昭和歌謡を愛する謎の屋台女 菅沼朋香との一問一答

松宮 宏

松宮 宏

昭和歌謡を愛する謎の屋台女 菅沼朋香との一問一答

アートとは何か? 作者が「これはアートです」と言えばアート。それが定義と言えば定義。デザインは目的があって解決がある。構造も文脈も必要。

アートは自由自在です。
とはいえ皆さん、自由自在はいいですが作品を観て「いったいこれは何か?」と思うこと多くないですか? わからない。意味不明。
じゃあ作った人に訊いてみよう。とはいえ、意味不明な作品を作った人に訊けば意味不明な解説が返ってきて、アタマは余計に混乱するかも。
でも訊いてみなきゃらはじまらない。ということで訊いてみました。
今回は菅沼朋香との一問一答。
六甲ミーツ・アートで「スタンドまぼろし」を開店中です。
語ってみれば深イイ話。

 

松宮(以後M)「久しぶりね。名古屋芸大で会った時からこんな作品作ってたっけ?」

菅沼(以後S)「はい、やってました」

M「名古屋のあとは新宿ゴールデン街でお勤めしてたよね」

S「渚ようこさんのお店です。バイトですけど」

新宿ゴールデン街の「汀」 歌手・渚ようこさんのお店。 店の名前は「渚」と同じ音をあてて、水の流れるイメージ。2003年10月27日オープン。 *引用:新宿ゴールデン街ポータルサイト http://www.goldengai.net
新宿ゴールデン街の「汀」 歌手・渚ようこさんのお店。 店の名前は「渚」と同じ音をあてて、水の流れるイメージ。 2003年10月27日オープン。 *引用:新宿ゴールデン街ポータルサイト http://www.goldengai.net

M「渚ゆうこにちなんだお店?」

S「渚ゆうこさんとは別人ですが、平成の歌謡曲というのがコンセプトのお店です」

M「渚ゆうこは『京都慕情』。いいよねえ」

(ここでSMふたり揃って口ずさむ ♪あのひーとのすーがた懐かしい、たそがーれの河原町ー)

M「菅沼朋香は昭和を表現テーマにしてるの?」

S「歌謡曲です。素晴らしい歌詞や曲がいっぱいあるのに今や注目されない」

M「それで『スタンドまぼろし』をやってるわけね」

S「はい。東京藝大の修了制作でもあるんです」

六甲ミーツ・アート芸術散歩 2016『スタンドまぼろし』
六甲ミーツ・アート芸術散歩 2016の《まぼろし屋台》

彼女は昨年東京藝大大学院美術研究科先端芸術表現専攻に入学し、今も在学中である。

S「テーマは『芸術と生活の一致』です」

あたりを見まわす。黒板にいろいろ描いてある。

M「これが芸術と生活の一致?」

S「生活にもっと昭和をですね。わたし、昭和欠乏症がひどかった時があります。それも含めて人生の再現ドラマを作ります。私の生涯をかけたノンフィクションドラマ『ニューロマン』。第1章が『都会編』、第2章が『国際編』、第3章が『移住編』。困った困った。今日より明日がもっと悪くなるばかり、それが第1章の都会編」

M「?」

芸術と生活の一致、図解
芸術と生活の一致、図解

芸術と生活の一致、図解 芸術と生活の一致、図解

 

S「名古屋の円頓寺商店街にある純喫茶『まつば』の上に住んでました。私、その商店街が大好きで、どこかでお店を始めようと探していたのに。そんなとき、栄のスカイルに行って、8階の階段の横にいる占い師に、ええ、友達がその占い師が良いと言ったので、方角とか訊ねにいったんです。そしたら『店はダメ。屋台にしなさい』って」

円頓寺(えんどうじ)商店街

円頓寺(えんどうじ)商店街
円頓寺(えんどうじ)商店街

円頓寺商店街は、名古屋で一番最初に出来て一番古い商店街。
普段平日は誰も歩いていない。お店もスーパー以外、人を見かけない。
お年寄りがパラパラ行き来するけど、若い人は皆無。
しかし、よーく目を凝らすと、洒落た店があちらこちらにここ最近できている。
スペインバル、イタリアン、フレンチはもちろん、美味い蕎麦屋や中華となんでも。
円頓寺周辺は那古野といって、昔からの良き面影を残していて、数年前から若い人や写真愛好家が頻繁に訪れ始め、商店街も大須に負けじと色んなイベントを組むようになってきた。
円頓寺の七夕は前から有名。数年前からは、年に一度のパリ祭、円頓寺クラフトマルシェが開かれて大人気で、とんでもない人の数で賑わいを見せている。演劇、路上ライブ、映画ロケなど、文化の面でも盛り上がる。
平日は死んだように見える商店街。実はとんでもなく今面白い商店街。

 

S「それでこの屋台作ったんです。まぼろし屋台」

M「これ、自分で作った?」

S「作りました。たいへんだったけど。アーツチャレンジ2013というので加藤義夫さんが選んでくれたので」

スタンド幻

M「昭和歌謡のシンボルか」

S「はい」

M「で『六甲山が泣いている』という歌は? なんで六甲山?」

S「六甲ミーツアートに出るのが決まってから作ったのですが、実はこの『六甲山が泣いている』という台詞は小林一三さんが今から64年前、朝日新聞に投書したときの言葉なんです。荒廃した六甲山を何とかしなくてはいけない、魂の言葉です」

六甲山が泣いている

 

以下、昭和27年、小林一三「六甲山は泣いている」抜粋

十何年ぶりに六甲山ホテルに投宿して、涙の出るほど荒廃している山上の風景に接し、私はいま感慨無量である。
何というなさけない風景 !
「神戸市六甲山公園」 という名称を冠することによって、痛ましい、古戦場のような懐古的詩想にふけらざるを得ないほど、現代ばなれのしたなさけない光景の中に、私はいま茫然として佇立するのである。
眼下の市街地や、遠く紀州の山岳などの眺望のために出来ておった道路添いの茶店や飲食店は、いつ破壊されたのか、跡形もない。
そして、この山上の中心を示していた記念碑ももち運ばれて昔をしのぶよすがもない。
登山者の大多数はこの記念碑を見当に行楽の休憩所として集まるのであった。
この高地に立って限界四周、東西南北の高壮なる風景をほしいまゝにするのである。
西北は雲海の如き但馬の連岳、東南は開けて大海原の空につゞく、まさに六甲山公園として天下に誇るに足る。
数万坪に近い丘陵と平地の中心には鉄筋コンクリートの休憩所や納涼台が、あらゆる金属質の材料を盗奪されて、荒れ果てている。
そして山上でたった一つの便所も閉されている。
これが神戸市長と兵庫県知事の所管するところの大公園である。
彼が宣伝しつゝある国立公園の真景である。
かつてこゝには絶えず数千の善男善女が集り来り、月見橋を渡って数十段の階段をクツ音高く勇ましく競うて登りくる子供たちを思い浮べる時、神戸市に編入した原口市長の無情と冷淡さを訴えざるを得ないのである。
...
私は今やあまり老人であり、論議する勇気がない。
たゞそゞろに過去を追憶して、その言うところ愚痴に終わるを恥ず。
それは大正時代の中頃であった。
阪神急行電鉄敷設の工事中であったと記憶する。
...
私は六甲山施設の夢を画いたのである。
ロープウエーの開通、六甲山ホテルと阪急食堂の創設、それから昭和12、13年ごろまでに漸次充実しつゝ運んだその計画が、戦争時代に立入って、あと戻りして現状に陥ったというのは、──実はその失敗をつくろう口実であって、私は今、廃虚の中心に立って、再びその失敗を操返してはイケナイと叫ぶのである。
失敗の原因はいろいろある。
私はそれを言うに忍びない。
老人は過去を語ると評されるはシャクだ。
私は一足飛びに未来を語るであろう。
もし六甲山公園は、だれのために必要であるか、何が故に必要であるかということから、こゝに大方針をきめるとせば、ことはすこぶる簡単である。
その建設費用もすこぶる少額ですむ。
それは二百有余(その半分は不在)の別荘階級の人たちの為めの経営であってはならない。
国民多数のレクリエーションとしての、行楽地としてのあらゆる施設と交通を完備すればよいのである。
そしてそれを守護することである。
しかしそこに忘れてはならぬのは大公園としての限界である。
しかもやがては国立公園として、観光地として、その美観にそむかざる方針の厳守である。
大衆本位といっても俗化と醜状をどの程度に食止めるべきかということも考える必要がある。
それを断行すると同時に、私たちは知事、市長、阪神、京阪神両電鉄の四者の共同研究によって、六甲山の新しい計画を樹立し、速かに建設すべき具体案を作成しなければならぬ。
然らざればまた再び失敗を繰返し、サイの河原に石を積む愚挙に終るであろうと断定するのである。

 

S「六甲山は1995年の阪神淡路大震災で甚大な被害を受けましたが、再度復興しました。しかし、震災から10年たった今も来客数は横這いであるといいます。原因のひとつは、インターネットや携帯電話が普及し人々のコミュニケーション手段が変化したことが影響しているのではないかと考えました。こんなに美しい山がすぐ側にあるのに、液晶ばかり見ている人がいる。私は64年前の小林一三さんと同じように。六甲山が泣いているのではないかと考えました。私は魂を受け継ぎ、いま『六甲山は泣いている』を作り、歌うのです」

M「そうなんだ」

S「ソノシート売っています。¥2,300。カラオケも入っているので歌ってください」

 

彼女は、昭和を歌うミュージシャン トヨ元家と活動し、歌謡曲の魅力を発信している。


今夜の宿は釜ヶ崎のココルーム。スタンド幻を閉めたら山を下り、
大阪の西成へ向かう。昭和から昭和へ。

ココルーム
ココルーム


菅沼朋香は懐かしい香りを辿るのです。
芸術と生活の一致、自然そして社会との関わり・・これはアートである。私は思いました。
皆さんはどう思いますか?

 

菅沼 朋香

(すがぬま・ともか) アーティスト。生活と芸術の一致を目指し、高度経済成長期以降の過剰な大量生産、大量消費に対する問題提起と提案を表現します。東京藝術大学先端芸術表現専攻M2。

トヨ元家は2017新年早々、大阪に電撃を走らせる音楽イベント『電撃的大阪! ~新春お年玉味園祭り~』(美園ユニバース)を主催。
http://antent.jp/dengeki/

 

六甲ミーツ・アート 芸術散歩2016

スタンド幻は六甲カンツリーハウス内にあります。

会 期:2016年9月14日(水)~11月23日(水・祝)
会 場 :六甲ガーデンテラス、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲山カンツリーハウス、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲ケーブル、天覧台、六甲有馬ロープウェー(六甲山頂駅)、 グランドホテル 六甲スカイヴィラ [プラス会場]TENRAN CAFE ※プラス会場「TENRAN CAFE」の展示作品鑑賞については、カフェの飲食利用が必要です。
参加アーティスト:
◯ 展示 明楽和記、飯川雄大、永長さくら、emullenuett、岡本光博、隠崎麗奈、川田知志、靴郎堂本店、桑久保徹、君平、K-5、近藤正嗣、西條茜、さわひらき、柴山水咲、菅沼朋香、角倉起美、曽谷朝絵、髙橋匡太、谷本研、タン・ルイ、遠山之寛、トーチカ、PARANOID ANDERSONS、古屋崇久、前谷開、マスダマキコ、松井ゆめ、松本かなこ、三沢厚彦、三宅信太郎、森太三、八木良太、山崎大寿、山本桂輔、横山裕一、吉田一郎
◯ 特別展示 開発好明、伏見雅之
◯ ワークショップ 飯川雄大+ばうみみ、三田村管打団?
オフィシャルサイト:https://www.rokkosan.com/art2016/

 

※トップイメージ:六甲ミーツ・アート 芸術散歩2016「スタンドまぼろし」にて 撮影/林ユバ

松宮 宏

小説家、大阪芸術大学短期大学部客員教授、ファッション&クリエイティブビジネスコンサルタント(株)パプリカ代表、著作「秘剣こいわらい」「燻り亦蔵」「さくらんぼ同盟」(講談社)、「はるよこい」(PHP)、「まぼろしのパン屋」「さすらいのマイナンバー」(徳間書店)。海外の冒険小説と藤沢周平の人情話が大好き。市井の人情、剣戟の響き、謀略、大逆転、と日夜頭を巡らせながらモダンデザインも考える日常。