能とアートに触れる秋! 「夜能『清経』×BEYOND PHOTO BY HIROSHI SEO」が開催
皆さんは、「能」と聞いてどんな印象を抱くでしょうか? 「難しそう」「敷居が高い」などのイメージがあり、実際に能を鑑賞したことがある方は、もしかしたらそれほど多くないかもしれません。そんな能を少しでも多くの方々に体験してもらうべく、室町時代より続く能楽の名⾨・宝⽣流と、写真家・瀬尾浩司氏とのコラボレーション企画「夜能『清経』×BEYOND PHOTO BY HIROSHI SEO」が、2021年11月26日(金)に宝⽣能楽堂にて開催されます。
本公演と写真展は、11月26日(金)の回の前に、9月24日(金)と10月29日(金)の2日間にも行われ、10月29日(金)の回を取材させていただきました。平家物語「清経」の悲恋の修羅の物語と、瀬尾氏の写真作品「BEYOND」が、物語の鍵となる「⽔」をテーマに繋がる特別共同企画展です。
「夜能」は、朗読と能楽による新しい形の能楽公演です。⼈気声優の語りと共に能「清経」が上演され、能楽を鑑賞したことのない方にも分かりやすく楽しめる内容となっています。「清経」の能は、能楽の大成者・世阿弥の傑作として受け継がれている作品です。ここで、あらすじに触れておきましょう。
平清経の家来・淡津三郎は、都に残った清経の妻に清経の⼊⽔のことを報告し、船に残されていた形⾒の⿊髪を⼿渡します。妻は形⾒を前に、悲しみが増すからと、遺髪を宇佐八幡宮に返納してしまいます。夢になりとも姿が⾒たいと嘆き悲しむと、清経の霊が在りし姿で現れます。再会を喜ぶものの、妻は再会の約束を果たさなかった夫を責め、夫は遺髪を返納してしまった妻の薄情を恨み、互いを恨んでは涙します。清経は⾃死して⾏く⾃分からせめて贈った形⾒への想いを述べ、⼊⽔までのいきさつを仕⽅話に語り、修羅道に落ちた苦しみを⾒せて去って⾏きます。恋の修羅と⾔われる異⾊の修羅能です。
本企画展のご案内をいただいた際、ある種の必然性を感じました。なぜなら、私の祖父は13代目春藤流能楽師で、その昔祖先は戦国武将・伊達政宗に能を披露していたから。私がまだ幼い頃に祖父が亡くなったので、能に関する話を直接聞けなかったことが大変悔やまれます。結局、誰も跡をつがなかったので、春藤流は消滅してしまい、幻の流派と呼ばれています。武士は能を教養として鑑賞していたと聞いたことがあり、宝生流第二十代宗家・宝生和英氏にうかがったところ「戦国時代は、戦地に行く前に心を落ち着かせたり、力を見せつける役割があった」のだとか。「江戸時代に入ってから教養の要素が強くなり、また方言の修正のために舞台を使った」と言います。
本企画展は瀬尾氏が能や茶道、華道など様々なジャンルの家元を撮影する「OIEMOTO」というプロジェクトを行った際に、宝生氏と出会ったのが始まり。その後、今年4月に開催された瀬尾氏の写真展「BEYOND-PHOTO BY HIROSHI SEO」に宝生氏が出向き、瀬尾氏の作品を観て、コラボの話を持ち掛けたことで実現したそうです。
瀬尾氏は、日本を代表する写真家・植田正治氏に師事し、独立後は福山雅治氏などのアーティストのCDジャケットやファッション広告、雑誌など、第一線で活躍。
2020年3月に緊急事態宣言が発令され、人と会えなくなった。普段行っている広告の現場ではポートレートやモデルの撮影が止まってしまった。
そんな中、世の中では飲食店がデリバリーを始めるなど、皆新しいことにチャレンジしていて、写真家も変わらなくてはいけないと思った。
自分も今までの発想を変えて、人を撮れないならと風景写真を撮ろうと決意。カメラを持って、被写体を探しているうちに、とある水面に出会い、『BEYOND』が生まれた。
また、この機会に現代の能楽の基礎を築いたとされる世阿弥の道を辿るべく、世阿弥の流刑の地であり能楽堂が多く存在する佐渡島へも赴き、本展のために追加で撮影を行った。
コロナ禍で、これまでの写真の常識である印画紙へのプリントはいったん忘れて、やってないことをやってみようと思った。そこで、今回のアクリルやビニールに写真をプリントした作品が完成した
と瀬尾氏は語っています。
「BEYOND」は多くの知覚を私たちに与えてくれます。シュールレアリストや、印象派、ミロやダリ、セザンヌやクレー、ピカソなど、多くの巨匠たちも見つめていたこの水面の風景は、私達に知覚芸術の宇宙を再確認させてくれます。この無限的反復を、視覚における生と死と捉えた瀬尾氏は、「その中にこそ幽玄なるものが存在する」と語ります。幽玄とは、芸術領域における日本文化の基礎となる理念の一つ。趣が奥深くはかりしれないさまであり、能楽や禅・連歌・茶道・文芸・絵画・建築など、様々な芸術文化に影響を与え続けている言葉です。瀬尾氏が「BEYOND」で提示した、絵画ともグラフィティとも見えるイメージは、写真という瞬間をカットアウトする行為によって、死の先にある生や、生の先にある死を再確認させ、私たちに生と死を超えた無限的反復の瞬間を見せてくれます。本展のために、日本の能舞台の3分の1が集まる能の地・佐渡島にて撮影された新作の風景と、宝生流第二十代宗家・宝生和英氏による「清経」の写真を加え、展示しています。
宝生氏は今回の取り組みに対して次のように述べています。
瀬尾さんの「BEYOND」は、能楽に通じる部分がある。水面の写真は、蛍や星空、宇宙にも見えるし、一体何なのかゆとりのある作品。作品そのものに明確な答えやメッセージ性を持たないアンビエント・カルチャーの観点から見ても、能楽との結びつきを感じた。エントランスで「BEYOND」を観ることで、より夜能で表現する水の中を感じ取ることができる。能は約700年の歴史があり、伝統芸能を受け継いでいくために、イノベーションを忘れたことはない。観る側の立場を考えたり、楽しみ方を現代に落とし込んでいくのが大切だと思う。歌舞伎は、エンタメのように興奮するものだが、能は精神鎮静といったチルアウトの側面がある。能も「BEYOND」も、観る人によって感じ方が違うといった共通点がある
秋の夜、能と写真展が⼀つになった異⾊のコラボで、古代と現代のアートが重なる新しい世界に触れてみませんか。
開催概要
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■夜能「清経」×BEYOND PHOTO BY HIROSHI SEO
日 時:2021年11⽉26⽇(⾦)17:00開場~21:30閉場(18:30開演~21:00終演)
会 場:宝⽣能楽堂
料 金:〈指定席〉プレミアA 11,000円 プレミアB 8,800円
〈指定席〉指定席A 6,600円 指定席B 5,500円
〈⾃由席〉3,300円
URL:http://www.hosho.or.jp/3161/ (公益社団法人宝生会)
URL:https://nohlife.myshopify.com/pages/%E5%A4%9C%E8%83%BD (公演サイト)
*能の公演に関するお問い合わせ:
宝⽣会事務局(⽕曜日~⽇曜日:10:00~17:00)
Tel. 03-3811-4843
*写真展・取材に関するお問い合わせ:
POP UP GALLERY BEYOND
E-mail:info@vision-tokyo.net/担当 吉⽥
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