現代サーカスの騎手カミーユ・ボワテル再来日

大歳芽里

大歳芽里

現代サーカスの騎手カミーユ・ボワテル再来日
昨年、公演全て満席にした瀬戸内サーカスファクトリー×カンパニー・リメディアの「キャバレー」、東京芸術劇場で好評を得た国際マイムフェスティバル最優秀賞作品「リメディア」。演劇、ダンスでもなくヌーヴォー・シルクの新たな形を示した舞台作品と評された。その演出をしたカミーユ・ボワテルはフランス外務省奨学制度「オール・レ・ミュール」大賞を獲得し、リサーチを目的に再び来日を果たした。今年5月東京芸術劇場のTACT/FESTIVAL2015、クレール・リュファン「眠れない・・・−L'insomnante」に出演以降は、男木島、大阪、京都に滞在した。今回は1週間滞在した大阪のレポートである。 カミーユは中津にあるオルタナティブスペースplayに宿泊し、自転車を借り日中大阪の街を見て回った。10年位前に西成に数日泊まったこともあるという。稽古場として緑橋のクリエイティブシェアを実践するスペース♭(FLAT)を借り、「アーティスト・ミーティング」(トークと食事会)も行った。このミーティングで出会った渡邉尚、森田かずよが4日後の一夜限りの即興パフォーマンス「Fissure」に参加を決めた。会場は堺にある写真スタジオをベースにしたイベントスペースSPinniNG MiLL。ここにあった様々なオブジェ(物)とパフォーマーが絡み合って、思いもつかないようなことが次々と起きていた。
アンナ・カルジナ・フォルラド(クレールの代役を務めたスペイン出身のダンサー)、コンタン・マンフロア(ベルギー在住のフルート奏者 )も参加したが当日までリハーサルはなく、カミーユの前作からテーマとなっている「fragilité(あやうさ、脆さなど)」と、新たなモチーフ「fissure(罅、割れ目など)」が告げらたのみだった。この2つの言葉の関連性をカミーユは、「壁などの強い存在に罅が入ることで、脆さを思わせる。社会の中で大抵のものが強く存在している中で、人は皆あやうさや脆さを抱えながら、バランスをとって過ごしている。」と語っている。当日パフォーマーに指示されたことは、「その場で感じて動くこと」と「自分の動きを続けながら、何があっても他の人を受け入れること」だった。短い時間の中で使う物や順番、最後の終わり方だけは決められたが、共演者がどういった動きや演奏をするかは分からない為、即興で場を読みながら進められた。 最初に観客は会場に入ると、床に置かれたガラスケースに入っている赤いドレスの女と目が合い、奥の隅に赤毛の女がいるのを目にする。会場のSPinniNG MiLL自体が明治後期のレトロな外観を残し、アンティークやモダンな家具が調和している中で、異質なものが紛れ込んでいる印象だ。フルートの音が鳴り、静かに女性(アンナ)が出てくる。踊る表情は喜びを一杯にしていたかと思うと、次の瞬間にはうつろな顔をしている。手が勝手に身体を突き動かして、彼女を操っているかのようにも見え、実在と不在の間を行き来しているようにも見える。 00016.Still014 00016.Still003 突然赤毛の女(カミーユ)が動き出し「je vous aime(あなたのことが好き)」と観客に向かってつぶやき、ドアから出て行こうとして失敗する。そこへ靴が一杯入ったカートを押し、男(渡邉)が現れる。 どんどんフルートの音色が遠のく中、男はカートを振り回し、滑らせ、靴を放り投げ去っていく。赤毛の女はその靴を拾い集め、喚きながら彷徨い歩く。 00016.Still001 00016.Still010 茶色の大きなソファーの後ろから、鹿の角を頭上に掲げた小さな女性(森田)が出てくる。その左には大きな紙が吊るされていて、赤いドレスの女(大歳)のシルエットが見えては消える。照明により輪郭がぼやけ、白い液体の中で人が動いているようにも見える。少しずつ紙を破き穴から様子を窺いはじめる。ソファの上では軽やかな動物のように、時に危ういバランスを取りながら小さな女は跳ね、寝転がり躍動していた鼓動を小さくしていく。そこへ、呼吸を合わせて寄り添うかのように人が集まってくる。
赤毛の女が詩を朗読する。どこかの境界に立ち尽くし、迷子になってしまった人のようだ。壁や天井の罅が照らされる。顔を伏せ佇む者、危ういバランスを取る者、重なりながらゆっくりと蠢く者達がぼんやりと見え、ドアが独りでに閉まり全てが闇に消えていく。舞台を見た人は悲しみや切なさ、おかしみなどを感じ、言葉にならない気持ちを持ち帰ったようだ。 00016.Still023 00016.Still030 終演後パフォーマーは相手の動きが見えないにも関わらず、自然とその場で何をやるべきか、どう振る舞うかが分かったと話していた。パフォーマーの選択に委ねる前に、カミーユ自身がテーマに沿い人物や物を選んでいる。パフォーマーは信頼が寄せられている中で、自分なりの脆さのリアリティを探し文脈を形成していく。人のもつ様々な感覚をその瞬間にどう共有できるか。社会の中に新たな価値や意味をどう見いだしていくか。カミーユ・ボワテルのリサーチはこれからも続いていく。 写真:ヤマダユウジ 文:大歳芽里
瀬戸内サーカスファクトリーPresents
「カミーユ・ボワテル ワークショップ成果発表」 【出 演】カミーユ・ボワテル、金井 圭介(サーカスアーティスト)、ワークショップ参加アーティスト 【日 程】6月27日(土)
18時開場、18時30分開演(20時終演予定) 【会 場】四国村内 小豆島農村歌舞伎舞台
(香川県高松市屋島中町91) 【入場料】前売り1,500円 当日券1,700円 【内 容】1週間のワーク成果発表とポストトーク 【申し込み先】 瀬戸内サーカスファクトリー
カミーユ・ボワテル Camille Boitel 
(プロフィール) 8歳のとき、住んでいたトゥールーズ郊外にサーカス団がやってきた。「現実とは違う世界に連れていってくれる気がして」とりつかれたように学校や通りでアクロバットの真似を始めるようになる。ある時、サーカス学校の試験を受けると決意して、母と妹といっしょに、小さなバンに乗ってパリに向かう-。紆余曲折ののち、フランスサーカス学校の名門、アカデミー・フラテリーニに入学。やがて、チャーリー・チャップリンの孫で舞台芸術のスター、ジェームズ・ティエレのもとでプロとして活動を始め、現代サーカスとフィジカルシアターの世界で頭角を現す。2002年、カミーユはカンパニー・リメディアを立ち上げ、同年、ヨーロッパのすぐれたアーティストを奨励する「サーカスの若き才能」コンクールで優勝。その後も、多分野をまたぐ作品を世の中に発表しつづけ、とりわけ2010年、フランス有数のフェスティバルMIMOSで舞台作品「リメディア」が最優秀賞を獲得。フランスの文化省、外務省、劇場の関係者のほか、アーティスト間においても、どのジャンルにもおさまらない若手の鬼才演出家として、ボワテルの名前を挙げる人は枚挙にいとまがない。
今回ご協力頂いた方々 中津playのヤマダユウジ氏 http://www.play-osaka-nakatsu.com/ 緑橋♭(FLAT)の花村周寛氏、森嶌正紀氏 https://ja-jp.facebook.com/pages/FLAT/134253670054081 堺SPinniNG MiLLの小野晃蔵氏 http://www.spinningmill.info/