発言:文化政策が日本を救う 全国国美術商連合会会長 淺木正勝 (毎日新聞 2017年10月3日 朝刊より)

淺木 正勝

淺木 正勝

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麻生太郎財務大臣に要請

 戦後70年余、我が国は経済優先でその歩みを進め、国内総生産(GDP)はある時期には世界第2位にまで成長した。しかし、バブル崩壊や中国経済の躍進等もあり、高度成長期を過ぎて、長きにわたる低迷期(よく言えば安定期)が続く現状である。今後の世界経済の中で、他国に遅れることなく、さまざまな分野で先進国として進み続けることの重要性は明らかだろう。少子高齢化や製造業の衰退といった不安要因の中で、今後も成長・発展を持続していくために、私は文化・芸術の大きな価値と、それを実現するための文化政策の意義を訴えたい。文化・芸術は経済的な利益をつぎ込む「余裕」の対象ではない。人の心を豊かにし、癒やし、真の意味での人間らしさを確立する、という本質的な力を持っており、そこには、経済的利益を生み出すいくつもの要因が存在している。

 我が国は、その戦後の出発点として、文化国家の建設という大きな目標を設定した。国土が狭小で、天然資源に乏しい島国である我が国が国際社会の中で生き残るためには、その選択は不可避なものだろう。実際、現在に至るまで文化庁のホームページにはほぼ毎年「文化芸術立国」という用語が盛り込まれている。にもかかわらず、それが実現する気配はない。この10年間、国の文化庁の年間予算は1000億円をわずかに超えたレベルで、まさに安定(?)している。お隣の韓国は2500億円で、文化政策に資源を集中していることが明らかであるし、あのフランスは4200億円と圧倒的。
さらに、近年中国や東南アジア諸国が文化・観光資源の積極的な開発・紹介に努めていることも周知の事実である。

 とはいえ、予算だけを増やしても文化振興が成功するわけではない。文化庁とその本省である文部科学省のみならず、内閣府、総務省、外務省、経済産業省、国土交通省、厚生労働省、農林水産省といった各省庁及びその所轄団体、さらには東京都をはじめ各地方公共団体がそれぞれに文化振興策を展開している。先般、文化芸術振興基本法が改正され、その中で「文化芸術施策の総合的、一体的かつ効果的な推進を図るために「文化芸術推進会議」を設け、関係行政機関相互の連絡調整を行う」とされているが、これは従来の縦割り文化行政の弊害が、当局者にもようやく認識されたものと考えられる。

 そこで、私は「文化芸術推進会議」レベルではなく、単なる連絡調整業務にとどまらず、各行政機関の文化政策を一元化し、効率的、効果的に運用する組織として、文化庁の拡大ではなく、全く新たに「文化省」を設立することを提言したい。
 この文化省は、文化政策の管制塔として、文化・芸術に関わる多様な政策のネットワークのハブとして機能することになる。世界に誇るべき伝統文化の保護育成や紹介にとどまらず、我が国の豊かな自然と四季の移ろい、安定した治安のよい社会、先端技術、国民のホスピタリティーなどさまざまな文化資源を複合的に活用し、さらに魅力ある日本を創っていく、文化のプロデューサーとしての役割を新たな文化省には大いに期待したい。

菅義偉官房長官に要請
菅義偉官房長官に要請

 

林芳正文部科学大臣に要請
林芳正文部科学大臣に要請

淺木 正勝

1941年12月16日東京都生まれ。相模屋美術店で8年間修業。1984年、父・栄太郎の跡を継ぎ丸栄堂社長に就任。近・現代絵画を中心とした美術商の道を一筋に歩む。2006年、創業百周年を迎えた株式会社東京美術倶楽部の代表取締役社長に就任。日本の優れた美術品の保存や継承、作家の育成など様々な活動を通じて日本美術界の活性化に尽力している。 (現在)株式会社東京美術倶楽部代表取締役会長。東京美術商協同組合相談役。五都美術商連合会代表。全国美術商連合会会長。東京美術倶楽部鑑定委員会委員長。