多様な「つながり」をテーマに 出身地大阪で16年ぶりの大規模個展を開催 大阪中之島美術館「塩田千春 つながる私(アイ)」
ものや場所に宿る「不在の中の存在」を糸で紡ぐ、現代美術家の塩田千春さん(1972年生まれ)。出身地大阪で16年ぶりとなる大規模個展「塩田千春 つながる私(アイ)」が、大阪中之島美術館で開催されています。
ベルリンを拠点に国際的に活躍する塩田さんは、「生と死」という人間の根源的なテーマと向き合い、糸を使ったインスタレーションを数多く発表してきました。今展は、パンデミックを経て気づかされた多様なつながりに思いをはせて企画されたもの。タイトルの「つながる私(アイ)」には、「私/I」、「目/EYE」、「愛/ai」の3つの意味が込められています。
約1700㎡、天井高6mの空間を生かした、6点のインスタレーションは圧巻。絵画やドローイング、立体作品、映像など、これまで30年以上にわたる塩田さんのアートワークをたどることができます。
エスカレーターで5階に上がり最初に出会うのが、赤い糸と赤いドレスのインスタレーション《インターナルライン》(2022/2024)。降り注ぐような赤い糸の中を歩きながら、ぞわっとするような不思議な感覚にとらわれます。
この作品は、第二次大戦中、オーストリアの強制収容所にとらわれた囚人男性が、女性職員からパンをもらって生き延び、戦後、その女性と結婚したというエピソードから生まれました。塩田さんにとってドレスは、「第二の皮膚であり人間の身体を表すもの」。運命の赤い糸で「つながる愛」を感じさせます。
続いて一転、水盤のある空間に白い糸を張り巡らせたインスタレーション《巡る記憶》(2022/2024)へ。糸はまるで脳内の神経細胞ニューロンのよう。糸の中から滴り落ちる水滴が、水面に波紋を広げ、それまで映り込んでいた作品を揺らします。水はやがて再び空間に戻り、巡り続けます。
今回、塩田さんの出身地大阪での展覧会に合わせて出品されたのが、帰る場所としての〝Home〟を表現したインスタレーション《家から家》(2022/2024)です。20代の時にベルリンに渡った塩田さんにとって、大阪もベルリンも〝Home〟。
「この作品の赤は、血液の赤です。血液には家族や国籍、宗教などいろんなものが含まれていますが、それらは心地良さを感じる一方、越えられない壁のようにも感じます」(塩田さん)
《つながる輪》(2024)は、「つながり」をテーマに広く一般から募集したテキストメッセージ1500枚以上が作品になっています。目に見えない糸で、みんな誰かとつながっている―コロナ禍で気づいた多様なつながりが可視化され、かろやかに舞い上がるように糸で結ばれています。今展を象徴する壮大なインスタレーションに、「つながる私」の魂も揺さぶられ、大きな愛に包まれるようなあたたかい気持ちに。
インスタレーション《他者の自分》(2024)は、「あいち2022」で元看護学校の解剖学標本室で発表した作品から新たにインスピレーションを得て制作されました。塩田さんは、臓器移植をした友人や自身の抗がん剤治療で感じた不思議な身体感覚を作品に込めたといいます。
目には見えないつながりや「不在の中の存在」を一瞬にして感じさせるインスタレーションは必見。学生時代の絵画からドローイング、立体作品、映像、そして現在進行形の小説の挿絵まで塩田さんのこれまでの道のりを展覧できます。
■「塩田千春 つながる私(アイ)」
会期:開催中〜12月1日(日)
休館日:月曜日
開場時間:10:00〜17:00(入場は16:30まで)
会場 :大阪中之島美術館 5階展示室
観覧料:当日 一般2,000円(平日:1,800円)、高大生1,500円、中学生以下無料
問い合わせ先:06-4301-7285(大阪市総合コールセンター)
あなたのデスクトップにアートのインスピレーションを
ARTS WALLは、常にアートからの知的な刺激を受けたい方や、最新のアートに接したい方に、ARTLOGUEのコラムや、美術館やギャラリーで今まさに開催中の展覧会から厳選したアート作品を毎日、壁紙として届けます。 壁紙は、アプリ経由で自動で更新。