生きる希望を見出すために。「第8回横浜トリエンナーレ」で新たな扉を開けよう

第8回横浜トリエンナーレ
サンドラ・ムジンガ 《Ghosting》2019 (installation view), Photo: David Stjernholm, ©Sandra Mujinga, Croy Nielsen Vienna (Austria), The Approach London (UK) and David Stjernholm

3年に一度開催される現代アートの祭典「横浜トリエンナーレ」。2001年にスタートし、200を数える国内の芸術祭の中でも長い歴史を誇っています。第8回を迎える今回も、国際的に活躍するアーティスティック・ディレクター(以下AD)を招き、世界のアーティストたちがいま何を考え、どんな作品をつくっているかを広く紹介します。

左:リウ・ディン 右:キャロル・インホワ・ルー 撮影:大野隆介 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

第8回横浜トリエンナーレでは、北京を拠点として国際的に活躍するアーティストとキュレーターのチーム、リウ・ディン(劉鼎)とキャロル・インホワ・ルー (盧迎華)をADに迎えます。全体テーマは「野草:いま、ここで生きてる」で、「野草」というタイトルは日本にゆかりの深い中国の小説家の魯迅(ろじん)の詩集『野草』(1927年刊行)に由来します。

環境破壊や戦争、経済格差や不寛容など、私たちの世界は今日多くの問題を抱えています。二人のADが企画する本芸術祭は、野の草のようにもろく無防備で、しかしこうした状況を逞しく生き抜こうとする一人ひとりの姿に目を向けます。世界中から集まったアーティストたちの作品を通して私たちの生き方をふり返り、制度やシステムの限界を超えて未来を生きる希望をみなさんと共に見出したいと、ADの二人は考えています。

ADのキャロル・インホワ・ルーは「2021年12月中旬から2年間、ADとしてトリエンナーレの準備に取り組んできました。多くのアトリエを訪問し、欧州、オーストラリア、韓国、日本など、各国各地の作家、学者、評論家と対話を深めてきました。パンデミックが終息した世界から学ぶことは多岐にわたります。私たちは何度も日本を訪れ、日本のアート界や学術界の仲間と交流を重ねてきました。日本の美術史や現状を深く学び、多くの収穫を得ました。私たちが実践しているアートは、90年代末以降のグローバリゼーションの進展と共に発展してきました。過去20年以上、世界の芸術領域での実践が、私たちのアートに対する認識に与えた影響は多大なものです。

横浜トリエンナーレの仕事は、私たちに過去の歩みを顧みる、そんな機会を与えてくれました。世界が再び有機的に繋がり始めたとき、最も重要なのは度重なる危機に対し、どう自ら考えて立ち向かえるかです。個に立脚した国際主義の精神のもと、人々がコミュニティを形成し、イデオロギーの制約や国家・民族の隔たりを一旦横に置き、アートを通じて国境を越えた友情を築くことが急務であり、かつ可能だと信じています。

今回の横浜トリエンナーレは、アートと現実社会との繋がり、アートと思想との結びつき、アートが歴史的に刻む物語に焦点を当てています。「野草:いま、ここで生きてる」と題した交響曲は、多種多様なレイヤーからつくられています。「野草」とは砂、嵐、川、石、夜空、遠いところ、私たちが感じる世界そのものです。過去から今に至る歴史を通じて、私たちは暗闇といばらを洞察し、同時に花びらと星の光も見ています。第8回横浜トリエンナーレの開幕まで残り2カ月となりました。この贈り物を皆様に捧げたいと思います。私たちの生命の息吹が野草のように逞しく、いつまでも続くことを願ってやみません」と語っています。

ヨアル・ナンゴ 《GIRJEGUMPI: The Sámi Architecture Library in Jokkmokk》2018, Photo: Astrid Fadnes

「野草」展には67組の多様な国・地域のアーティストが参加します(2024年1月17日現在)。このうち新作を発表するアーティストは20組、日本で初めて紹介されるアーティストは30組です。 例えば、北極圏の遊牧民のサーミ族の血をひき、人と自然の新たな共生のかたちを示すヨアル・ナンゴ(Joar NANGO)、トランスジェンダーとして既成概念にとらわれない多様性のあり方を社会に問うピッパ・ガーナー(Pippa GARNER)、南アフリカ社会に潜む家父長制や植民地主義と、そこから生まれる不平等をテーマに立体作品を制作するルンギスワ・グンタ(Lungiswa GQUNTA)、ウクライナのリヴィウで結成され、戦時下の市民生活をリアルに伝えるオープングループ(Open Group)など、いずれも日本初出展の注目のアーティストたちです。

また、横浜駅から山手地区におよぶ広いエリアでは、「アートもりもり!」と称し、「野草」の統一テーマのもとで展開される文化・芸術活動拠点の展示やプログラムを楽しむことができます。

例えば「BankART Life7」(BankART Station周辺、みなとみらい線新高島駅)、および「黄金町バザール 2024」(京急線日ノ出町駅・黄金町駅間の高架下スタジオやその周辺スタジオほか)は、「野草」展とのセット券で鑑賞可能です。 その他、写真家の石内都の「絹の夢―silk threaded memories」(みなとみらい線馬車道駅コンコース)など、無料で楽しめる展示も盛りだくさんです。 海と山、新しいまちと歴史あるまち—さまざまな横浜の素顔に触れながらアートと対話する、そんな横浜ならではの街歩きを楽しむことができます。

蔵屋美香

横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクターで横浜美術館館長の蔵屋美香は、「この横浜トリエンナーレが歩んできた23年間の歴史を振り返ってみると、まず2001年9月2日にオープンした第1回展は、その9日後に9.11が発生しました。それから2011年の第4回は、東日本大震災のショックからまだ社会が立ち直れていない中での開催となりました。前回2020年の第7回展は、コロナ禍の真っ最中での開催となりました。それから3年が経ちまして2024年の現在、我々の社会は戦争、それから気候変動、経済格差や不寛容といった大きな問題に直面しています。

横浜トリエンナーレはこの20年あまり、世界の人々が作ったアート作品を通して、あらゆる地域のあらゆる方々の異なる意見と対話をし、個々人がいかに手を取り合い、こうした世界をどう生き延びるかということを考えてきました。ADのリウ・ディンさんとキャロル・インホワ・ルーさんもこの志を同じくしています。

これまで10年ほどの間横浜トリエンナーレは、横浜美術館の美術館会場を中心として開催をしてきました。第8回展では、再び大きく街に広がる大きな横浜トリエンナーレを目指していきたいと考えています。それにあたり、今回は二つの柱を作ることにしました。まず、全体の大きな枠組みとして、第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」という大きな枠組みがあります。この枠の中の一つの柱として、ADのお二人がキュレーションする国際展同タイトルの「野草:いま、ここで生きてる」という展覧会が、横浜美術館ほか全5会場で開催されます。

もう一つの柱が、地域で長く活動をしてきたアート拠点が統一テーマ「野草」のもとで行う「アートもりもり!」という展示です。これら二つの柱を持って、横浜駅から山手それから下町に至る大きな市内の各所を用いた、街に広がる大きな横浜トリエンナーレを作っていきます。また、無料のプログラムや展示を始め、子供さんやファミリー層、それからアートは初めてちょっと不安だしドキドキしているというビギナーの方にも優しい工夫をたくさん凝らしています。横浜トリエンナーレは、当初から現代アートの良質な入門編となるという目標を掲げてきました。今回からまたこの目標に丁寧に立ち返って、様々な方のアートとの出会いをサポートしていきたいと考えています。

横浜美術館 撮影:新津保建秀

また、ADが行う国際展のメイン会場となる横浜美術館は3年の間、大規模改修工事のため休館していましたが、本企画をもってリニューアルオープンを迎えます。実は国内の多くの芸術祭が、長距離を歩いたり、階段を上り下りしなければならないとか、お手洗いがないなど、かなり体力のある方を前提とした作りになっています。こうしたことに対して、美術館会場のメリットを生かすということも、今回我々がアピールしていきたいことの一つです。

リニューアルした横浜美術館は、完全バリアフリー、多機能トイレや授乳室を備え、お子さんと寛げるスペースなども用意しています。長距離を歩かず一つの会場の中でたくさんの作品を安心できる環境でご覧いただける、美術館会場を使ったトリエンナーレならではのメリットも、これから広く訴えていきたいと思っています」と述べています。

また、蔵屋は「気候変動や戦争、不寛容や経済格差。私たちの暮らしを支えていた価値が、いま大きく揺らいでいます。見る人それぞれの解釈を許す現代アートの作品は、見知らぬ誰かとその不安を分かち合い、共に明日への希望を見出すためのよき仲立ちとなります。すべてがわかったわけじゃないけれど、新しい扉を少しだけ開けた気がする。会場を訪れた方たちにそんな感覚を持ち返っていただきたくて、横浜トリエンナーレは次の10年への一歩を踏み出します」と力強く語っています。

 

以上、2024年3月15日に開幕する「第8回横浜トリエンナーレ」についてご紹介しました。前売チケットは1月18日10時から発売が開始しています。ぜひ会場に足を運んで、横浜トリエンナーレが発するポジティブなエネルギーを体感してみてはいかがでしょうか。

 

■第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」

会期: 2024年3月15日(金)~6月9日(日) 

開場日数:78日間 [休場日:毎週木曜日(4月4日、5月2日、6月6日を除く)]

開場時間:10:00–18:00(入場は閉場の30分前まで )

※6月6日(木)~9日(日)は20:00まで

会場:横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3-4-1)

 旧第一銀行横浜支店(横浜市中区本町6-50-1)

 BankART KAIKO(横浜市中区北仲通 5-57-2 KITANAKA BRICK & WHITE 1F)

 クイーンズスクエア横浜(横浜市西区みなとみらい2-3 クイーンズスクエア横浜2F クイーンモール)

 元町・中華街駅連絡通路(みなとみらい線「元町・中華街駅」中華街・山下公園改札1番出口方面)

お問い合わせ:ハローダイヤル050-5541-8600(9:00-20:00)

第8回 横浜トリエンナーレ (yokohamatriennale.jp)

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