Webコンテンツを解き放つIIIF(トリプルアイエフ、International Image Interoperability Framework)の可能性。

永崎研宣

永崎研宣

Webコンテンツを解き放つIIIF(トリプルアイエフ、International Image Interoperability Framework)の可能性

デジタル画像は、公開している美術館や組織・機関のWebサイトに行って見るもの。サイトごとに掲載方法が違うから、見たいサイトの使い方をちゃんと知っているのが現代人のネットリテラシー。このような状況を私たちは当然のものとして受け入れて、使い方をいちいち覚えたり、あるいは、面倒だからあまりネットには近寄らないようにしてきたと思います。

しかし、よく考えてみると、ちょっと変な話です。デジタル画像はどこでも大体同じフォーマットですし、付与されている情報もそれぞれに特徴はあるにせよ、デジタルデータなのだから、もうちょっと簡単に使えてもいいような気がします。

近年、この状況をかなりの程度解決してしまう規格が欧米を中心に急速に広まりつつあります。はじまりは、西洋中世写本だったようです。西洋中世写本は、ミニアチュールと呼ばれるその美しい挿絵だけが切り取られて別に保管されることがあり、それぞれ別々の機関に所蔵されていることがあるようです。それを、それぞれの機関が自前で公開しつつ、それを閲覧者のところでうまく統合してみられるようにする。それが、IIIFの最初の目標であり、ようやく2017年6月、誰もが使えるフリーソフトで実現できるようになりました。

 

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このように公開されている写本の画像に、別のサイトで公開されている挿絵の画像を図2のように重ねあわせて表示することができるようになったのです。そして、これらはこのまま拡大縮小したり、注釈をつけたりすることもできるようになっています。

 

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このように、別々のサイトから公開されている画像を重ね合わせつつ自由に閲覧、操作できるようにするには、サイトを超えて画像を操作できるようなルールが必要です。それを規格として成立させたのがIIIFです。 また、ここまで凝ったことでなくとも、単に、複数の画像を並べて表示して拡大・縮小したりすることもできます。

 

左がハーバード大学フォッグ美術館が所蔵する《坊主としての自画像》、右がナショナル・ギャラリー・オブ・アーツが所蔵する《自画像》。
左がハーバード大学フォッグ美術館が所蔵する《坊主としての自画像》、右がナショナル・ギャラリー・オブ・アーツが所蔵する《自画像》。

 

こちらは、米国のハーバード大学フォッグ美術館とナショナル・ギャラリー・オブ・アーツがそれぞれのサイトでIIIFに準拠して公開しているゴッホの自画像を一つの画面で並べて見ているところです。(http://projectmirador.org/demo/)以下のように、それぞれの画像を拡大することもできます。

 

こちらは、米国のハーバード大学フォッグ美術館とナショナル・ギャラリー・オブ・アーツがそれぞれのサイトでIIIFに準拠して公開しているゴッホの自画像を一つの画面で並べて見ているところです。(http://projectmirador.org/demo/)以下のように、それぞれの画像を拡大することもできます。

 

この規格には、技術的には新しいことは特にありません。ほとんどは既存の技術を組み合わせたものになっています。しかし、このルールに「皆が従うことにした」というのが、これまでとの大きな違いであり新しさです。皆、というのは、たとえば、フランス国立図書館、英国図書館、ハーバード大学、スタンフォード大学、バイエルン州立大学、バチカン図書館、ヨーロピアナなど、挙げればきりがありません。世界中の多くの文化機関が、このルールを採用しています。

このIIIFは、「皆が同じルールで画像を公開してそのルールをコンピュータから使いやすいものにすることで、サイロに閉じ込められた画像を解き放つ」ということを目指したものです。そして、そのようなことを実現できるルールというのは、つまり、「各地の画像を一つのビューワに読み込んで閲覧する」ことができ、「各地の画像がどういう関係にあるかを記述し、それに基づいて人に見せること」もできます。さらに、規格としては、画像同士の関係だけでなく、画像とそれ以外のコンテンツ、つまり、アノテーション(注釈)なども関係づけて人に見せることができます。

 

たとえば、以下の例は、金剛童子・大力金剛が登場する3つのページを並べて表示し、さらにそこにつけられたアノテーション、この場合は持物や髪型など、色々な属性をポップアップで表示しているところです。

 

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これらはいずれもIIIFという国際的な共通規格で書かれたものですので、この画像も、アノテーションも、他のサイトのビューワで読み込むこともできます。たとえば、以下の画面は、神崎正英氏が作成したビューワ(http://www.kanzaki.com/works/2016/pub/image-annotator)で同じ金剛童子を表示してみたものです。

 

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このように、一度IIIFに準拠して公開すると、どこのサイトでも表示することができますし、表示に際してそれぞれに独自の工夫をすることもできます。また、IIIFに対応するビューワは誰でも開発できますし、開発すれば、いきなり世界中のIIIF対応コンテンツを自在に扱えることになります。

また別の応用例ですが、複数の画像を重ねて表示することもできます。最近はX線で撮影したり赤外線で撮影してみたりと、いわゆるマルチスペクトル画像と呼ばれる撮影手法が絵画や古文書でよく行われるようになっていますが、これも、IIIFに対応させて公開すると、各地のビューワ上で自由に重ね合わせてみることができるようになります。たとえば以下のような感じです。

 

 

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さらに、重ねる機能を横につなげるようにしてみると、以下のようなこともできます。これはバラバラに撮影されてバラバラな画像として公開されている国立国会図書館デジタルコレクションの二つの百鬼絵巻の画像をビューワ上でつなぎあわせて比較表示している例です。このまま上下別々に移動したり拡大・縮小したりできます。

 

 

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このようにして、一度公開すると、重ねたり、注釈をつけたり、それをまた別のサイトで表示してみたり、といった様々な形で利活用できるようになるというのがIIIFの面白さであり可能性です。まさに、個々のコンテンツ力が個々の閉じられたWebサイトから解き放たれつつあると言えます。

繰り返しになりますが、技術的に新しいということではなくて、多くの文化機関が同じ規格で公開したことによって、応用のためのソフトウェアが容易に開発できるようになり、結果として様々な活用方法やサービスが、今まさに生まれつつあるのです。

音声や動画、3Dについても、IIIFに対応させる動きが始まっています。欧米発の規格ですが、マルチメディアコンテンツは国境や言語の壁を越えやすい面がありますので、我々としても、このようにして解き放たれた国内外の様々なコンテンツを対象に、活用の方法を探求する道が拓けてきているとみて、今後の展開を考えていくのが面白いのではないかと思っております。

なお、この規格の詳細については、下記のブログにて、導入方法も含めて様々な解説がありますので、より詳しいことを知りたい方はこちらをご覧ください。

http://digitalnagasaki.hatenablog.com/archive/category/IIIF

 

 

永崎研宣

一般財団法人人文情報学研究所主席研究員。筑波大学大学院でインド仏教学とWeb技術を学んだ後、東京外大アジア・アフリカ言語文化研究所にてアジア文化研究への情報技術の活用について研究を進め、山口県立大学国際文化学部にて教鞭を執った後、一般財団法人人文情報学研究所設立に参画。現在は、文化資料の研究に情報技術を活用するための教育・研究・普及活動等に携わっている。