声明全文「脅迫と恫喝に、強く反対し抗議」あいちトリエンナーレ アーティスト72名、東浩紀氏は謝罪「深く反省、委託料辞退」

声明「脅迫と恫喝に、私たちは強く反対し抗議します」あいちトリエンナーレ アーティスト72名

「あいちトリエンナーレ2019」に参加している72名のアーティストが、8月3日に「平和の少女像」や天皇と戦争など、近年公共の文化施設で展示不許可になった作品を理由とともに展示した「表現の不自由展・その後」が、政治家の介入や不特定多数の脅迫などにより展示中止になったことを受け、共同声明を出しました。

また、「あいちトリエンナーレ2019」で企画アドバイザーを務める東浩紀さんは、ツイッターで今回の騒動について謝罪しました。

 

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以下、全文紹介します。

 

アーティスト・ステートメント

あいちトリエンナーレ2019 「表現の不自由展・その後」の展示セクションの閉鎖について

2019年8月6日

 

私たちは以下に署名する、あいちトリエンナーレ2019に世界各地から参加するアーティストたちです。ここに日 本各地の美術館から撤去されるなどした作品を集めた『表現の不自由展・その後』の展示セクションの閉鎖につ いての考えを述べたいと思います。

津田大介芸術監督はあいちトリエンナーレ2019のコンセプトとして「情の時代」をテーマとして選びました。そ こにはこのように書かれています。

「現在、世界は共通の悩みを抱えている。テロの頻発、国内労働者の雇用削減、治安や生活苦への不安。欧米で は難民や移民への忌避感がかつてないほどに高まり、2016年にはイギリスがEUからの離脱を決定。アメリカでは 自国第一政策を前面に掲げるトランプ大統領が選出され、ここ日本でも近年は排外主義を隠さない言説の勢いが 増している。源泉にあるのは不安だ。先行きがわからないという不安。安全が脅かされ、危険に晒されるのでは ないのかという不安。」(津田大介『情の時代』コンセプト)

私たちの多くは、現在、日本で噴出する感情のうねりを前に、不安を抱いています。私たちが参加する展覧会へ の政治介入が、そして脅迫さえもが̶̶それがたとえひとつの作品に対してであったとしても、ひとつのコー ナーに対してであったとしても̶̶行われることに深い憂慮を感じています。7月18日に起きた京都アニメーショ ン放火事件を想起させるようなガソリンを使ったテロまがいの予告や、脅迫と受け取れる多くの電話やメールが 関係者に寄せられていた事実を私たちは知っています。開催期間中、私たちの作品を鑑賞する人びとに危害が及 ぶ可能性を、私たちは憂い、そのテロ予告と脅迫に強く抗議します。

私たちの作品を見守る関係者、そして観客の心身の安全が確保されることは絶対の条件になります。その上で 『表現の不自由展・その後』の展示は継続されるべきであったと考えます。人びとに開かれた、公共の場である はずの展覧会の展示が閉鎖されてしまうことは、それらの作品を見る機会を人びとから奪い、活発な議論を閉ざ すことであり、作品を前に抱く怒りや悲しみの感情を含めて多様な受け取られ方が失われてしまうことです。一 部の政治家による、展示や上映、公演への暴力的な介入、そして緊急対応としての閉鎖へと追い込んでいくよう な脅迫と恫喝に、私たちは強く反対し抗議します。

私たちは抑圧と分断ではなく、連帯のためにさまざまな手法を駆使し、地理的・政治的な信条の隔たりを越えて、 自由に思考するための可能性に賭け、芸術実践を行ってきました。私たちアーティストは、不透明な状況の中で 工夫し、立体制作によって、テキストによって、絵画制作によって、パフォーマンスによって、演奏によって、 映像によって、メディア・テクノロジーによって、協働によって、サイコマジックによって、迂回路を探すこと によって、たとえ暫定的であったとしても、それらさまざまな方法論によって、人間の抱く愛情や悲しみ、怒り や思いやり、時に殺意すらも想像力に転回させうる場所を芸術祭の中に作ろうとしてきました。

私たちが求めるのは暴力とは真逆の、時間のかかる読解と地道な理解への道筋です。個々の意見や立場の違いを 尊重し、すべての人びとに開かれた議論と、その実現のための芸術祭です。私たちは、ここに、政治的圧力や脅 迫から自由である芸術祭の回復と継続、安全が担保された上での自由闊達な議論の場が開かれることを求めま す。私たちは連帯し、共に考え、新たな答えを導き出すことを諦めません。

あいちトリエンナーレ2019 参加アーティスト 72名 

 

賛同者一覧 2019年8月6日現在

青木美紅、伊藤ガビン、石場文子、市原佐都子、今津景、今村洋平、イム・ミヌク、岩崎貴宏、アンナ・ヴィット、碓井ゆい、エキソニモ、越後正志、遠藤幹子、大浦信行、大橋藍、大山奈津子(しんかぞく)、岡本光博、ピア・カミル、レジーナ・ホセ・ガリンド、ドラ・ガルシア、ミリアム・カーン、キュンチョメ、葛宇路(グゥ・ユルー)、クワクボリョウタ、小泉明郎、こまんべ(しんかぞく)、小森はるか、澤田華、白川昌生、嶋田美子、菅俊一、スタジオ・ドリフト、高嶺格、高山明、田中功起、津田道子、Chim↑Pom、TM(しんかぞく)、dividual inc.、ハビエル・テジェス、戸田ひかる、富田克也、トモトシ、永田康祐、永幡幸司、パク・チャンキョン、半坂優衣(しんかぞく)、広瀬奈々子、ジェームズ・ブライドル、キャンディス・ブレイツ、タニア・ブルゲラ、藤井光、藤原葵、ヘザー・デューイ=ハグボーグ、BeBe(しんかぞく)、星ヲ輪ユメカ(しんかぞく)、桝本 佳子、アマンダ・マルティネス、クラウディア・マルティネス・ガライ、繭見(しんかぞく)、三浦基、ミヤタナナ(しんかぞく)、ジェイソン・メイリング、モニカ・メイヤー、袁廣鳴(ユェン・グァンミン)、弓指寛治、吉開菜央、よしだ智恵(しんかぞく)、梁志和(リョン・チーウォー)+黄志恒(サラ・ウォン)、鷲尾友公、和田 唯奈(しんかぞく)、ワンフレーズ・ポリティクス(しんかぞく)
 

 

あいちトリエンナーレ2019  企画アドバイザー 東浩紀氏の謝罪ツイート

 

7月末からの休暇が終わり、帰国しました。休暇中に、ぼくが「企画アドバイザー」を務めるあいちトリエンナーレ(以下あいトリ)で、大きな問題が起きました。

このアカウントは、7月の参院選直後に、あいトリの問題とはべつの理由で鍵をかけていたものであり、これからもしばらくは鍵は外しません。しかし、このスレッドについては、転記し紹介していただいて結構です。そのときは、一部を切り取らず全体をご紹介ください。

ぼくの肩書きは「企画アドバイザー」となっていますが、実行委員会から委嘱された業務は、芸術監督のいわば相談役です。業務は監督個人との面談やメールのやりとりがおもで、キュレイター会議には数回しか出席しておらず、作家の選定にも関わっていません。

けれども、問題となった「表現の不自由展・その後」については、慰安婦像のモデルとなった作品が展示されること、天皇制を主題とした作品が展示されることについて、ともに事前に知らされており、問題の発生を予想できる立場にいました。相談役として役割を果たすことができず、責任を痛感しています。

僕は7月末より国外に出ており、騒動の起点になった展示を見ていません。今後も見る機会はなくなってしまいましたが、そのうえで、展示について所感を述べておきます。以下はあくまでも僕個人の、報道や間接情報に基づく意見であり、事務局や監督の考えを代弁するものではないことにご留意ください。

まずは慰安婦像について。いま日韓はたいへんな外交的困難を抱えています。けれども、そのようないまだからこそ、焦点のひとつである慰安婦像に、政治的意味とはべつに芸術的価値もあると提示することには、成功すれば、国際美術展として大きな意義があったと思います。

政治はひとを友と敵に分けるものだといわれます。たしかにそのような側面があります。けれども、人間は政治だけで生きているわけではありません。それを気付かせるのも芸術の役割のひとつです。あいトリがそのような場になる可能性はありました。

ただ、その役割が機能するためには、展示が政治的な扇動にたやすく利用されないように、情報公開や会場設計を含め、もっとていねいな準備と説明が必要だったように思います。その点について、十分な予測ができなかったことを、深く反省しています。

つぎに天皇の肖像を用いた作品について。ぼくは天皇制に反対する立場ではありません。皇室に敬愛の念を抱く多くの人々の感情は、尊重されるべきだと考えます。天皇制と日本文化の分かち難い関係を思えば、ぼく自身がその文化を継承し仕事をしている以上、それを軽々に否定することはできません。

けれども、同時に、「天皇制を批判し否定する人々」の存在を否定し、彼らから表現の場を奪うことも、してはならないと考えます。人々の考えは多様です。できるだけ幅広い多様性を許容できることが、国家の成熟の証です。市民に多様な声の存在に気づいてもらうことは、公共事業の重要な役割です。

しかし、これについても、報道を見るかぎり、その役割を果たすためには、今回の設営はあまりに説明不足であり、皇室を敬愛する多くの人々の感情に対して配慮を欠いていたと感じています。この点についても、役割を果たせなかったことを悔いています。

政治が友と敵を分けるものだとすれば、芸術は友と敵を繋ぐものです。すぐれた作品は、友と敵の対立などどうでもよいものに変えてしまいます。これはどちらがすぐれているということではなく、それが政治と芸術のそれぞれの役割だと考えます。

にもかかわらず、今回の事件においては、芸術こそが友と敵を作り出してしまいました。そしてその対立は、いま、どんどん細かく、深くなっています。それはたいへん心痛む光景であり、また、私たちの社会をますます弱く貧しくするものです。それは、あいトリがもっともしてはならなかったことです。

僕は今回、アドバイザーとして十分な仕事ができませんでした。辞任を検討しましたが、いまは混乱を深めるだけだと考えなおしました。かわりに個人的なけじめとして、今年度の委嘱料辞退の申し出をさせていただきました。今後も微力ながらあいトリの成功に向けて協力させていただければと考えています。

あらためて、このたびは申し訳ありませんでした。力不足を反省しています。そして最後になりましたが、現在拡散されている4月の芸術監督との対談動画において、多くの方々の感情を害する発言を行ってしまったことを、深くお詫びいたします。

 

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