『ユリシーズ』をかけた言葉遊びからつけられたのも、ジョイスへのリスペクトからでしょう。初期の撮影である「寓話」と最近のシリーズである「リュリシーズ」を合わせてご覧いただくことで、現実と夢幻が交錯する迷宮をさまよい続ける鈴木氏の作品世界をより深く感じていただけることでしょう。
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