アーティスト・遠藤一郎、『ほふく前進御百度参り』を達成!
無期限延期となった「さいたま国際芸術祭2020」の地で

遠藤一郎『ほふく前進お百度参り』達成

未来美術家・遠藤一郎が招聘アーティストとして参加予定だった「さいたま国際芸術祭2020」(無期限延期)の開催地・さいたま市大宮にある「武蔵一宮 氷川神社」の参道を “ほふく前進” で御百度を踏むパフォーマンスを2月上旬から行い、このほど2020年5月17日(日)に100日目を達成した。実は予定通り行われていれば、この日が「さいたま国際芸術祭2020」の最終日だった。

さいたま市大宮にある武蔵一宮氷川神社の参道は、さいたま新都心駅から旧中山道を大宮方向に10分ほど歩いたところにある「一の鳥居」からはじまる。氷川参道はここから「三の鳥居」までおおよそ2キロの住宅街を貫くけやき並木になった大宮のシンボルだ。沿道には区役所や図書館、カフェ、レストランなどがあり、地元の憩いの場となっている。

一の鳥居でパフォーマンスの準備をする遠藤の周りには、記録撮影やパフォーマンスの運営を支援するスタッフに加え、アート関係者の姿も。スタッフやギャラリーは「三密」にならないようにそれぞれ距離をとって参道に散らばり、遠藤を見守る。

氷川参道・一の鳥居。緑のトンネルがどこまでも続いているようだ

 

白いツナギに補強を施したニッカーズのような出で立ちの遠藤一郎さん

 

100回のボードを掲げた撮影機材を載せたカート。ほふくする目線の高さからパフォーマンスを記録している

 

ギャラリーの中に美術家の会田誠さんが。このために車で大宮に駆けつけたそうだ


午前11時、遠藤は一の鳥居の前に立ち一礼すると、おもむろに地面に跪き、腕を地面につけるとほふく前進をはじめた。両腕を交互に動かし、腰と足を器用に動かすと、想像をしていた以上のスピードでリズミカルに進む。時折、車が来るとスタッフが声をかけるが、歩道部分を進む遠藤は一瞬後ろを確認すると構わずほふくを進める。

最終日当日は気温も上がり、地面の熱さも半端なものではない。そこを這いつくばって進む行為は想像を絶する。遠藤の表情も苦悩に満ちている。水分補給のため起き上がり、休憩をする遠藤の顔は汗だくだった。

午前11時、いよいよパフォーマンス開始

 

遠藤の視線はこのアングルよりさらに低い

 

本来、歩行者が多い参道だけに車は徐行で通り抜けていく

 

沿道からは遠藤を応援する声が聞かれた


まちなかの参道を地面に這いつくばって進む姿は異様以外のなにものでもない。こうした光景に周囲の住民が違和感をおぼえるのは想像に難くない。実際、何度も警察に通報され、その度に警察官の方がきたそうだ。最終日もそういうことが起こるのかと思っていたが、それは大きくハズレることになった。

驚いたのは、参道で出会う人々の対応だった。最終日は晴天の日曜日ということもあってか、参道ではランナーや散歩をされる方、沿道のカフェでお茶を楽しむ方と数多く出会った。そのほとんどが遠藤に「がんばって」「おつかれさま」と声を掛け、遠藤は這いつくばりながら「ありがとうございます」と応えていた。カフェの前で珈琲を手にした年配の男性は、遠藤とはすっかり顔馴染みらしく、遠藤が「今日で最後です」と応えると、男性は「(御百度達成に対して)立派なもんだ」と拍手を送っていた。遠藤の姿をはじめてみる家族連れのお子さんの反応が印象的で、何度も振り返ってみては「あの人なにしてるの?」と親御さんに質問していた。アートとの素敵な遭遇だ。

そんな和やかな雰囲気の中、参道の脇道から怒鳴り声を上げながら、ひとりの年配の女性がやってきて、パフォーマンスを続ける遠藤の周囲の人々に対し、当たり散らし、怒鳴り声をあげながら去っていくというハプニングがあった。遠藤のパフォーマンスを見守ってきたさいたま国際芸術祭実行委員会で市民プロジェクトコーディネータを務める浅見俊哉は「彼女は『ブルドックおばさん』として地元でも知られた “主” のような方なんです。なぜか遠藤さんに対しては怒鳴らず、周囲の人にだけ罵声を浴びせるんです」と。遠藤は「彼女には僕が見えていないみたいなんです。それがついに先日、僕に向かって『神かっ!』と怒鳴ったんです」と嬉しそうに話していた。

信号待ちをする遠藤のうしろに「さいたま国際芸術祭2020」のバナーが

 

行程の後半となる氷川参道・平成ひろば

 

終盤となる二の鳥居の前で。明治神宮から寄贈移築された二の鳥居は現存する木造の鳥居では関東一の大きさ

 

「さいたま国際芸術祭2020」の会場に予定されている旧大宮図書館前をほふくで進む

 

参道の名物〈氷川だんご〉の方がねぎらいの声をかけていた


12時54分、ついに三の鳥居に到達。三の鳥居が立つ場所はそれほど広い場所ではなく、さらに参拝される方、済まされた方が一礼をされる場所でもあり、混乱を避ける意味でも、予想以上の速さでゴール。すぐに鳥居の足元へ退避。2時間かからずに到着となった。

水分補給をし、ひと息ついた遠藤が「ありがとうございました」「おめでとうございます」と言うと、自然と拍手が沸き起こった。このあと、神池を渡り、楼門をくぐり、本殿へ進んで参拝を済ませ、一連のパフォーマンスが終了となった。

いよいよラストの三の鳥居

 

鳥居の足元で号泣する遠藤

 

大宮の地名の由来となった氷川神社の本殿(見えているのは拝殿)

 

毎回、ほふくしながら運び、拝殿横に並べていた石


御百度は一の鳥居まで戻って達成なので、徒歩で戻る途中、「さいたま国際芸術祭2020」で遠藤が作品展示する予定だった旧大宮図書館前で休憩を兼ねて、遠藤へのQ&Aセッションが行われた。その後、ゆっくり一の鳥居まで戻り、無事終了した。

以下はQ&A(一部)の採録。

Q:なぜ、100回できたか?
遠藤:やめなかったから(できた)って感じがする。

Q:なぜ、さいたまでほふく前進しようと思ったか?
遠藤:芸術祭に呼んでもらったのがきっかけ。(昨年の)9月に下見に来たときにほふく前進をやろうと決めた。思った、というより、わかった、という感じだった。

Q:印象に残っていることは?
遠藤:いっぱいある。おもしろいことだらけ。ブルドックおばさんも最高でした。自転車に乗って「コロナいるぞ」と上から怒鳴るおじさんとか。だんだん、あぁ、今日もいるわってなっていった。

Q:手応えを感じた時は?
遠藤:80回目ぐらいの時、やった意味があったと満足感があった。あとは歩いてもいいな、という実感があった。参道の雰囲気が、見る視線が鋭くなくなった。97回の時に変わった。ここで終わりでもいいぐらいの手応えを感じた。

Q:これからやりたいこと
遠藤:やっぱり、かっぱ。緩く楽しくできるし。それから、ほふく前進で実家(御殿場)に帰ってみようかと。実家まで100キロぐらい。今回、200キロぐらいやってるわけだし。ほふくで「ただいま」とか。

Q:芸術祭が再開した時の抱負を
遠藤:かっぱでできうる限りやらせてもらおうと思います。

旧大宮図書館前に展示されていた遠藤のドローイング《にげねぇ》。作品の横には『ほふく前進御百度参り』への思いと地元の方々へのメッセージが

 

遠藤一郎というアーティストは、毎回、他の人がやらないようなパフォーマンスでびっくりさせてくれる。次は一体なにをするのか楽しみ

YouTube配信
http://u0u0.net/SZK6

遠藤一郎のホームページ
http://www.goforfuture.com/#news

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