国際芸術祭「あいち2022」が開幕! 不安定な時代に、テーマ「STILL ALIVE」に想いを巡らせて

「あいち2022」オープニングセレモニーの様子

2010年から3年ごとに開催され、今回で5回目を迎える、愛知県で開催される国際芸術祭「あいち2022」。前回までの「あいちトリエンナーレ」を継承し、新たに始動しています。国内最大規模の芸術祭の一つと数えられる本芸術祭は、愛知芸術文化センターほか、一宮市、常滑市、名古屋市有松地区を会場に、2022年7月30日に開幕しました。現代美術展やパフォーミングアーツ、ラーニングなど5つのプログラムで、32の国と地域から全100組が参加するなど、見応え十分。

「あいち2022」テープカットの様子

今回のテーマ「STILL ALIVE」は、愛知県出身のコンセプチュアル・アーティストである河原温が、電報で自身の生存を発信し続けた《I Am Still Alive》シリーズに着想を得ています。この「STILL ALIVE」を多角的に解釈し、疫病や自然災害、内戦、戦争など、不安的な時代に、明日を生きるためのポジティブなエネルギーに繋がる、心躍る出会いや体験の場にあることを目指すといいます。

大林剛郎組織委員会会長は「コロナ禍で大変だが、安全安心に努め、世界中から集まった素晴らしいアーティストの作品を堪能して欲しい。地域の魅力についても、皆さんに発見して欲しい」と語っています。

また、片岡真実芸術監督は「STILL ALIVEというテーマで準備を進めてきたが、この時代にどう生き抜くことができるか、アートの力を見たかった。それぞれの作品からパワーをいただいている。現代アートが、文化的、産業的な歴史とどういった対話が可能か、愛知県についての知識と作品を照らし合わせていただければ楽しんでもらえる」と述べています。

今回は、会場ごとに、現代美術展のおすすめ16作品をピックアップしてご紹介します。
 

■愛知芸術文化センター

本芸術祭の象徴的な会場である愛知芸術文化センターには、42アーティストの作品が展示されており、最も多くのアート作品に触れることができます。展示会場は、地下2階、8階、10階といった3つのフロアから構成。

ここでは、コンセプチュアル・アーティストの河原温を起点に、過去・現在・未来という時間の概念について考察します。また、コンセプチュアル・アートの起源についても想いを巡らせて、文字や言葉による表現、ポエトリーにも注目。その他、世界各国でパラレルに発展した複数のモダニズムの系譜から、絵画や彫刻の概念についても再考します。
 

小野澤峻

地下2階から愛知芸術文化センターに入って、最初に私たちを迎えてくれるのが、6つの球のパフォーマンス作品。フレームから吊り下げられた6つの振り子が、それぞれに動き続けるものです。

小野澤峻の《演ずる造形》(2021)

作家自身、ジャグリング・パフォーマーとしても活動しており、本作《演ずる造形》(2021)は、コロナ禍によって世界の先行きが不透明になった時期に制作されたそう。シルバーのそれぞれの球が衝突しないようにコントロールされている状態から、その状態が一旦崩れ、再び元通りに美しい動作を再開。まるで人間社会の秩序とその崩壊、そして回復の過程をみているような示唆的な作品です。
 

河原温

本芸術祭のテーマ「STILL ALIVE」の着想源になった、河原温の電報を用いたシリーズ《I Am Still Alive》(1970-2000)。本作品は、1970年に開始し、2000年までに約900通が世界各地の知人、キュレーターなどに送られたといいます。

テレサ・オコナーに宛てた電報、1970年5月7日《I Am Still Alive》(1970-2000)より (1970−1974)

緊急性を伴う連絡手段である電報での「私はいまだ生きている」といったメッセージは、河原が死に直面しているとも受け取ることができる作品です。パンデミック以降の世界では、とりわけ心に響くものがあります。時間や空間を超えて、生存の根源的な意味について深く考えされられます。

河原温の展示風景


ローマン・オンダック

個人的に感性を刺激されたのが、ローマン・オンダックによる《イベント・ホライズン》(2016)。1本のオークの木の幹を100枚に切断し、その木の表面に1917年から2016年までに起こった歴史的出来事を刻印した作品です。それは、ロシア革命から始まり、ヴェルサイユ条約締結、第二次世界大戦終結などの文字が見て取れます。

 ローマン・オンダックの《イベント・ホライズン》(2016)

展示期間中、床面に設置された木のピースが毎日1枚ずつ、壁に打ち付けられた金具に掛けられていきます。10月10日の最終日には、すべての木製ピースが壁面へ移動。本作は、人類の歴史とオークの木が歩んできた歴史を結びつけ、1本の木の断面から、世界の自然の営みや宇宙法則といった俯瞰的な視点を想像させる雄大さを持った作品です。
 

リタ・ポンセ・デ・レオン

夏休み中ということもあり、お子さんと一緒に本芸術祭に訪れる方も多いことでしょう。そんなお子さん連れの方におすすめなのが、リタ・ポンセ・デ・レオンの体験型の触れることができる作品です。

最初の作品は、チリやペルーなど中南米で雨乞いの儀式に用いられるレインスティックと呼ばれる擬音楽器を基にした《人生よ、ここに来たれ》(2022)。表面には三名の協力者の人生の節目が単語で綴られ、シーソーのような仕組みの長いスティックを上に持ち上げたり、下ろしたりすると、シャララ……といった綺麗なサウンドが奏でられます。

リタ・ポンセ・デ・レオンの《人生よ、ここに来たれ》(2022)

また、次の空間に設置されているのは、楽器のマリンバに似た作品《魂は夢を見ている》(2022)。ペルー・メキシコ詩人のヤスキン・メルチーと、日本の詩人である新納新之助の二人が選定した「すべてのとびらに」「喜び」「夢をみる」などとった多くの言葉が、音板に刻まれています。音板を入れ替えて生まれる言葉の組み合わせをスティックで叩くことで、詩と音楽が共鳴する楽しい作品です。

リタ・ポンセ・デ・レオンの《魂は夢を見ている 生きる価値とは何かについての詩人ヤスキン・メルチーと新納新之助と友人たちの言葉》(2022)


百瀬文

映像、手話、電話、字幕などの通信媒介手段と、身体およびジェンダーの関わりについて、映像作品とパフォーマンスを主な表現手段としている百瀬文。本作《Jokanaan》(2019)は、オペラ『サロメ』の一節にて、サロメがヨカナーン(預言者ヨハネ)に向かって「私を見て」と、正常な判断力を失った状態で歌い上げるものをモチーフにしています。

百瀬文の《Jokanaan》(2019)

映像作品では、あたかも右側の女性がサロメで、左側の男性がヨカナーンのように見えますが、実は右側の女性は、男性の動きをモーション・キャプチャーでデータ化しつくられたCG映像です。左右に男女二名が並ぶことで、まるで両者の間に倒錯した愛情があるようにも見えます。主体がどこにあるのか、また感情の所在について、考えさせられる作品です。
 

ローリー・アンダーソン&黄心健(ホアン・シンチェン)

《トゥー・ザ・ムーン》(2019)は、音楽家でありメディア・アートの先駆者でもある、アメリカのローリー・アンダーソンと、台湾を代表するニューメディア・クリエイターのホアン・シンチェンによる共作です。映像インスタレーションにVRが組み込まれた本作は、2019年にマンチェスター国際フェスティバルにて初めて発表されたもの。

ローリー・アンダーソン&黄心健(ホアン・シンチェン)の《トゥー・ザ・ムーン》(2019)

古今東西の神話、文学、科学、政治からインスピレーションを受けている本作。壁と床の4面に宇宙のイメージが投影される迫力の映像と音響のおかげで、まるで月面旅行をしているよう。15分間の予約制のVRでは、観客自身が宇宙飛行士となり、低重力の月面を歩いたり飛んだりする体験を味わうことができます。民族や国家といった枠組みを超えた大きなビジョンを感じ取ることができるでしょう。

ローリー・アンダーソン&黄心健(ホアン・シンチェン)の《トゥー・ザ・ムーン》(2019)VR体験


渡辺篤(アイムヒアプロジェクト)

3年にわたるひきこもりを経験したアーティストの渡辺篤。その体験から、社会のなかで生きづらさを抱える人々、孤独や孤立の立場にある人々との協働制作を行うプラットフォーム「アイムヒアプロジェクト」を主宰しています。

本作《Your Moon》(2021)の月の写真は、2020年4月に発令された緊急事態宣言の直後に、孤立感を感じている人々を匿名で募り、渡辺から送付されたスマホ用の小型望遠鏡を使って撮影したもの。例えば、コロナ禍で外出できない人、持続的孤立状態にあるひきこもりや心身の障害を持つ人、シングルマザー、自死遺族など、それぞれの背景を持つ人々が、個々の居場所から同じ月を見上げて撮影しました。

渡辺篤(アイムヒアプロジェクト)の《Your Moon》(2021)

本作で発せられる「IʼM HERE /私はここにいる」というメッセージは、本芸術祭のテーマ「STILL ALIVE」とも重なります。孤独を抱えた人々の生きるための連帯表明として、私たちの心の奥底に響いてきます。
 

■一宮市

織物の街として知られる尾張地方の中核都市・一宮市では、一宮駅エリアと尾西エリアで、見応えのある展示を展開しています。ここでは、祈り、誕生、病、死、メンタルヘルス、ウェルビーイング、ケア、多様な性やジェンダー、自然界と人間の関係といったテーマについて考察します。
 

奈良美智

真清田神社への参道沿いにある、旧名古屋銀行一宮支店の建物を改装した「オリナス一宮」。ここで展示される奈良美智の《Miss Moonlight》(2020)で描かれている少女は、まぶたを閉じ、奈良作品の中でもとりわけ優しく愛情深い表情をしています。まるで静かに祈りを捧げているかのようにも見えて、ずっと鑑賞していたくなる作品です。

奈良美智の《Miss Moonlight》(2020)

《Fountain of Life》(2001/2022)では、頭部が重なり合った子供たちの眼から、まるで泉のように涙がとめどなく溢れ出しています。それは痛ましい出来事の多い今日の世界において、愛と平和を願う涙とも見て取れ、今の時代にこそ想いを巡らせたい作品です。

奈良美智の《Fountain of Life》(2001/2022)


塩田千春

自然光を効率よく取り入れられる「のこぎり屋根」の旧毛織物工場「のこぎり二」では、塩田千春の新作《糸をたどって》(2022)を鑑賞することができます。赤い毛糸を使った塩田のインスタレーションは、彼女の代名詞的なシリーズのひとつ。赤は人と人をつなぐ運命の糸、血縁、あるいは体内の毛細血管などを連想させます。われわれはどこから来て、どこに行くのか、生と死の境界はどこにあるのかといった、根源的な問いを投げかけます。

塩田千春の《糸をたどって》(2022)

本芸術祭では、一宮市の毛糸を使ったインスタレーションに、のこぎり二に残る毛織物の機械や糸巻きの芯などを絡めています。この場所に生きた様々な命、労働、エネルギーの記憶に想いを馳せることができます。

塩田千春の《糸をたどって》(2022)

また、一宮市で最も多い11アーティストの作品が展示されている、閉校した旧一宮市中央看護専門学校にも、塩田の作品が並んでいます。2017年、塩田は再発した卵巣癌のために抗がん剤治療を受け、死に直面した極限状態の感情やエネルギーから、多くの作品を生み出しました。本作「Cell(細胞)」シリーズもそのひとつ。まるで毛細血管のように糸や針金が絡み合うガラスから、塩田の生に対する強い想いが伝わってきます。

塩田千春の「Cell(細胞)」シリーズ


迎英里子

世界的な建築家・丹下健三が手掛けた、愛知県内に残る唯一のモダニズム建築「尾西生涯学習センター墨会館」。この建築物を観に足を運ぶのもおすすめです。ここで展示されているのが、迎英里子の作品《approach 13.0》(2022)。彼女はこれまで、屠畜や石油の採掘、国債の仕組みや水蒸気の循環など、実社会や自然界において見えづらい、あるいは全体を把握しづらいような不可視のシステムをモチーフとしたパフォーマンスを生み出してきました。

迎はこの近代的建築の中庭で、紡績および毛織産業で有名な尾西市(現・一宮市)でのリサーチをもとにしたパフォーマンスを実施。あわせて、毛織の生産工程をいくつかの要素に分解し、高度に抽象化した装置とともに、かつて操作された「物質の身体性」の記録について展示しています。

迎英里子の《approach 13.0》(2022)


■常滑市

平安時代末期頃から「古常滑」と呼ばれる焼き物の産地として知られた常滑市。本芸術祭では、昭和初期の風情を随所に残す「やきもの散歩道」を巡り、旧家・廻船問屋瀧田家、常滑の焼き物の歴史を体験できるINAXライブミュージアムに続くエリアに作品を点在しています。

焼き物は、大地や火、水、空気といった自然の力や摂理によって生み出されるもの。常滑では、生命を育むこれら根源的な要素や生きることそのものを考える作品が、世界の多様な文化や歴史を越えてどのような対話が可能かを探ります。

鯉江良二

常滑市に生まれた鯉江良二。2020年、愛知県にて逝去されました。INAXライブミュージアムの窯のある資料館に展示されているのは、反核を訴えた《証言(ミシン)》(1973)や《チェルノブイリ・シリーズ》(1989–90)など、いずれも社会への強いメッセージを核に据えた鯉江の代表的な作品の一群です。

鯉江良二の《証言(ミシン)》(1973)

1970年、彼は稲葉実や杉江淳平、吉川正道、柴田正明ら常滑の作家たちとともに大阪万博に出品するための陶製ベンチを制作。また、そのメンバーによる常滑造形集団の前衛的な陶芸活動にも参加するなど、常滑を拠点に、世界を見つめた制作を行ってきました。鯉江は「陶芸」の古いしきたりにとらわれることなく、現代美術と陶芸の領域を往来し、火、土といった根源的な物質を作品にしながら、生を追究し続けました。

鯉江良二の展示風景


デルシー・モレロス

デルシー・モレロスの《祈り、地平線、常滑》(2022)は、膨大な数のクッキーやモチで空間を埋め尽くした作品。実はこれらのお菓子は、常滑焼に用いられる数種類の粘土に、重曹やシナモンパウダー、クローブパウダーなどを混ぜ合わせて乾燥させたもので、会場にはほのかにスパイスの香りが立ち込めています。

デルシー・モレロスの展示風景

南米アンデス山脈の一部に今も伝わる大地の女神パチャ・ママへの信仰の儀式のなかに、豊穣のしるしとしてクッキーを土に埋めて感謝を捧げるという風習があるそう。モレロスは、この祈りのあり方に着想を得ながら、大量の土のクッキーを用いたインスタレーションを展開。

デルシー・モレロスの《祈り、地平線、常滑》(2022)

実際に、作家本人から教わったレシピを基に、社会福祉法人常滑市社会福祉協議会ワークセンターかじまの協力により、モレロスの「土のクッキー」を愛知芸術文化センター10階と、常滑市陶磁器会館内にて販売中。気になる方はぜひご賞味あれ。

田村友一郎

かつての盆栽鉢製陶所の倉庫を改装した「常々(つねづね)」では、田村友一郎の《見えざる手》(2022)の作品が鑑賞可能です。

田村友一郎の《見えざる手》(2022)

愛知県の経済発展を戦前から支えてきた製陶産業。中でも常滑と瀬戸の陶製人形は、概ね1970年代後半から1980年代初期にかけて生産輸出のピークを迎えたとされています。

田村は作品の中で、日本の製陶産業が日米の為替相場に左右され、生産輸出のコストが見合わなくなり衰退したきっかけが、「プラザ合意」にあるといった仮設を立てました。日米英仏西独5か国の蔵相の合意結果は、インフレとデフレを繰り返す世界経済から愛知県の地元産業の命運にまで影響を及ぼすという想定のもと、人形浄瑠璃仕立ての「プラザ合意」のドラマを展開。

それを後ろで操る黒衣に、田村は経済学者のアダム・スミス、カール・マルクス、ジョン・メイナード・ケインズを配役。三名の黒衣の見えざる手によって、現在もSTILL ALIVEしているのは一体何なのか、手に汗握る問いかけがなされています。

田村友一郎の展示風景


■名古屋市有松地区

名古屋市有松地区では、有松・鳴海絞りの伝統が継承され、江戸と京都をつないだ東海道沿いの町並みの保存地区を中心に作品を配置。

有松における「STILL ALIVE」は、この地で継承されてきた伝統的な手仕事に対して、先住民文化を含む世界各地の多様な文化圏で受け継がれる手工芸、コミュニティの繋がり、口承伝承などに着目。また、伝統的な日本家屋の建築空間に応答しながら、インスタレーション、パフォーマンス、映像作品を通して、歴史、記憶、蓄積、移動、政治などに関わるさまざまな物語を紐解きます。

ミット・ジャイイン

タイの少数民族ヨン族出身のミット・ジャイインは、400年の歴史を重ねた有松の地で、山田家住宅(旧山田薬局)や岡家住宅、安藤家住宅などの伝統家屋8軒の軒先等に、リボン状の絵画《ピープルズ・ウォール(人々の壁)2022》(2022)を展示しています。

ミット・ジャイインの《ピープルズ・ウォール(人々の壁)2022》(2022)

本芸術祭での展示において、彼は江戸時代の浮世絵に描かれた有松の風景のなかで、絞り染めの反物が屋外で風にたなびく様子や、店先の暖簾からインスパイアされた作品を発表。まるで暖簾のように、公共空間とプライベートな空間を緩やかに仕切っています。しかし、筆触を残した重厚なリボン状の絵画からは、分断や境界を感じさせず、ポジティブなエネルギーが伝わってきます。

ミット・ジャイインの《ピープルズ・ウォール(人々の壁)2022》(2022)


AKI INOMATA

人間とは異なる視点やふるまいを持つ生き物、例えば、ヤドカリや真珠貝など、人間以外の生きものとの共作を通して、人と生き物の関係性を再考するAKI INOMATA。本展では、有松で発展してきた絞り染めの技術と、ミノガの幼虫であるミノムシが巣をつくる技術の混淆を実現しています。

AKI INOMATAの展示風景

有松・鳴海絞りは、布を糸でくくり、縫い締めるなどの方法で染まらない箇所をつくり、多彩な模様を染め上げるもの。そんな鳴海絞りを作る過程における、くくられた状態の布がミノムシの蓑に似ていると感じた彼女は、有松絞りの生地をミノムシに与えて、蓑(巣筒)をつくってもらったそう。

AKI INOMATAの展示風景

彼女が展示する岡家住宅は、江戸時代末期の有松の絞問屋です。この元作業場空間に、有松・鳴海絞りの美しい蓑を纏いながら葉を食べるミノムシの映像作品《彼女に布をわたしてみる》(2022)が展示されており、会場と作品が共鳴し合っています。

AKI INOMATAの《彼女に布をわたしてみる》(2022​​​)


イワニ・スケース

明治30年(1897)の創業以来、知多木綿を用いた雪花絞りなどを継承し、戦後には伝統技法「豆絞り」を復刻した有松・鳴海絞りの工房「張正」。その半分の空間に、イワニ・スケースの《オーフォード・ネス》(2022)が展示されています。まるで雲や雨を連想させる、天井から吊り下げられた約1000個のガラスの中を通り抜けることができる作品です。

イワニ・スケースの《オーフォード・ネス》(2022)

一見、涼しげで綺麗な作品ですが、スケースが生まれた豪州において、メンジーズ政権時代に英国が南豪州や西豪州で行った核実験が題材になっています。祖先を想い語り継ぐ責任と、植民地主義や戦争といった人間の過ちによって傷ついた土地の歴史と人々の記憶から生み出された作品です。

ガラスは、豪州の先住民の主食であるヤム芋の形をしています。核実験による死傷者や居住者の強制移動、環境汚染を忘れることなかれという「メメント・モリ(死を想え)」の念を、未だに歴史から学習していない人類に伝えており、今の不安定な時代に呼応しています。

最後に、「あいち2022」連携企画事業として開催されるイベント「Kizuki-au 築き合う-Collaborative Constructions」をご紹介します。

常滑市内の焼きもの工場に囲まれた広場を会場に展開されるのが、在日スイス大使館、スイス連邦工科大学チューリヒ(ETHチューリヒ)のGramazio Kohler(グラマツィオ・コーラー)研究室、そして東京大学のT_ADS 小渕祐介研究室による2つのインスタレーション「Kizuki-au 築き合う-Collaborative Constructions」。

©T_ADS Obuchi Lab

これらインスタレーションは、建築におけるデジタルプロセス、人とロボットとの協働、技術的・文化的相互作用を追求するスイスと日本の協働プロジェクトです。小渕准教授は「当初は東京オリンピックに向けて、『スイスハウス』のプロジェクトとしてスタートしたが、コロナの影響を受け中止に。この度「あいち2022」にて研究発表できる機会に恵まれ、今回に至った」と述べています。

エントランスにあるのが、東京大学による木製の柱と梁で構成された門のような構造物に、ネックレスを彷彿とさせるリボン状の常滑焼の陶器が吊るされたインスタレーション。まるで、昔ながらの暖簾のようです。一見ランダムに見える陶器の暖簾ですが、実際には人とコンピューターが、アルゴリズムを解きながらデザインされているといいます。

梁には「Panasonic(パナソニック)」のミストノズルを設置。陶器へ噴射した水分が気化する際、ミストと陶器の蒸散冷却効果で、門の周囲が4℃から5℃ほど涼しくなるとのこと。環境装置としても機能する作品です。

門をくぐり抜けて、目の前に広がるのが、ETHチューリヒによる木造骨組みの3階建ての建物。ネジなどの金属部品を使用しない、ロボット工学時代の大工仕事を再考し、実現しています。優れた木造建築を持つ日本の長い伝統と知識が、スイスのデザインとデジタル技術を用いて復興することで、コンクリートと鋼鉄でできた既存の建築物に代わる持続可能な建物として、木造の高層ビルを作る新しい方策を推進するものになっています。

©Ayako Suzuki

ETHチューリヒのハネス・マイヤー シニアリサーチャーは、「伝統的な宮大工作業を、ロボットの時代にどうアップデートできるかを模索した。今回、デジタルを利用することで、釘やネジを一切使わない木造のみの建築物が可能になった。2つのロボットアームで5つのモジュールをスイスで組み立てて、コンテナで日本へ輸送した。3階建ての構造物は、清水建設によって日本で組み立てられた。最上階から地面に至るまで、斜めに一直線に柱が走っていることによって、上部にかかる負荷が分散されている」と語っています。

株式会社モンタージュが手掛ける、この土地のストーリーを組み入れた光とミストと風による演出が、インスタレーションと相まって、夕刻になるにつれて一層美しくなり必見です。会場には1950年創業のスイスの家具メーカー「VITRA(ヴィトラ)」のチェア20脚も置かれており、自由に座りながら会場を楽しむことができます。

©Niwashōten Co., Ltd.


以上、「あいち2022」についてご紹介しました。特に、一宮市、常滑市、名古屋市有松地区にお出掛けする際は、暑さ対策を万全にしていくのが得策です。ぜひ、過去から未来への時間軸を往来しながら、「STILL ALIVE」について想いを巡らせてみてはいかがでしょうか。
 

開催概要
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■国際芸術祭「あいち2022」
会 期:2022年7月30日(土)~10月10日(月・祝)
会 場:愛知芸術文化センター・一宮市・常滑市・有松地区(名古屋市)
料 金:
【フリーパス】記名ご本人様に限り、各会場を何回でも鑑賞可
一般:3,000円 学生(高校生以上):2,000円
【1DAYパス】入場当日に限り、各会場を何回でも鑑賞可
一般:1,800円 学生(高校生以上):1,200円
*中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者1名は無料(チケット不要)
*学生区分適用の場合、チケット確認時に学生証を要提示。
*パフォーミングアーツについては、別途チケットが必要
URL:https://aichitriennale.jp/
*開館時間、休館日は公式サイトよりご確認ください。


 

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