米国のハロウィン・アートをピックアップ

鈴木拓也

鈴木拓也

100年以上前に描かれたビンテージもののポストカード(出典:The Year of Halloween)

毎年、この時期になると米国各地で、ハロウィン・アートの展示会や即売会が催されます。出される作品の大半は、地元アマチュアの手による素朴で民芸品的なものですが、中には素晴らしいアートと呼ぶにふさわしいもあります。

今回の記事では、そういった米国発のハロウィン・アートを選りすぐって紹介いたします。

 

そもそもハロウィンとは?

ハロウィンの源流は、はるか古代のケルト人(ローマ人はガリア人と呼びました)が祝したサムハイン祭にさかのぼります。具体的に紀元前何年からこの祝祭が始まったのかは、明らかになっていません。文字をもたない彼らについては、わかっていることよりも未知のことの方が多いのです。
サムハイン祭は、冬の始まりとされる10月31日の日没から11月1日にかけて行われました。この日に夏・秋の農作物が集められ、家畜の多くが屠殺されて、饗宴の場に出されました。今のアイルランドにあるタラの丘では、宴と同時並行で裁判が執り行われ、重罪となった者はすみやかに処刑されました。
この短い期間に、地上世界とあの世を仕切っていた扉が開かれ、死者が一時的に生者のもとへ還ってくると信じられました。この俗信から、サムハイン祭に関係する不気味な物語が数多く紡ぎ出されました。
やがてキリスト教が支配的な力を持つようになると、異教の祝祭であるサムハイン祭は、カトリック教会の「文化的混合主義」によって変質してゆきました。16世紀には、万聖節と万霊節という2つの祝祭に融合してしまいます。それでも、アイルランドやスコットランドでは、「オール・ハロウズ・イブ」は、後にハロウィンと名を変えて生き残り、時代の流れにそって姿を変えながらも、今に生きながらえています。

 

現代のハロウィン

日本人のわれわれが、ハロウィンときいて想起する、くり抜いたカボチャ(ジャック・オ・ランタン)、案山子、コウモリ、黒猫、魔女、仮装といった典型的なイメージは、ほとんど20世紀の米国商業界が生み出したものです。特に第二次世界大戦後、トリック・オア・トリートの風習が爆発的に広まると、お菓子メーカーはこれを商機ととらえ、ハロウィンらしい包み紙のキャンディやチョコを発売しました。最近は、チョコの売り上げ額が、バレンタインデーの日をしのぎ、米国の製菓業界最大のかきいれ時になっています。急速にハロウィンが馴染みつつある日本でも、そんな日がやってくるかもしれません。

ハロウィンにあやかったキャンディの例(出典:Wikipedia)
ハロウィンにあやかったキャンディの例(出典:Wikipedia)

 

現代米国のハロウィン・アート

20世紀に入ってしばらくたち、手紙に代わるコミュニケーション手段として電話が普及し始めました。これと歩調を合わせるかのように、「電話だけではちょっと味気ない」と考える米国人をターゲットとして、ジャック・オ・ランタンなど、ハロウィンのイコンが描かれたポストカードが、多数発売されました。その後には、ハリウッドのスタジオが女優に魔女風の衣装を着せ、ピンナップ写真を撮り始めました。こうした絵や写真の中には、芸術と呼べるレベルのものもありました。これが、現代米国のハロウィン・アートのさきがけとなります。

100年以上前に描かれたビンテージもののポストカード(出典:The Year of Halloween)
100年以上前に描かれたビンテージもののポストカード(出典:The Year of Halloween)

トリック・オア・トリートの際に使う仮装も、最初は粗雑なパッチワークもどきばかりであったものが、しだいに凝ったものが見られはじめ、ついには各地でコンテストが開催されるまでに発展しています。
そして、冒頭で述べたとおり米国の各地では、ハロウィンをテーマにしたアートの展示会が人気を集めています。展示の規模は、数人のアーティストの参加する小さなギャラリーから、数十人のアーティストの作品が並べられる、数百人を収容するイベント会場まで様々です。アートの多くは、魔女や案山子など、おなじみの「キャラ」のフィギュアや絵画です。これらの作品は展示会場で売られ、定評のあるアーティストですと、「即日完売」もまれではありません。展示会とは別に、アーティストが個人のウェブサイトを作り、通年で自身の作品を販売することもあります。

それでは、具体的に作品をいくつか紹介しましょう。
以下3点の作品は、インディアナ州ノース・ヴァーノンにあるパーフェクト・デイ・カフェ(A Perfect Day Cafe)で開催された「スチームパンク・ハロウィン・コフィン・ブレイク・アートショー」(「コフィン」は棺の意味)という展示会に出品された作品の一部です。

「ドクター・クロウ」(Dr. Crowe)
「ドクター・クロウ」(Dr. Crowe)
「スチーム・ウィッチ」(Steam Witch)
「スチーム・ウィッチ」(Steam Witch)
「ちょっと何かがおかしい」(Something's Not Right)
「ちょっと何かがおかしい」(Something's Not Right)

最初の2点の絵画は、シンディ・アンダーウッド=ヴァンデバー(Cindie Underwood-Vanderbur)、最後のアッサンブラージュは、夫のカート・ヴァンデバー(Curt Vanderbur)が制作したものです。夫妻は、10エーカーの農場に住み、馬やヤギなどの動物を世話しながら、創作活動に打ち込んでいます。農園地帯にいながらにしてアートに関れるのは、近くにマディソン・エリアという、アーティストのためのコミュニティがあるからだそうです。ハロウィン・アートに目覚めたのも、マディソンの地で毎年10月になるとその種のアートショーが催されるからだと言います。パーフェクト・デイ・カフェでの展示会開催は今年が最初で、多分に実験的なものだそうで、評判が良ければ来年以降も似た趣旨の展示会を開く考えです。

続いて以下3点の絵は、テキサス州ヒューストン在住のアーティストであるサラダ・ホルト(Sarada Holt)の手によるものです。ファンタジー色が強いハロウィン・アートの制作に長年にわたり携わっており、2009年にはハロウィンを題材にした子供向けの絵本を出版しています。彼女の作品はいずれも、おどろおどろしさの中にコミカルな味付けをまぶし、ローティーンにも受け入れられやすいものとなっています。

「納骨堂の姉妹」(Crypt Sisters)
「納骨堂の姉妹」(Crypt Sisters)
「猫、梟、茶」(Cat Owl Tea)
「猫、梟、茶」(Cat Owl Tea)
大釜使いたち(Cauldron Critters)
大釜使いたち(Cauldron Critters)

最後に紹介するのは、ウィスコンシン州ハドソン在住のメリッサ・ベランガー(Melissa Belanger)の作品です。彼女は、学生時代にアートエデュケーションとグラフィックデザインを学び、彫刻にも力を入れました。長じて以下の絵にみられるような、独自の作風を確立しています。
彼女は、今住んでいる川沿いの小さな町がもつ風土から、作品のインスピレーションを得ることが多いそうです。そして、絵にこめるスピリットは「レトロとモダンの狭間にある陽性のシンプルさ」を旨としています。実際、彼女の絵を見ると、ハロウィンというテーマであっても、陰より陽の部分が勝っています。「祝祭日の中でも、ハロウィンに特に心惹かれる」と本人は言いますが、毒気や陰鬱さは、マイルドなレベルにとどめておくよう留意するそうです。

「フランス風ハロウィン」(Frenchie Halloween)
「フランス風ハロウィン」(Frenchie Halloween)
「梟少女たち」(Hooter's Girls)
「梟少女たち」(Hooter's Girls)
「ミスター・オクトーバー」(Mr. October)
「ミスター・オクトーバー」(Mr. October)

 

参考資料:

「ハロウィーンの文化誌」(リサ・モートン著、大久保庸子訳、原書房)

Halloween art show features twist (The Republic)
Cindie Underwood-Vanderbur (Madison Area Arts Alliance)
Take Five: Melissa Belanger’s Halloween Art with a Wink (GALO)

 

協力:

Cindie Underwood-Vanderbur
Sarada Holt
Melissa Belanger

鈴木拓也

2016年7月に勤務先を退職後、フリーランスのライター兼ゲームクリエイターに。ゲームのアートディレクションを行う立場であると同時に、東西のモダンアートやインダストリアルデザインに関心を持つ。ちなみに、イギリスのゴシック建築や廃墟が好き。