モダンで愛らしい美の世界。京都・細見美術館で開催中の「琳派展22 つながる琳派スピリット 神坂雪佳」展

モダンで愛らしい美の世界。京都・細見美術館で開催中の「琳派展22 つながる琳派スピリット 神坂雪佳」展

江戸時代に花開いた日本美術の精華・琳派。琳派の歴史を紐解いてみると、始まりは江戸時代初期まで遡ります。茶の湯などの簡素な美がもてはやされた一方、王朝文化の復興を意識した雅で華やかな芸術が、後に琳派と呼ばれる人たちによって創造されました。琳派の作品は、背景に金箔を使用したり、大胆でインパクトのある構図が特徴となっています。本阿弥光悦と俵屋宗達が始めた琳派の美意識を普及させたのが、江戸時代中期の尾形光琳です。「琳派」は彼の名前の「琳」の字からとったものです。

そして、明治時代に琳派創始の地・京都に登場したのが、今回の主役である神坂雪佳(1866-1942)です。

神坂雪佳(かみさかせっか)

彼は16歳で四条派の日本画家・鈴木瑞彦に師事して絵画を、その後20代前半に図案家・岸光景のもとで図案を学びます。やがて二十世紀を迎えたばかりの欧州を視察し、最先端の華やかな芸術に触れた雪佳は、改めて日本古来の美を再認識します。近代京都において図案家・画家として活躍した雪佳は、光悦や光琳ら琳派の活動や作風に共感し、これを新しい時代にふさわしいデザインに昇華させました。彼の活動は絵画にとどまらず、染織、陶芸、漆芸、室内装飾や庭園に至るまで、実に多彩なものでした。親しみやすく和やかな温もりをたたえつつ、品格を失うことのないそれらの作品は、まさに琳派のスピリットを受け継ぐものといえるでしょう。それ故、雪佳は「光琳の再来」とも言われています。

そんな雪佳の作品が一堂に集結した展覧会「琳派展22 つながる琳派スピリット 神坂雪佳」が、2022年6月19日(日)まで、京都・細見美術館にて開催中です。富山県水墨美術館(富山)、水野美術館(長野)からの巡回展で、3会場目となる細見美術館では琳派展第22弾として、宗達や光琳、酒井抱一など江戸時代の琳派を辿りながら、マルチアーティスト・雪佳がデザインした工芸作品や絵画を紹介しています。

次に、4セクションから構成される本展を詳しくみていきましょう。

 

あこがれの琳派

江戸初期、京の文化面で中心的な存在だった光悦と、扇や料紙を扱う絵屋を主宰していた宗達は、平安時代の雅な美を新たな作風で再生しました。

約百年後の江戸中期、京の高級呉服商「雁金屋」の次男に生まれた光琳は、宗達の様式をさらに洗練させた作風で注目を集め、独特の意匠は「光琳模様」と呼ばれて普及していきます。

さらに約百年経った江戸後期、大阪では中村芳中のたらし込みを駆使した親しみやすい絵が「光琳風」と評されました。江戸では、姫路城主・酒井家の次男として誕生した酒井抱一が、光琳様式を取り入れながら独自の画風を確立し、鈴木其一をはじめとする多くの門弟たちに継承されました。繊細さと洒脱さを併せ持つ情趣豊かな画風は、のちに「江戸琳派」と称され、近代の日本画にも大きな影響を及ぼしています。

一方、明治時代の京都に登場する雪佳は、こうして変容を重ねた琳派に関心を寄せました。ここでは、細見コレクションを中心に、琳派の創始から雪佳へと至る300年の流れを辿ります。

「あこがれの琳派」より

 

琳派を描く―雪佳の絵画作品―

図案家として多くの要職に就き、多彩な活躍をする一方で、雪佳は絵を求められることも多かったといいます。雪佳の絵画は、日常に寄り添う美として親しまれています。生活を彩る美の世界を目指していた彼は、四季の草花、古典文学、節句や吉祥モチーフ、動物など、日本で長らく愛されてきたテーマを多く描きました。四条派に学んだ描写力を基盤として、琳派の手法であるゆったりとした描線、明快な色使い、たらし込み、デフォルメや簡略化を自在に操り、おおらかな品のある雪佳の様式を築きました。雪佳の絵画作品は、社寺の襖絵や能舞台の鏡板といった障壁画のほか、屏風や掛軸から色紙、短冊など、様々な形態の画面に及んでいます。図案家と画家を行き来した雪佳ならではのユニークな構図感覚も、独自の画風に結びついています。

神坂雪佳 金魚玉図 明治末期<br>細見美術館蔵
「琳派を描く―雪佳の絵画作品―」より

 

生活を彩る―雪佳デザインの広がり―

図案の創作にあたり、雪佳が拠り所としたのが「琳派」でした。雪佳は36歳で渡欧を果たし、現地の様々な美術工芸に触れますが、日本にはすでに固有の装飾芸術があると悟りました。

空間を彩る調度類にデザインを能くした琳派を手本とし、雪佳は染織、漆器、陶磁器にほか、室内装飾や造園に至るまで、実に多様なデザインを創作しています。

また、雪佳は京都の図案、工芸品の指導者としての役割を果たしながら、研究団体を組織するなど、多くの工芸家たちと共に作品を手掛けており、その中には漆芸家であった弟・祐吉もいました。まるで光琳と乾山のように、兄弟で作品を手掛ける喜びを感じていたことでしょう。雪佳は、皆に喜ばれる馴染みのあるテーマで、日本人の好みに合う普遍的な意匠を作ることを意識していました。

ここでは、雪佳が絵付を行った調度品や漆芸、陶芸を中心とした共作を紹介します。雪佳が目指した空間を彩る美の世界は、琳派のスピリットにつながっています。

神坂雪佳 春花絵手箱 大正末~昭和初期 個人蔵神坂雪佳 図案 / 木村秀雄 作 住之江蒔絵色紙箱 大正期 細見美術館蔵神坂雪佳 水の図向付皿図案 大正 9 年( 1920 )頃 個人蔵神坂雪佳 図案 / 四代・五代 清水六兵衞 作 水の図向付皿 大正 9 年( 1920 ) 個人蔵
「生活を彩る―雪佳デザインの広がり―」より

 

美しい図案集―図案家・雪佳の著作―

明治から昭和にかけて、京都で図案家・画家として活躍した雪佳。その業績を語るうえで欠かせないのが図案集の出版です。

雪佳は10代の頃、四条派の画技を学びました。そして、品川弥二郎の助言を受けて図案の道に進み、20代前半から図案画・岸光景のもとで学び、実績を重ねます。30代には図案家として京都の図案、工芸界の重要な役割を担うように。図案の刷新が求められたこの時期、各種雑誌や図案集が出版されるようになり、雪佳も明治30年代を中心に図案集を発表しています。

このセクションでは、雪佳が発表した主な図案集を紹介します。中でも『百々世草』はバラエティに富み、色鮮やかで明快な雪佳様式の到達点を示す代表作となっています。近年、このうちの「八つ橋」が、ファッションブランド「エルメス」社の季刊誌の表紙に採用され、同誌の表紙を飾った初めての日本人となりました。誌面の冒頭でも「雪中竹」「狗児」「吉野」などが掲載され、自然の美を追求し表現した一人として紹介されています。雪佳の図案は時代や地域を問わず、多くの人々を惹きつける新鮮な魅力を放っていることが見て取れます。

「エルメス」社の季刊誌の表紙に採用された、『百々世草』の「八つ橋」神坂雪佳 『百々世草』原画より「八つ橋」 明治 42 年( 1909 )頃 芸艸堂蔵神坂雪佳 『百々世草』より「狗児」 明治 42 ~ 43 年( 1909 ~ 10 )刊 細見美術館蔵
「美しい図案集―図案家・雪佳の著作―」より

ぜひ、琳派の創始から雪佳へと至る300年の流れを辿り、雪佳の生み出すモダンで愛らしい美の世界を堪能してみてはいかがでしょうか。

 

​​​開催概要
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■琳派展22 つながる琳派スピリット 神坂雪佳
会 期:2022年4月23日(土)~6月19日(日)
【前期】4月23日(土)~5月22日(日)
【後期】5月24日(火)~6月19日(日)
時 間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休 館:月曜日
料 金:一般 1,500円 学生 1,200円
※現在、団体での来館予約は受けていません(団体割引料金の取り扱いは中止しています)。
※障がい者の方は、障がい者手帳などのご提示で100円引き

京都 細見美術館 The Hosomi Museum Kyoto (emuseum.or.jp
 

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